なかまがふえるっていいな

「どうだった? あんたの愛機を使ってた子」

「ん? まだまだだな。現状なら、何度戦っても俺が十割勝つ」


 模擬戦終了後。周辺のズウェーリの残骸を集め格納庫に戻り、スプライシングから降りたトウマに対してかけられたティファの言葉がそれだった。

 模擬戦の感想。それは誰に聞かれても変わらない。

 まだまだ未熟。あの程度の腕ならラーマナ以外のバランスが取れた機体に乗ったほうが戦績が良くなる。

 それがトウマの持った感想だった。


「けど、途中キレてからの動きはそこそこ良かった。猪みたいな突進だったけど、動かない木偶の坊よりは数百倍マシだ」

「あんた驚いてたもんね」

「あぁ、驚いたよ。途中から急に人が変わったみたいにラーマナの馬力と推力に物言わせやがった。しかも途中で俺のセイバーを防ぎやがったしな。ありゃ才能あるよ」


 これから対人戦やNPC戦を何度も続けていけばラーマナでいい感じに癖を付けて上へ上へと上り詰めることができるだろう。

 だが、それはネメシスオンラインでの話だ。

 この世界において対人戦なんて早々起きやしないし、NPC戦なんてものはない。

 唯一シミュレーターがあるが、あんなのはお遊びみたいな物だ。キレたサラならトウマと同じくAランクは楽勝だろう。

 だからこそ。


「あー、勿体ねぇ……あれでちゃんと自分のレベルに合った相手に揉まれれば多分ランカーにはなれただろうに……」

「ふーん……あの子、そんなに才能ありそうなの?」

「あぁ。それに、俺自身、ラーマナの事をすっぱりと切り捨てるいいイベントになったよ」

「切り捨てるって……いいの?」


 愛機というのは、そう簡単に切り捨てられるもんじゃない。

 スプライシングという愛機を作り上げたティファだからこそ分かる。それを切り捨てるなんて、早々できやしないから。

 でも。


「いいさ。だって、俺にはもうスプライシングが……ティファの最高傑作が居るんだ。ラーマナはあくまで元愛機。未練を断ち切るいい機会さ」


 トウマは、過去よりも今を選んだ。

 ラーマナに思うところが無いわけではない。だが、この時代に漂流して、この時代でネメシスに乗るキッカケとなり、今も尚自分と共に戦い続けてくれるスプライシングの方をトウマは選んだのだ。

 それを聞き、ティファは少しだけ嬉しそうにはにかんだ。

 スプライシングとラーマナの性能差は歴然。それは、見てるしかできなかったティファにだって分かっていた。

 それでもトウマが迷い無くスプライシングを。自身が作った最高傑作を選んでくれた事が嬉しかった。


「なら、この子をもっと強くしないとね。ラーマナにだって負けないくらい」


 スプライシングのパーツの殆どはもうジャンク品ではなく、正規のルートで流通しているパーツに置き換わっている。

 それでも、世代遅れなパーツを幾つも使わざるを得なかったため、現時点での性能は第三世代ネメシス程度に収まっている。

 だが、スプライシングはパーツを変えていけば現行のネメシスに匹敵できる下地がある。

 そうなれば、トウマの腕も合わさり、きっとスプライシングは常勝無敗の機体となるだろう。


「楽しみだな」

「そうね。あっ、そうだった。アンタが戻ってきたあたりでサラから通信来てたわよ。後のことはわたしがやっとくから、操縦室で通信繋げたげて」

「ん、わかった」


 最後に1度スプライシングの装甲を撫で、トウマは操縦室へと向かっていった。

 それをティファは見送り、スプライシングを見上げる。


「……まだまだね、わたしも、あなたも」


 トウマは褒めてくれた。それは素直に嬉しかった。

 だが、だからといってここで満足するなんてことはできやしない。

 ここからスプライシングのパーツを変えていけば現行のネメシスに負けないスペックにはなる。

 それでいいのか? それで満足していいのか?

 その問いに対する答えは否。

 ティファは今日、一つの完成を見た。

 スプライシングのコンセプトを極限まで追求し、完成させた機体、ラーマナ。

 アレを、電子の海から実態を持った反則を超えてこそ、スプライシングは初めて完成するのだ。それを成してこそ、天才メカニックなのだ。

 それを今日、実感できた。


「ラーマナ。あれに追いつかないと……でも、追いつくだけじゃ駄目。追い抜かして……あなたを、完成させる。わたしの最高傑作として……トウマの機体として。この世界で最強のネメシスとして」


