舞い降りる元愛機
半々魂
ティファとトウマの2人が受ける依頼は、主に中型~大型のズヴェーリの討伐。
それをありえない程の効率でこなしていくのが新たな日常であった。
その結果、弾薬費を差っ引いてもティファのお財布事情は割ととんでもない事になっていた。横から収支を覗き混んだトウマが割とドン引きする程度には。
「うわボロ儲け。楽しんで金稼げるとかなにこれ楽園?」
「命懸けの戦いを楽園って言えるのはアンタだけようっへっへ」
「ティファ、すげー笑いが漏れてる」
「おっと失敬」
二人のここ数日の稼ぎはズヴェーリくん達の尊い犠牲により、一般市民の年収を遥かに超えていた。思わずティファから汚い笑い声が漏れるくらいには儲けていた。
体を張ってるのはトウマなのだが、スプライシングに乗って戦うのはトウマの趣味。
それ故にティファは金を稼いでスプライシングのパーツを買える。トウマはスプライシングに乗れる。そんなwin-winな関係で金を荒稼ぎしていた。
ちなみに中型ズヴェーリは普通、傭兵が徒党を組んで数機のネメシスで戦うような相手であり、間違っても単機で戦うような相手ではない。
しかしそこはネメシスオンラインプレイヤーのトウマ。中型なんて朝飯前、大型だってアクビしながら潰せる。
それ故の荒稼ぎだった。
トウマはゲーム内では今のティファの全財産の数倍は軽く持っていたのだが、それはただのゲーム内通貨。金持ちなんて実感は無かったが、ゲーム内でしか見ることがないような預金を自分が稼いだと思うと流石に震えてくる。
「ふふふ。この前までの自転車操業が嘘だったみたいに金が余りに余りまくってるわね……ふふふ。こんだけあればスプライシングを第三世代機並にカスタマイズできるわよ」
「マジ? じゃあちょっと俺にもパーツとか武器とか選ばせてくれよ」
「えぇ、いいわよ。さて、あの子をどんな風にしてあげようかしら」
中型、大型ズヴェーリの討伐といったネメシスを使った高額依頼を総ナメし、スプライシングは更に強くなる。
しかもここまで派手に動けばある程度噂やら事実が広まっていくわけで。
「お二人とも、最近傭兵協会の方で有名になってますよ。天才メカニックと天才パイロットの天才コンビだって」
「まっ、そう言われるのも当然ね」
「ティファが作って俺が戦うってな」
「うわー、天狗みたいに伸びてる鼻が見えますね。叩き折りたい」
「本音出てるわよ本音」
「おっと」
いつの間にやらティファとトウマは二人一組の凄腕の傭兵として名を馳せる事となった。
そろそろ周りの目が鬱陶しくなってきた頃合いだが、2人が傭兵協会に滞在する時間はそこそこ短いので、未だ誰も絡んできてはいない。
絡まれたらティファはまだいいとしてトウマは一撃で伸されてしまう。
「……で、ロール。あんた、わたし達を呼び出してなんか用なの? いきなり褒められたからなんかこそばゆかったけど」
「えぇ、一件ほど。とあるコロニーからお二人にズヴェーリ討伐のために赴いてほしいって要請があったんですよ。お二人とも、最近派手にやってましたし?」
コロニーからの要請。それを聞き、ティファがうんざり……とはいかないが、露骨に嫌な顔をした。
そのようなイベントは少なくともネメシスオンラインにはなかったため、トウマは事情を把握しきれていない。
「……一応説明しとくと、コロニーのトップから安く手早く高品質にズヴェーリを駆除しろって面倒な要請よ。相場より報酬は八割減」
「なんだそりゃ。弾代で報酬全部消えるだろ」
そんなのまかり通っていいのか、と思ってしまうが、まかり通ってしまうのだ。
いや、まかり通すと言うべきか。
ちなみに、何故ただの役所の一職員であるロールがこんな事を依頼しているかというと、単純にティファの幼馴染だから。本来なら傭兵協会などを経由してしっかりと依頼を出さねばならないのだが、そこすら怠って身内の泣き落としを武器にしたらしい。
ロール的にはこれのおかげで普段のタスクが他の人に割り当てられ楽できてるのでいいのだが、ティファからしたら冗談ではない。なんで身内に無駄に厳しい言葉を使わねばならんのだ。
「現ナマは払えないけど、このコロニーに対して色々と有利な条件をつけてくれるのよ。輸入、輸出の相場を有利にしてくれたり」
まぁ、権力者同士で色々と取引があり、その結果依頼がまかり通ってしまうのだ。
もっとも、報酬に関しては八割減と言ったように、殆どが間に挟まったアレコレで搾取されるのだが。
「あと、コロニーの権力者に名前を覚えられますよ。よかったですね」
「ティファ」
「いざという時、金で雇われて鉄砲玉にされる候補という意味よ」
「拒否しようぜティファ。俺がキレてコロニーをスプライシングでぶっ壊す前に」
「ははは、流石にお二人でもそんなこと……無理、ですよね?」
できない事はない。
スプライシングでコロニーの重要区画に乗り込み、コロニー維持のための設備を片っ端から破壊すればいいだけなのだから。
軍もネメシスを持ち出して止めようとするだろうが、トウマならばそれに対しても無双が可能。
2人が道徳を捨てて悪辣の限りを尽くせば、きっとこの近辺のコロニーは宇宙の藻屑に変わることだろう。
腕がある分、宙賊より質が悪い。
「そ、それはともかく……どうにか受けてくれませんか? こっちも上から色々と言われてて。ちなみに報酬はこれぐらいです」
「……ズヴェーリの死骸の売却権と軍からネメシスの廃棄パーツの譲渡。それからスプライシングの弾代と推進剤代、船の燃料費、依頼中のコロニーへのドッキングの優先権をくれるってなら手を打ってあげるわ」
困った顔のロールを見て、ティファが溜め息を吐きながら条件を告げた。
その条件を聞き、ロールは顔を顰めた。
「うへぇ……」
「一応言っとくけど、ロールが言ってきたからここまで譲歩してるのよ? 世話になってるし」
ティファが告げた条件は、本来であればほぼ当たり前。一部に関しては本来金を払って行う廃品回収を態々報酬として行うなんていう殊勝な条件だ。
そもそもロールからの言葉でなければ絶対に断っていただろうし。上の人間の策にまんまと乗った気分だが、こればっかりは情がある以上どうしようもない。
もっとも、軍の機密なんかもあるので面倒な事には変わりないが、それでも中型、大型ズヴェーリの排除ができるのなら破格とも言える。
本来なら軍を動かし、二人に払うよりも更に大量の金を使わなければならない。
「分かってますけど、上がなんて言うか……まぁ、頷かせますよ」
「これで頷かなきゃ知らないわよ。トウマも、そうよね?」
「え? あ、あぁ。確かに、こっちは命賭けてるからな。金ぐらい惜しまずに払ってほしいもんだ」
一瞬、いや別に平気だけど、とか言ってしまいそうになったが、この世界でズヴェーリ退治は命がけ。
その仕事そのものの価値を落とさないよう、トウマもロールに釘を刺した。
それに、トウマだって何百回何千回とズヴェーリ相手に爆散した末、今の腕がある。この世界的には何百回何千回もズヴェーリを相手にする訓練を重ねたようなものだ。
例え元がゲームだとしても、それで質のいい仕事ができるならそれ相応の報酬は必要だ。
「まぁ、お二人が特別なのは変わりませんからね……数日ほど待ってください。結果を持ってきますから」
という事でこの話は持ち帰られたのであった。
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