さすらい傭兵

 トウマの顔面がぶん殴られる事件はあったものの、それから数日後。

 ロールから再び連絡が来たので、役所へと向かう事にした。そして、話を聞いたのだが……


「あのー……ズヴェーリの売却権だけでも譲ってもらえると」

「ねぇトウマ。実は隣のティウス国って所には安くて楽しめる庶民向けのエンタメコロニーがあるのよ。わたし達の貯金なら1年くらい滞在できるから行かない?」

「いいじゃん。ついでに小遣い稼ぎでズヴェーリ狩ってから行くか。馬鹿な依頼を出したコロニーの近辺以外で」

「ですよねぇ!」


 なんか馬鹿な事を言われた。もちろん却下。

 こちらとてプロだ。譲りはしない。

 ということで、また数日後。


「条件をもぎ取ってきましたよ……ただ、本来はあと数組の傭兵を雇うつもりだったそうですけど、予算の都合上、あと一人雇うだけにしたみたいです」

「別に構わないわよ。他の傭兵の事を考えなくて済むから楽だし。さしずめ、コロニーのお上様はそれで手が回らないようになって後悔しろとか思ってるんでしょうけど……相手が悪かったわね」

「キングズヴェーリでも出なきゃ一人でやってやるよ」

「キングズヴェーリなんて出てきたらそもそも周囲100光年は立ち入り禁止になりますよ……」


 ちなみに、キングズヴェーリとは大型ズヴェーリよりも更にデカいズヴェーリの親玉とも言える存在で、ゲーム上ではレイドボスだった存在である。

 流石にこいつは硬すぎるため倒すことはできず、周囲のつゆ払いをして時間を稼いでいると味方NPCからの核攻撃で終わり……というのがゲームの流れ。

 一応、一部の火力特化の変態がこれをネメシスの火力だけで討伐したり、動画投稿者やらが烏合の衆を集めてプレイヤーだけで撃破したりと、倒せないことはない存在ではある。

 が、流石にこの世界だとそれは無理だ。トウマだってやった事はあるが、スプライシングの……いや、ゲーム時代に使っていた『アイツ』ですら、それを成せたことはない。

 まぁそもそも、この世界ではキングズヴェーリなんてここ百年は出てきてないし、出てきたら出てきたで最早災害扱い。軍が総力をあげて戦うような事になる。なのでトウマには関係ない話だ。


「……ちなみに、もう一人傭兵が来るのよね? それって誰なの?」

「えっと……無名の方ですね」


 無名の傭兵。それは別にネームレスというわけではなく、有名ではないというだけ。


「最近になって中型ズヴェーリや大型ズヴェーリを狩り始めた方らしいですよ。お二人みたいですね?」


 その言葉を聞き、二人はまさか、と考える。

 トウマと同じ存在。ネメシスオンラインのプレイヤーが現れたのでは、と。


「少し前までは普通の傭兵だったんですけど、本当に最近……トウマさんがやってきた辺りから急にズヴェーリ狩りにやる気を出したとか?」

「ふーん……もしかしてそいつもアンタみたいな漂流者を拾ってたり……は、ないか。一人って話だし」

「だな。まぁ、どんな奴が横に来ても構わねぇよ。俺とスプライシングなら問題ない」


 と、いうことで二人はロールの顔を立てるため、無名の傭兵とタッグでズヴェーリ狩りを行うことになった。

 傭兵の仕事は受けたら即行動。スプライシングと船への補給は予め済んでいるため、とっととコロニーから出発。ハイパードライブによる超高速移動で馬鹿な依頼を出したコロニーへ向かうことになった。


「ところでトウマ」

「ん?」

「あんた、ネメシスを乗るゲームではどんな機体に乗ってたの?」

「俺の機体?」


 ゲームで使っていた機体。

 もちろん忘れるわけがない物のため、トウマはすぐに答えた。


「コンセプトはスプライシングに似てるよ。機動力に重きを置いて、内蔵武装は無し。手持ちのライフルと盾で戦う紙装甲機体」

「ふーん、あんたらしいわね」

「どーも」


 ネメシスオンラインは対戦ゲームなだけあり、どんな機体が強い、弱い等の環境が存在した。

 その中でもトウマの乗る機体はどちらかと言えば環境からは向かい風。けれども扱えればトップ層にも通用するタイプの職人気質の機体だった。

 足が速いが故に敵の攻撃を避けやすく、されども基礎的な事を極めなければ攻撃を当てることもできず避けきることもできず。

 そんな機体だった。


「機体名は『ラーマナ』。スペックとしては……スプライシングと比較すると、素人が動かせば機動力が倍近く違う感じになる、くらいかなぁ」

「何そのバケモノスペック……」

「俺ならスプライシングでラーマナの八割の機動力を叩き出せるけど」

「何したらそうなるのよ」

「コツがあるんだよ、加速にはな」


 サラッと答えを出すなら、宇宙空間での慣性の使い方が上手い、というだけなのだが。

 それはともかく、久々にゲーム時代の愛機であるラーマナを思い出し、懐かしいなぁと呟くトウマ。

 大学をサボり組み上げた愛機に乗り込み、ただただPvPに走り時には血尿流す程度にのめり込んでPvPし続けたあの日。


「血尿流してる時点でゲームにかける熱量としては異常なの理解しなさいよニート予備軍」

「ごもっともで」


 しかし今はその血尿が生活の役に立っていると思えばあの日流した血尿も報われるだろう。


「血尿が報われるって何よ」


 トウマはさぁ? と首を傾げるだけだった。

 ニート予備軍の馬鹿な話を聞いたティファは馬鹿なやつ、と呆れながら自分が座る小型船の操縦席に備えている菓子入れの中からお菓子を取り出し、つまんだ。

 汚い話をした後だが、それでもお菓子はうまいもんだ。


「あっ、ずりぃ。俺にもくれよ」

「適当に取りなさい」

「んじゃ失礼して」


 トウマも適当に菓子入れに手を突っ込んで一つ菓子を取り出した。

 出てきたのはチョコレート。なんと期間限定、ビーフストロガノフの煮汁入り。


「…………やっぱいいわ」

「そう? 別に遠慮しなくてもいいのに……あら、このチョコまだ残ってたのね。折角だし食べよっと」


 この日、トウマの中でティファはバカ舌という括りに入ったのだった。

 ちなみに先程までティファが食べてたのはラーメン味のマシュマロである。

 味覚狂ってんのかこのロリっ子。



―――――――――――――


後書きになります。

今回も軽く設定をば。


・キングズヴェーリ

大型ズヴェーリよりも大きいズヴェーリ。マ○ロスより少し大きいくらいのサイズをしている。

ネメシスオンラインでは『物質化された宇宙線』というアイテムを使う事でレイドバトルを起こし、他プレイヤーを呼んで戦うことができた。

マ○ロスとガチンコしたら普通に主砲とかダイダ○スアタックで粉砕されるしマ○ロス・クォーターのマ○ロスキャノンでも普通に爆散する程度の強さ。逆に言うとそれくらいのデカブツでようやく粉砕できる強さ。この世界にマ○ロス・クォーター並の火力を持った戦艦は存在しません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る