おれたちは傭兵だ

 何故トウマがここまで上手くネメシスを操ることができたのか。

 その理由はただ一つ。


「ゲームで鍛えた、ねぇ……?」

「嘘だと思われても仕方ないけど……こう見えても強かったんだぜ、俺」

「嘘だと思いたいけど……言い切れないのが困るわねぇ」


 格納庫でのティファからの事情聴取。それにトウマは隠し事は無しでしっかりと答えていた。

 どうしてあそこまでネメシス戦が強かったのか。その答えをしっかりとトウマは答えたのだが、答えられた側は苦笑い。

 そりゃそうだ。1対6。機体の質と量の二つで負けているのにも関わらず、パイロットの質だけでゴリ推した秘訣がゲームなのだから。


「操縦の仕方とか、戦い方とか、色々と同じだったんだよ。だから、ゲームの時と同じ感覚でなんとかできたんだ」

「そうは言っても……所詮はゲーム、シュミレータみたいなもんでしょ? それをやってたからって……」

「でも、相手はAIじゃなくて人だった。それに、PvPは十万戦近くやってるし、プレイ時間だって3000時間は優に超えてたんだ。それなら多少強くてもおかしくないだろ?」

「対人戦を十万……まぁ、それならおかしくはない、か」


 ただのネメシスの訓練でも、対人戦を十万戦もやった人間なんてこの世界には居ないだろう。

 そう思えばなんとなく理解はできる。

 なんとなく、だが。


「……ちなみに、勝率とか分かるの?」

「直近1000戦で87%。全体で83%だ」

「さてはあんた、暇人だったのね?」

「クソニート一歩手前言うたやん」

「その成果が漂流先での圧倒的暴力になるなんて……あんたの人生凄いわね?」

「いやまったく」


 なんの反論も出てこない。


「……ちなみに、あんたと同じくらい強いやつなら、さっきの戦闘くらいは朝飯前程度なの?」

「そうだな……俺みたいな馬鹿共なら、あれくらいはやれて当然かな」

「第三世代未満のネメシスで第四世代のネメシス相手に無双するのが当然って……」


 ティファが溜め息を吐き、額を抑えながら格納庫の中で鎮座するネメシスとそのパーツ達……宙賊達が使っていた第四世代ネメシス『ファウストシュラーク』を見た。


「世代……? そんなのがあるのか?」


 ティファの頭痛が痛いと言わんばかりのポーズから捻り出された言葉にロボオタが反応した。

 トウマの知るネメシスは各パーツのステータスにより全体的なステータスが決められていたが、世代なんて設定はなかった。


「そりゃあるわよ。スプライシングは性能的には多分第二世代と第三世代の間くらい。そこに転がってるのは第四世代よ」

「へぇ……ちなみにスペック差は?」

「基本的に隔絶してると思いなさい」

「ふーん……まぁ、初心者が乗った上位層の機体に初期機体で挑むようなもんか? それなら余裕だな」

「自信満々に言えるあんたはマジで何者よ……」

「ネメシスオンラインのランカー」


 そのランカーとやらはどんだけバケモノなのよ、と呆れるティファ。もう呆れすぎて言葉が出てこない。

 ある程度呆れて、呆れて……ようやくこのナマモノはそういう類のバケモノだ、ニュータイプ的なアレだと呑み込んで、顔を上げた。


「はぁ……まぁ、もういいわ。あんたは強い。わたしのスプライシングに相応しいくらいに」

「おう」

「だから……任せるわ。わたしの最高傑作を」


 ティファが吐き出した言葉を、重く受け取る。


「わたしが作って」

「俺が戦う」


 ティファは戦闘に関しては門外漢だ。だが、ネメシスを1から作り上げるだけの技量がある。

 トウマは整備に関しては門外漢だ。だが、本来なら相手にならない程の低スペックのネメシスで圧倒的に不利な状況を覆す技量がある。

 これは、多分運命だったのだろう。

 命を運んでくると書いて運命。トウマという命は、この時のために時空を超えて運ばれてきたのだ。


「改めて、よろしく、トウマ。スプライシングのパイロットとして」

「おう、よろしくな」


 ティファはそれを受け入れた。

 例えこのナマモノがよく分からん理屈を持っていたとしても、スプライシングを……己の分身とも、意地の塊とも言えるソレに相応しいほど強いことには変わりない。

 だから、受け入れたのだ。

 そして、受け入れたのならばこの話は一旦ここで区切って。


「にしても、不思議よね」

「何がだ?」

「宙賊の機体よ。今は第五世代ネメシスが使われてるとは言え、ただの賊がこんなにもネメシスを……それも、第四世代を六機も持ってるなんて」

「あー……それもそうか。ネメシス、高いし」

「高いだけじゃないわよ。例え金があっても、裏の方にネメシスが出回る事なんて殆ど無いし」


 本来、ネメシスとは重機代わりにも兵器にもなる高級品だ。例え型落ちだとしても、スプライシング一機を組み上げるのに使った金の倍以上は金を払わねばならない。

 そうなると、考えられるのは。


「……賊共はこの六機のネメシスをどっかから奪ったって事か?」

「えぇ。でも、例え一機奪えたからと言ってそのままあと五機も奪えるようなものかしら? それに、ハイパードライブジャマーよ。あれはもう国が回収して軍が厳重に保管してあるはずなのに……」

「その軍から奪ったとか。型落ちのネメシスも含めて」

「冗談言わないでよ。軍よりも強い賊なんて、もはや悪夢よ。まぁ、もしも本当に軍から奪われたんなら……軍とこの国なら隠蔽するわね」

「そうだよなぁ……まっ、ティファは安心してろ。何が出てきても俺が薙ぎ払ってやるさ」


 トウマはその言葉に自信を持っていたし、ティファはこいつなら本当にやりそうだな、と苦笑いするしかなかった。

 そんなティファからトウマへの事情聴取だが、もちろん外へその内容が流れることはない。

 代わりに軍の方から宙賊が出没するかもしれないから注意、という連絡が飛んだくらいだが……ハイパードライブジャマーの件等は隠蔽された。

 軍にとって……いや、国にとってあまり言いふらしたくない情報だったのだろう。

 こうなっては、例え当事者であるティファ達が何か言ったとしてもデマとして片付けられるだろう。


「マジで隠蔽、か……これは最悪の事態を想定しなきゃいけないかもしれないわね」

「例えそうなっても俺達なら余裕余裕。ほら、お仕事お仕事」

「そうね。んじゃ、中型のズヴェーリでもやってみましょっか」

「喜んで」


 だが、傭兵たるもの何もかもが自己責任の自由業。

 例えどれだけのネメシスに襲われようと切り抜ける自信があるティファとトウマは依頼を受け、金を稼ぎ始めるのであった。



―――――――――――――


後書きになります。

今回も軽く設定をば。


・ランカー

ネメシスオンラインの順位付けされた上位100人の事。なお、条件はプレイヤー達に開示されていない。

ランカーになる条件は『シーズン中、PvP戦を1000戦以上行い、勝率が80%以上』と『PvP全体勝率が80%以上』。プロゲーマーと一部の変態共しかなれない化け物の領域である。

トウマは最初負け越していたが後から連勝しまくって全体勝率を上げてランカーになった変態。ネメシスオンライン限定でならプロゲーマーとして通用する

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