これが、日常でしょう

 サラ・カサヴェデス。年齢は18歳。諸事情より今年から傭兵を始めたニュービーであり、偶々漂流していたラーマナを拾った激運少女である。

 そんな彼女も傭兵になってからやっていた事はジャンク拾いに配達。トウマを拾う前のティファと同じようなことだった。


「まぁ、そういう訳で折角ネメシス拾ったんだからそれでガンガン稼ごうって思って。幸いにもラーマナのスペックは凄かったしね」

「ラーマナなら見てからでも攻撃を回避できるし、火力だって盾のミサイルを当てりゃ相当なもんだ。ズヴェーリ程度なら何とかなる、か」


 ラーマナ内部に保管されていたらしい戦闘ログの映像を見てそんな事を呟くトウマ。

 サラの戦い方は、まぁ酷いものだった。ラーマナに乗っていて敵が小型〜中型のズヴェーリだったから何とかなっているが、大型は厳しい物だろう、としか言えない戦い方。

 何も知らない初心者がやりがちな、よーく狙うために足を止める戦い方だ。


「えぇ。その点、あんたに……ラーマナの元パイロットに出会えた事には感謝ね。おかげで、宝の持ち腐れじゃなくて済むわ」


 この時代におけるネメシスの主流の戦い方は、どちらかと言えばサラのやっていたような足を止めてよく狙いを付け、そして撃ったらその場を離脱する一撃離脱戦法とも呼べるものだった。

 確実に一撃を当てて確実に避ける。もしくは、マシンガンなどの弾幕を張って敵を近付けないようにする。そうする事で弾代の節約と修理費を抑える、対ズヴェーリ戦特化とも言える戦法。

 PvP兼PvEの戦法として確立されたトウマの戦い方はどちらかと言えば異端。理想ではあるが、それをやるにはネメシスを操る練度が足りないというのが現状だ。


「ン、まぁ……俺もサラに教えられてここの主流の戦い方も理解できた。対人戦は無理だが、ズヴェーリ戦ならどうにかなる戦い方だな」

「そういうこと。でも、やっぱり中型や大型はネメシスの火力が足りないから、それを数で補うのが主流だったわけ」

「そもそもライフルって武器種が使われないのは……」

「少しでも照準を誤魔化すためね。ライフルで核だけ撃ち抜くなんて、ラーマナみたいに繊細な操作ができる高性能なネメシスじゃなきゃ土台無理よ」


 ここではライフルという武器種はあまりメジャーではない。

 ネメシスオンラインには様々な武器種があった。エネルギーを放出する武器こそ無かったが、ハンドガンからガトリングガンまで、はたまたボルトアクションライフルからアンチマテリアルライフルまで。

 それぞれの武器に特徴があり、それぞれの武器に長所があった。

 その中でもトウマが愛用していたライフルという武器種は敵のコクピットや関節に当たれば、まず間違いなくその部位を吹き飛ばせる、言うならばクリティカル攻撃特化の武器だった。

 ティファがスプライシングの武器としてライフルを選んだのは、弾代の節約が主な理由だったが、ここのネメシス乗りは基本的にマシンガンなどの弾幕武器を好む。


「そもそも対人戦が滅多に起きないからズヴェーリに滅法強いマシンガンで十分。ライフルは弾代の節約にはなるけど滅多に当たらんと」

「って考えるのが普通ね。だからあたし、実は結構ネメシスを扱う才能があるんじゃって思ってたのよ。思ってたのよ……」

「わ、悪かったって……でも、才能があるのは間違いないさ。まだネメシスに乗って10時間も経ってないのに俺を驚かせたんだ。早々できるもんじゃない」


 ネメシスオンラインは戦闘の数をこなしてこそのゲーム。トウマなんかは何万戦もPvPを行い、勝率8割という異常な成績を叩き出している。

 だが、始めたばかりの頃は勝率なんて5割も無かったし、それが悔しくて様々な人の視点のリプレイを見て己の技にした。

 そこまでやって1人前。一万戦はPvPをやって上手くなるための工夫を考えて、ようやくトウマのようなランカーを驚かせるような一撃を与えられる。

 ネメシスの戦いというのはそれ程までに経験値がモノを言う戦いなのだ。

 その過程をすっ飛ばしてトウマに少しでもヤバいと思わせたサラは十分に才能がある。最早才能の原石だ。


「あんたに言われても嫌味にしか聞こえないわよ!」

「そう言われても……」


 傭兵のネメシスを使った対人戦なんて極希にしか起きないのに、軍人を超える練度を持つトウマが異常であり、それをあっと言わせたサラも異常なのだと伝えたいのだが、中々上手く伝わらない。


