反逆の素人
模擬戦が始まり、サラのラーマナからペイント弾が撃たれる。トウマはそれを悠々と回避し、スプライシングの全速力で宙域を飛ぶ。
サラは動き回るスプライシングになんとか照準を合わせてペイント弾を撃つが、あっさりと回避される。
そして。
「そら、お返しだ!」
スプライシングの動きながらの一発が放たれ、ラーマナが構えていた盾にヒットする。
『きゃっ!? こ、この、ちょこまかと!!』
「ちょこまか動くのがその機体だろうが!!」
トウマがサラのズウェーリとの戦いを見てキレた理由。
それはサラがラーマナの足を止めて戦っていたからだ。
ラーマナとスプライシングのコンセプトは同じ。それは、足の速さを活かした高速戦闘を得意とすること。
無駄にブーストを吹かすだけでは駄目だが、それでもこの機体で足を止めるよりはマシ。
なるべく止まらず、動きを読まれることなく、着実にダメージを与えていく。それこそがラーマナとスプライシングの強みなのだ。
サラはそれが分かっていない。
「ほらほらどうした、そんなんじゃいつまで経っても俺に攻撃なんざ当たらねぇぞ!」
『こいつっ……!!』
ライフルの弾は確かに速い。だが、常に足を動かして距離を取っていれば発射のタイミングを読んで回避することはできる。
トウマは何万戦もの経験で、初心者がどんなタイミングで弾を撃つかを何となく読める。故に、サラの弾は一切当たらず、トウマの弾だけがラーマナの盾を汚す。
「そもそも、ネメシス戦は常に動いておくのが鉄則だ。その鉄則も守れないようじゃ……!」
そろそろ遊びも終わりでいい。そう思ったトウマの一撃がラーマナが構えた盾の範囲外、機体の露出している部分に当たる。
『あ、当てられた!?』
「当てたんだよ」
ネメシスのパーツの中には重装甲の機体もあった。だが、その装甲はスーパーロボットのようにどんな弾も弾けるほどの強度は無かった。
故に、足を動かすことこそがネメシス戦の基礎となる。
常にブースターを吹かしてある程度の速度で移動を続ける。そうしないと負けるというのは、NPC戦をやってても分かることだ。
その基礎を活かさなければただの的となり、秒で負けるのがラーマナという機体だ。
高速機動戦闘における読み合い。それこそがネメシス戦の一番面白い所なのだが……
「……まぁ、所詮はこの程度だよな」
もう、付き合う必要もないだろう。
NPC戦よりも燃えない戦いで怒り任せの説教すらする気も失せた。
そもそも。この世界において、ネメシス戦というのは早々起こるものじゃない。それこそ軍に入ってでもいない限りは。
NPC戦というものすら経験できない人間に基礎を求めることすら間違っているのだ。
故に、トウマは抱えていた怒りすらその辺に捨て、最早足すら止め、元愛機に弾を叩き込むため、トリガーを引いた。
『このっ……!! ナメんじゃ、無いわよ!!』
しかし、直後にラーマナがブースターを吹かし恐ろしい速度で加速。
ペイント弾を盾で弾き、真っ直ぐ直線に向かいながらスプライシングへとペイント弾を放ってきた。
「っ!?」
急激な変貌に思わずトウマは全力で機体を横に飛ばし、ペイント弾を回避する。
が、それを読んだのかはたまた偶然か。軌道を変えたラーマナが盾を構えたままスプライシングの盾に激突。
盾と盾をぶつけ合ったまま、ラーマナが推力に任せてスプライシングを連れ去っていく。
「ぐッ……!! こいつ、急に……!!」
『あんたが何者かなんて知らないけど、癪なのよ!! ずっと上から目線で!!』
「上から目線で物を言わせる腕しか無い初心者が言う事か!!」
すぐに腰にマウントされているセイバーを掴み、アクティブに。
そして真横にブーストを吹きラーマナの側面に潜り込んでセイバーを振るうが、反射神経だけでそれに追いついたラーマナがライフルを手放し、セイバーをアクティブにしてスプライシングのセイバーを防ぐ。
「マジか!?」
『なまっちょろいのよ!!』
PvP戦ではほぼ防がれない、防げないトウマの割と本気の一撃。それを初心者に防がれたことで思わず硬直してしまう。
普通はそこで武器を捨ててまで攻撃を防ぐ判断はできない。その後の事を考えてしまい、それが一瞬の判断を邪魔するから。
このパイロット、腕は無いが反射神経と度胸は明らかに一級品のソレを超えている。
思わず硬直した時間は1秒もない。だが、その隙を見逃されずラーマナはほぼ零距離の状態で加速し、膝蹴りをスプライシングに叩き込んで一気に距離を取った。
「ぐあぁっ!!?」
体に急にかかった恐ろしいまでのGと衝撃に声が漏れる。
この世界に来てから初めてのマトモなダメージ。その一撃にただの一般人であるトウマの体力がゴッソリと削れる。
パイロットスーツが無ければあの一撃で気絶していただろう。
「チィッ……! ダメコン……必要なし、だが!」
Gが収まった所でモニターを確認して口を開いたが、モニターに写ったライフルを拾い直し構えるラーマナを見て無意識の内に体が動き、ラーマナのペイント弾を躱した。
更にラーマナは……いや、サラは何かを掴んだのか、ブーストを吹かして飛び始めたスプライシングをラーマナの推力に任せて追い始める。
「追ってくる……!?」
『さっきまで散々っぱらこっちの事を見下してた癖に随分と必死じゃない!?』
マズい、とトウマの直感が警笛を鳴らす。
ネメシスオンラインの時にもよくあった事だ。
完全に流れが相手側に向いてしまい、負けの気配が漂ってくる事は。
このままでは確実に負ける。流れを掴まれて負ける。
「……まぁ、負けねぇんだけどな」
だが、それはこのまま流れを掴ませていた場合、だ。
ここで流れを取り返せなければランカーにはなれない。
久々のタイマンでの対人戦に、そしてしてやられた事実にヒートアップした頭を一瞬でクールダウンさせる。
冷静になれば後は簡単だ。トウマは即座にブーストを吹かす向きを変え、全速でラーマナへと突撃する。
『ちょっ!?』
「ほぉらよ!!」
まさかの反転にサラは反応できない。その隙に一瞬で接近したスプライシングがラーマナを盾越しに思いっきり蹴り飛ばす。
更に蹴り飛ばされたラーマナの後ろにブーストを巧みに使って回り込み、盾で思いっきりラーマナを横からぶん殴る。
『っ、ぁぁっ!!』
「体にかかるGは流石にゲーム時代には無かったからな……これは要警戒だっ、と」
ぶん殴られて吹っ飛んだラーマナに追撃のペイント弾を放つが、ラーマナはそれを何とか盾で防ぎ、お返しだと言わんばかりに突っ込んでくる。
もちろん、そんな物はまともに相手にせず、盾を使って体当たりをいなし、ライフルを撃ちながら背中を向けつつ距離を取るラーマナに追撃をする。
が、ラーマナはなんとか旋回して盾でペイント弾を受け止め、真っ直ぐ逃げるのではなく横に向かってブーストを吹かし、ライフルの射線から外れたところでセイバーを構えた。
『このぉっ!!』
セイバーを構え突撃。
それを見たトウマは勝ちを確信し、足を止めて突撃と共に振るわれたセイバーを盾で受け止める。
そして相手が距離を取る前にライフルの銃口を無理矢理盾の内側にねじ込み。
「悪いな。俺の勝ちだ」
ペイント弾をラーマナに叩き込んだ。
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