時空を超えて

 サラの乗機である白色の機体。それが、黄色のカメラアイを力強く発光させながら宇宙を飛んでいる。

 望遠機能でズームしてないため細部は見えないが、出撃したその機体を見てトウマは思わず舌を巻いた。

 速い。

 スプライシングの全力なんかよりも遥かに。恐らく、推力が馬鹿みたいに高い。

 そう思って……どこか、サラが乗る機体に違和感を覚えた。


『擬態してるのは……アイツね! まずは中型から!』


 武装は盾とライフルのみ。スプライシング同様、恐ろしくシンプルな機体だ。

 シンプル過ぎて……シンプル故に、違和感がある。

 いや、違和感ではない。

 この感覚は、見覚えだ。

 見覚えがある。


「なん、だ……? ティファ、あの機体、ズームで映せるか?」

『いいわよ。ちょっと待ってて』


 ――いや、見覚えなんてちゃちなものではない。

 そう思ったのは、認めたくないからだ。

 アレがあそこを飛んでいるなんて、認めたくなかったからだ。

 アレが、この現実で自分の手以外で宙を飛んでいるところなんて、見たくなかったからだ。


『白い、ネメシス……どういうこと、どのパーツも見たことがない……』

「見たことなくて当たり前だ。アレは……」


 ティファが分からなくても、トウマが分からないわけがない。

 何故なら、あの機体は。


「機体名は『ラーマナ』……俺がネメシスオンラインで使っていた、俺だけの愛機だ」


 トウマの、愛機だからだ。

 その愛機が、知らない者の手で宙を飛んでいる。


『ラーマナ……でもそれって、あんたがゲームで使っていたっていう機体じゃないの?』

「そうだ、けど……どうして、あいつが……」

『……漂流者ってのは謎が多いわ。それでも、空想の存在が実体化したなんて、あり得ない。いえ、そもそも漂流者ってのがあり得ない存在だから、もう何でもありって事……?』


 ティファが頭を抱える。

 そもそも漂流者が巻き込まれる次元の渦のようなものだって、漂流者本人の証言だったり、偶々その場に居合わせた者の証言だったり……実際に機材を持ち込んで観測した例なんて一件もない。

 そもそも次元の壁を越えて物や人が現れるという事がそもそもめちゃくちゃなのだ。あり得ないの一言で目の前の現象をバッサリ斬り捨てる事はただの思考停止だ。

 そもそも思考停止したところで現物が宙を飛んでいるのだから。

 トウマとティファの困惑をそのままに、ラーマナは宙を飛び、ズヴェーリと交戦を始めるのであった。


****



 ラーマナという機体はトウマがネメシスオンラインを始めてからすぐ己の機体に付けた名前だった。

 その時のラーマナはただの初期機体。パーツだって全プレイヤーが持っている物で構成されていた。

 だが、ズヴェーリを倒してパーツを手に入れ、クエストをこなしてパーツを手に入れ。そうして手に入れたパーツを一つ一つ吟味し、己の理想にラーマナを近づけていった。

 大火力は魅力的だった。だが、それだけでは物足りなかった。だから己の射撃の腕が出る上に当たりどころが良ければどんなネメシスも落とせるライフルを選んだ。

 鈍重な機体よりも細身で速い機体が好きだった。だからラーマナのパーツは装甲を犠牲に速度を出せる物にした。

 それだとすぐに負けてしまう。だから、全身を隠せて尚且つ軽く頑丈な盾を持たせた。

 そうしてコンセプトを決め、軽量のスピード特化機体として文字通り『完成』させた機体。それがラーマナだった。


『そう……あんたなりに試行錯誤して作った機体だったのね』


 そう、試行錯誤しまくった。

 試行錯誤しまくって、そして見つけた己の答え。それがラーマナという機体。トウマの理想を体現した機体だった。


「……でもさ、ティファ。ゲームの中で組める機体って真似できるんだよ」

『うん』

「で、俺って何万人の中の上位百人に入ってたのよ」

『で、ニート直前と』

「そうそう。で、さ。そうなると色んな奴が真似るんだよ。俺のラーマナを」

『あー……まぁ、そうね?』


 そう、真似られた。

 いっぱい真似られた。トウマがランカーになってから、トウマのラーマナをパクった機体はたっくさんでてきた。


「でさ、真似るのはいいんだけど……それで俺に突っかかってくる馬鹿が居たんだわ。機体は同じなんだから後はプレイヤースキルだー、とか言って」

『……うん?』

「俺さ、そいつら全員ぶっ潰した。全体勝率は八割強だけど、ラーマナをパクった馬鹿に対する勝率は九割九分だったんだよ。時折化物が来て負けたけど」

『えっと……凄い、わね?』

「だからさ、なんつーか……別にラーマナが誰かに使われたことを悲しむとかはしないんだけど……」


 トウマは今目の前で飛ぶラーマナに視線を戻す。

 あぁ、久々に見る愛機はなんとも。

 なんともまぁ。

 溜め息を吐いて通信をサラとラーマナに繋げて──

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