さすらい買い物
サラが仲間になったとはいえ、まだティファとトウマはサラの事をよく知らない。
という事で。
「んー、久々に来たけど空気最悪ね、ここ」
「あの、ティファさんや? ここは一体……」
「ブラックマーケット。法的にアウトな物から倫理的にアウトな物まで何でもござれな色々とアウトな場所よ」
「嘘でしょこの女」
親睦のためにブラックマーケットにやって来た。
これには流石のトウマとサラもドン引きである。
「さっ、買い物するわよ」
「wait。激しくwait」
「何よ、人がテンション上げてるのに」
「俺は、行きたく、ない」
「えー……面白いのに」
「面白くねぇわよ」
「ちぇっ……まぁいいわ。わたしはここで買い物してるから、2人は適当な所行ってていいわよ」
流石にトウマとサラの2人がかりでガチの拒否をされれば無理矢理連れて行く気も失せるというもの。
ティファは舌打ちしながら一人ブラックマーケットの奥地へと進んでいった。
あのロリっ子、無駄に胆力ありやがる。
「あー……サラ、どーする?」
「そうね……少し離れた所に大きなモールがあった筈だしそこ行きましょ」
「賛成」
という事で一旦仕切り直し。
ここは普段ティファとトウマ、そして新たにサラがよく利用している、ロールがいる役所があるコロニー5-31-2ではなく、商業コロニーと呼ばれる場所だ。
感覚的には都会のショッピングモールやら有名ブランドの店やら庶民向けの店やら、そういった買い物に特化した店が集まった街がそのままコロニー規模になったもの。
家族連れでコロニー間を移動してプチ旅行なんて物も珍しくないこの時代。少し見渡せば子連れの親子なんてのも見える。
そんな商業コロニー内の裏の裏、ブラックマーケットへと嬉々として入っていったロリっ子第一号はさておき、トウマはロリっ子第二号が足用にと借りたレンタカーに乗り、近くのショッピングモールへと向かった。
「しっかし、この時代も車があるんだな……なんかヤケにハイテクだけど」
「車なんてどの時代も似たようなもんでしょ」
「いや、俺の時代の車はガソリンで動いてたし、そんなオート運転も無かった」
「えっ、マジ? ガソリンってあれよね、油の一種の……あんな文字通りの化石燃料使ってたわけ? しかもオート運転も無いって……信じらんない」
「じゃあ発電はどうしてんだって聞こうかと思ったけど、そういや電気は全部核融合炉とダイソンスフィアで発電してるんだっけ……あとズヴェーリ」
この時代の車は電気自動車であり、しかもオート運転をしてくれるAIが搭載、免許が無くてもオート運転で動かせば犯罪にはならない等々、車の安全性が確保された事による規制の緩和等もされている。
ちなみに今回借りた車も運転はすべてAIにおまかせ。運転席のサラはハンドルすら握らずに端末を眺めてる始末。
そんな電気自動車のエネルギー源である電気は基本的に核融合炉によって各コロニーで発電されており、コロニー密集地では恒星をソーラーパネルで囲っての発電方法、ダイソンスフィアを使って電気を確保していたりする。
発電方法から車まで、全てがトウマにとっては新鮮だったが、自分の中の最新の知識が全部化石の知識になっているのは少し悲しかった。
「なんかこう、あんたと話してると、何ていうのかしら……ジェネレーションギャップ? みたいなのが出てくるわね」
「サラからしたら古代の人間だしな、俺」
ほんと、タイムスリップした気分。
いや、タイムスリップしてたんだった。
「ほんと、便利になったもんだよなぁ。飯だって機械にカートリッジ付けたら作られるんだろ? すげーもんだよな」
「凄かないわよ。むしろあんたの時代はどうだったのよ」
「んなモンしっかり自分で材料用意して作ってたさ。工場とかだと機械が作ってたけどな」
「用意って……カートリッジじゃなくて?」
「おう。人工の食材なんてなかったぞ。家畜とか養殖とかはあったけど」
「えっ、じゃあ天然の食材ばかり食べてたわけ!? 何それすっごい贅沢……」
「俺の時代だと寧ろ人工の食材の方が贅沢だったけどな」
「価値が逆転したってこと……? そんな事ありえるんだ」
ちなみに、食事に関してはトウマが一番最初に感じたカルチャーショックである。
何せ、初日にティファが食事を買うと言いながら変な物を買って、手渡してきた物がカートリッジである。
それを渡された時のことは鮮明に思い出せる。
「はいこれ。好きなの選んでいいわよ」
「…………あの、これ、なんすか?」
「え? 何ってフードカートリッジだけど」
「……フードカートリッジって、なんすか」
「…………えっ、嘘っ、まさかあんたの時代ってコレすらないの!? 冗談でしょ!!?」
「この現実の方が冗談にしか思えないっす…………うわっ、これ刺し身の絵が描いてある…………」
フードカートリッジ。スーパーなどで売っている一般的な食品であり、これを調理機に皿と一緒にセットして数分待つとあら不思議。お皿の上にはできたてのご飯が誕生する。
刺し身なんかの生の食材もそうやって調理するのである。
このカートリッジの中身の質や量によって値段は変わるため、高級な食事のカートリッジなんかは相応に高い。
お菓子やジュースなんかは会社独自のカートリッジと会社独自の調理機を使って作ったものを袋詰したりして売っているので、カートリッジがあるからこの会社のお菓子がいつでも作れる、という訳ではない。
それに、最近の調理機はそこら辺のセキュリティも万全である。
「はー…………カートリッジじゃない食事ねぇ。食べてみたいかも」
「別に材料があれば俺も作れるぞ。機会があったら作ろうか?」
「マジ?」
「マジ。けど、あんま美味くないと思うぞ。カートリッジから出た飯の方がうめぇよ」
「この時代、カートリッジ以外で作ったモノ食べれるだけ贅沢よ。あたしだって食べたことないのに…………」
「そうなのか。なら色々探してみるか」
サラの最後の言葉はよく聞こえなかったが、そんなに食べたいなら是非も無し。
コロニーのスーパーでは食材なんて見たことなかったが、商業コロニーにはあるかもしれない。
試しに調べてみる。
「ふーん……一応少ないけど売ってるみたいだな。おっ、米あるじゃん米。でも炊き方知らねぇんだよなぁ…………って調べりゃ出てくんじゃん。科学技術マンセー」
「米って炊くものなの?」
「うーんジェネレーションギャップ」
サラにとっては米なんてカートリッジから出力されるものである。
こんなところでジェネレーションギャップなんて感じたくなかった、と呟いているとショッピングモールに着いたので2人でまずは天然食材確保に出向くのであった。
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