「ソイツの言う事は素直に受け取っときなさい。実際、ソイツの腕は宇宙一に近いレベルよ」


 もやもやしていると、作業着姿で油に汚れたティファが懐中電灯片手にやって来た。

 ここはティファの船の居間のようなスペース。後部格納庫と操縦室、その他客員の私室へと繋がる場所であり、冷蔵庫等もある場所なので自然と人が集まる。


「とは言っても……」

「ゲームで腕上げた、なんて言うやつにそう言われてもムカつくのは分かるわ。実際わたしだってサラの立場ならムカつくだろうし」


 と、言いながらティファは小型の懐中電灯をトウマの目に向けてフラッシュ。


「何の光ッ!?」


 ちなみに、トウマは現代から、ラーマナはゲームから実体化して漂流した物であるとは既にサラに伝えてある。

 サラはそういう事もあるんだ程度で済ませていた。

 ついでに言うと、サラは当初ティファとトウマはソウイウ関係だと思い込んでいたので、それも解消済みである。狭い船の中男女2人きりというのは、そういう目で見られがちなのである。


「ホント、こんなんでも腕だけは確かなのよねぇ。あっ、そうそう。ラーマナの整備やっといたわよ。まだあまり出撃してなかったし、パーツの交換とかは必要なさそう」

「そう? ならよかった」


 サラの戦い方が一撃離脱戦法だったが故に、各部位の負担が少なく、ラーマナは細かい整備さえしておけばしばらくの出撃には余裕で耐えられる状態だった。

 とはいえ、これからサラの戦い方はトウマの戦い方に近づく。そうなるとやはり、各部の摩耗は激しくなる。


「でも、回数を重ねればガタが来るわ。幸いにもパーツの宛はいくつかあるし、戦闘で破壊されなきゃどうとでもなるわ」

「そうだったのね……でも、それって」

「もし一回でもどっかの部位が吹き飛んだりしたら、直した数だけ性能は落ちていくと思っておいて。可能なのは現状維持だけよ」


 パーツだけの交換なら、幸いにも既存のパーツを加工するなり、金属用の3Dプリンター等でパーツの複製をしてしまえばそれでいい。しかし、部位をまるごと取り替えたりしていったら性能はガクッと下がるだろう。

 ラーマナは細身のネメシスでありながら推力が馬鹿みたいに高く、更にパワーも並のネメシスを越える、正に超高性能機だ。

 スプライシングと取っ組み合いでもしようものならスプライシングがバラバラに解体されかねん程の超高性能機。

 ハッキリ言ってサラのような未熟なネメシス乗りには勿体無い性能だ。だが、勿体無いほどネメシスのスペックが高いからこそ、サラの腕もラーマナに追いつこうと躍起になり、高まっていく。


「そんじゃ、わたしお風呂に入ってくるから。トウマ、覗いたら殺すわよ」

「覗かねぇよそんなぺちゃぱ」


 トウマの額にレンチが生えた。


「サラも根詰めるのは程々にね」

「え、えぇ……こ、これ、死んだわよね…………」


 レンチが額から生えてぶっ倒れたトウマと笑顔で風呂に向かうティファ。

 地獄か?


「いででで……あんのロリっ子め……俺じゃなかったら死んでるっての……」

「なんで死んでないの……?」


 ちなみにトウマは生きていた。

 額から生えたレンチをきゅぽっと引き抜き、テーブルの上に置く。

 ちなみに、トウマの額はレンチ型に陥没していた。だからなんで死んでないんだよ。


「まぁ、ともかく、だ。サラは才能がある。俺と模擬戦を続ければ負けなしになるだろうな」

「ふん。いずれあんたも超えてみせるわよ。ところでおでこ大丈夫……? 物理的に凹んでるけど……」

「知らん。そのうち治るやろ」

「普通治らないわよ……」


 こいつらに囲まれて大丈夫かなぁ、とちょっと先の事が不安になるサラなのであった。

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