戦いを越えて
宙賊を捕まえるための組織、というのはもちろん存在する。
それをするのはこの国の軍隊だ。警察経由で通報を受けた軍がやってきたのは戦闘終了から三十分が経過した後。その間トウマはスプライシングの中で逃げようとする小型船が居たら即座に撃ち落とす、という仕事をしていた。
相手は降伏したので逃げないと思っていたのだが、内一隻がやぶれかぶれだったのかハイパードライブで逃げようとしたので、撃ち落とした。
逃げなければ……いや、そもそもこんな事をしなければ死ぬことはなかったのに。なんとも言えない後味を感じながらもトウマは監視を続け、結局軍が来るまで気を緩めることはなかった。
軍が来たら、後は軍の仕事だ。コクピットだけを上手く潰したネメシスやその他、爆発したネメシスの残骸はこちらで回収し、宙賊共の船は軍が回収。
後に傭兵協会を伝って報奨金が渡されることとなる事となった。
そんなやり取りがあり、敵小型船の引き渡しを行った際。
『お前がこいつらを無力化したのか? そんなスクラップ同然の機体で?』
「そうですけど、何か問題でも?」
『いや、よくもまぁそんなネメシスで六機もネメシスを倒したもんだ。まさかこの通報は身内切りの結果、とかじゃないよな?』
「んなわけないでしょうが」
『それぐらい不自然な戦果、というだけだ。まぁもし、本当にお前がそんな機体で六機のネメシスを落とせたんなら、パイロットとしていい飯食えると思うがな』
「そりゃどーも」
ちょっと疑われた。
まぁ、気持ちは分かる。スプライシングは傍から見れば色んな機体のパーツを取り寄せてくっ付けたようなスクラップ同然の機体にしか見えない。そんな機体で六機のネメシスを相手にして完勝した、なんて言われても信じられやしないだろう。
『しかし、こいつらは本当にこれだけの戦力で来たのか?』
「え? あぁ、はい。多分ティファが映像記録撮ってくれてると思いますから、照明はできるかと……」
『いや、これだけならこれだけでいいんだ。最近は大規模な宙賊の目撃情報がこの近辺であったからな……』
「まさかこいつらとは別に?」
『そこは分からん。まぁ、詳しく吐かせるのはこちらの仕事だ』
まだ宙賊がいるのか、そうじゃないのか。
それは分からないが、少なくともここで詰める話ではないだろう。
『では、我らはこれで失礼する。パイロットの少年、気が向けば軍のネメシスパイロット候補生として志願してみるといい。本当に君が六機のネメシスを相手にして戦果を残せるのなら、好待遇が約束されるだろう』
「ご親切に斡旋どうも。行く場所に困ったら門をたたかせていただきますよ」
最後に勧誘を残した軍は、そのままハイパードライブを使って去っていった。
それを見送ってから、トウマはティファの指示で集めていたネメシスの残骸などを持ったまま、船に帰還した。
「えっと、確かこの残骸はここに置いてっと……ってか、改めてみるとあいつらが使ってたネメシスもかっけぇな。ゲームじゃ見たことない機体……って事は、やっぱこの世界は俺の知るネメシスオンラインとは似て非なる世界で間違いなさそうだっと」
残骸を指定されたエリアに置き、機体をハンガーデッキに格納してからコクピットを開く。
既にこの空間はエアロックによってしっかりと空気がある状態だ。故に、パイロットスーツのヘルメットを外し、スプライシングから降りる。
約一時間ぶりにヘルメットを外してみると、多少は緊張していたからか、もしくは興奮からか、少しだけ汗をかいており若干髪の毛がしっとりとしていた。
降りてから改めて激戦を制したスプライシングの方へと振り返ってみると、スプライシングの装甲にはいくつかの銃痕が見られた。
全て装甲が弾丸を弾いてくれていたため大きなダメージにはなっていないが、それでもティファが作り上げ磨き上げた装甲が傷ついているのを見ると、ちょっと申し訳なくなってしまう。
「……ありがとな、スプライシング。今度からはなるべく弾が当たらない立ち回りを心掛けるよ」
軽く装甲を撫で、そんな風に呟いたところで後部ハッチと廊下を繋ぐ扉が開いた。
「おかえり、トウマ」
そこからやってきたのは、もちろんティファだ。
「おう、ただいま。ティファ。どうだったよ、俺のネメシス捌き」
「凄かったわ。お世辞でもなんでもなく、凄かった」
質問に返ってきたのは十分な賞賛だった。
きっと勝てっこない。どうにもならないと思っていた戦場を文字通りひっくり返したのだ。その腕前をプライドやら何やらで評価しない、なんて恥ずかしい真似は彼女はできなかった
「だろ? 俺、ネメシスを動かすのだけは自信があるんだよ」
「漂流者のあんたがどうして……なんて野暮な事は聞かないわ。訳アリだろうし」
「んー……まぁ、言ってもいいけど、この空気で話すことじゃないし、後で話すよ」
「そうなの? なら楽しみにしてるわ」
本当なら根堀り葉掘り聞きたいところだろう。
彼女の立場をトウマに置き換えるなら、戦国時代や平安時代の人間を拾ったので面倒を見ていたら、自分の苦戦していた宿題やらゲームの攻略を任せろ、とだけ言って現代でもトップクラスの腕で解決していったようなものなのだ。
いくら何でも不自然すぎるし、どうしてそんなことができるのか根堀り葉掘り聞きたくなる。
それを彼女はしないのは、単純に彼女の優しさからか。それとも、信じているからか。
さて、いつ詳細を話すべきか、なんて考えつつ、ハイパードライブに入るからシャワーでも浴びて休んでなさい、とだけ言って後部ハッチから出ていこうとするティファを呼び止めた。
「なによ」
少し機嫌がよさそうな声色にホッとしながら、トウマは口を開いた。
「ティファが作ったスプライシング、宙賊も軍もスクラップ同然とか言ってたけど……俺からしたらあんな奴らのネメシスなんかには負けないくらい最高の機体だったぜ。流石だよ、天才メカニック」
「……ありがと、天才パイロットさん」
全くお世辞なんて使っていない本心からの言葉にティファは今まで見せたことがない程の笑顔を浮かべながら、トウマにお礼と称賛を送った。
天才パイロット。なるほど、嬉しい言葉だ。
後部ハッチから出ていく彼女を見送った後、トウマは激戦を潜り抜けた最高の機体を見上げた。
「ティファがこれから先、どれだけ乗せてくれるかわからないけど……これからもよろしくな、天才メカニックの最高傑作さん」
物言わぬ鋼の巨人は言葉を返さない。
だが、何となくスプライシングが当然だ、と言ったような気がした。
トウマは笑いながら後部ハッチを出て、汗だくになった体をシャワーでさっぱりさせるため、バスルームへと向かうのだった。
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