 まだその案はない。

 だが、行けるはずだ。

 ラーマナが現実にある以上、アレは現実の法則に則っている。ならばそれに追いつく事も、追い抜かすことも可能なのだ。

 だから、諦めない。

 黒き宙を舞う白き流星を、この黒き彗星が追い越すまでは。


「さーてっと……ラーマナに追い付くにはまずはラーマナの事を知らないと」



****



 サラからの通信。その内容は端的に言えば、トウマの事は気に食わない、実に気に食わないが、ラーマナを使う上で必要な事に気が付かせてくれたのは感謝する、という言葉だった。

 一方トウマはトウマの方でサラに軽くアドバイスと、口悪く色々と言い過ぎてしまった事を謝罪して通信は終わり……の筈だった。


「で、確かサラだったかしら? あんた、ラーマナの整備はどうする気?」


 ティファが通信に割り込み、サラへと聞いた。


『別に……適当な店に任せるけど。そういえば今まで整備してなかったし、そろそろ出しておかないと……』

「言っとくけどその機体、殆どのパーツが流通してない規格外品よ。悪い店に当たればバラされて売られるか、良い店に当たってもワンオフ機の整備なんて馬鹿みたいに高くなるわよ? それこそ毎回ネメシスを買ったほうが安いぐらいにはなるでしょうね」


 ティファの言葉にサラが凍りついた。

 ゲームでは整備なんて考えたことも無かったが、現実で考えればネメシスなんて精密機械の塊は整備しなければいつしか壊れる。

 スプライシングだって一出撃毎にティファの丁寧な整備が入っている。

 最初の出撃こそ弾を補充しただけだったが、それ以降はパーツの交換と入念なテストに加えて丁寧な整備を欠かしていない。

 それによりスプライシングは毎回カタログスペックを超えた性能を要求するトウマの腕について行けているのだ。

 ラーマナも勿論整備は必要だ。必要だが、その機体は全身が未知のパーツで構成されている。

 バラして売ればパーツ一つだけでもどれだけ高値で売れることか。


『で、でも、あたし整備とかできないし……』

「でしょうね。だから提案よ」

『提案……?』

「あなた、わたし達と組みなさい。分け前はわたし達が7であなたが3。代わりにラーマナの整備も弾代も受け持ってあげるわ。あとこの馬鹿があんたにラーマナの扱い方をレクチャーするわ」

「おい、勝手に……いや、いいけどさ。後進を支えるのも先達の役目だしな」


 報酬が7:3。しかし出撃毎の整備も弾代もこちらが負担する。

 もしラーマナの整備や弾代をマトモに払えば、サラのお財布は常時核の冬が訪れることだろう。

 だが、ティファが整備できれば、少なくとも貯金はできる。ズヴェーリ退治を専門にすれば報酬の3割だけだとしても、1年ちょっとマトモに働けば一生慎ましく暮らせる程度の金は手に入るだろう。

 ラーマナを整備してもらえるかバラされるかの賭けに出るか、そもそも賭けに勝ったとして毎回毎回法外な額を払っていくか。

 そう考えれば、自然と答えは絞られてしまった。


『…………呑むわ。あんま悪い条件じゃないし』

「そっ、ならよかった。じゃあ後でラーマナをウチの船の後部ハッチに格納しなさい。整備しといてあげる」

『はいはい。あー、儲けが……でも、後から問題が起こってからじゃ遅いし、仕方ないか……』

「勿論、組むのが嫌になったらいつだって解消してくれてもいいのよ? その後どうなるかは知らないけど」


 なんだかサラを騙しているような気分になるが、まぁ正当な取引なのだろう。ティファはそんな詐欺するような人ではない、というのはこの短い間一緒にいただけでもよく分かっている。


「ま、まぁ、あんま悪い条件じゃないと思うぞ? ティファは天才だしいいやつだからな。しっかりと契約すれば騙すことなんて絶対しないし、俺だってラーマナの扱い方を十分以上に教えてやれるからさ」

『……その授業料込で3割、と考えるしかないわね。まぁ、3割でも前より倍以上稼げるし、拾い物でそこまで稼げれば十分儲け物か』


 サラも何とか不満を飲み込んで納得できたらしい。

 元々拾い物。それで前よりも稼げるなら十分も十分。ほっといても機体を整備してくれるおまけ付きなのだから我慢するべきだ。


「じゃあ、これからヨロシク、サラ」

『えぇ、よろしく』


 こうして、ソロ傭兵であるサラ・カサヴェデスがトウマとティファの仲間に加わったのであった。


―――――――――――――


後書きというか蛇足です。


Q:ス○ロボ的なゲームに出た場合、トウマとサラの機体ってどうなるの?

A:2人の乗せ換え可能機体としてスプライシング&ラーマナが選択可能。スプライシングは性能低め武装多め、ラーマナは性能高め武装少なめな機体になるのでプレイヤーの好みで乗せ換えてください。

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