PRIDE

 暫くしてティファは通信を行ってドッグから出ることを伝えると、パネルを操作してオート操作で出航する。

 向かう先は、先日ズヴェーリが発見されたらしい宙域だ。

 そこへの移動はそのままブースターで飛ぶのではなく、ハイパードライブと呼ばれるワープ航行が使われる。

 というか、ワープがないと移動に何年もかかってしまうので、使うのも開発されるのも当たり前だろう。どういう原理なのか……と聞かれても、ティファなら説明できるかもしれないが、トウマが理解できるかは分からない。恐らくできない。


「着くまでは……大体三十分くらいかしら。わたしは準備してくるから、トウマは好きにしてていいわよ」

「お、おう……」


 準備、というのはズヴェーリを倒す準備だろう。

 あの機体は実体弾を撃つライフルと三連ミサイル、更には腰にビームセイバーを装備していた。トウマならばビームセイバーだけでズヴェーリを殲滅できるが……初心者のティファには難しいだろう。

 自分用のネメシスが……ゲームで乗っていたあの機体があればトウマはきっと一騎当千のレベルで無双できるが、ないものねだりはできない。

 ただ、彼女が無事ズヴェーリを倒して帰ってこれることを願うしかないのだ。

 気が付けばハイパードライブは終わり、モニターは宙域を映す。

 そこに映っているのは岩石でできた小惑星。それに目を凝らすと、キラキラと光す数メートル程度の何かが三つほど転がっているのが確認できる

 ゲーム通りなら……


「……ティファ。目の前に小惑星だ。多分、擬態している」


 ネメシスとの通信を開き、ティファに声をかける。

 最初は通信を開いただけでも興奮したのだが、今はそこまで興奮することでもない。ただ、ティファが心配だ、

 そんなトウマの心配を知ってか知らずか……恐らく知らず、ティファは通信を返してくる。


『擬態? どこに?』

「目の前に小惑星があるだろ? あそこの表面に居るはずだ。小惑星の大きさ的に……三体くらいか?」

『三体……そう、三体もいるのね……って、なんでそんなこと分かるのよ』

「え? あぁ、あいつらのコアが偶然三つ見えたんだよ。あと、言うまでもないだろうけど」

『当り前よ。絶対に倒して……あいつらを見返してやるんだから』


 彼女の執念の言葉に、トウマはまた何も言葉を返すことができない。

 船のオート操縦を止め、この宙域に留まるように操作してから、艦内後部ハッチのカメラでティファの様子を確認する。

 ティファが乗り込んだのであろう機体はゆっくりと動きながら、後部ハッチにあるカタパルトに足を乗せた。

 数年使われいないカタパルトだが、ネメシスが完成したことで使えるように調整したらしい。

 普通、カタパルトの調整なんて一人じゃできないとは思うが、ティファ的にはそれぐらいやれなきゃおかしいレベルらしい。

 本当に天才だな、という感想を漏らしながら、ティファの機体がカタパルトに両足を乗せたところで、もう一度通信を行う。


「カタパルト、ユーハブコントロール」

『アイハブコントロール。それじゃあ行ってくるわ』


 ティファはそれだけ言い、ネメシスのコクピット側からハッチを開け、そのまま真空の海へと飛び出していった。

 暗く寒い真空の海の中、戦うのはズヴェーリという『宙域生命体』だ。

 ズヴェーリはゲーム内とその設定に大きな差異はない。奴らは金属と岩石、そしてたんぱく質を己の食料とする生命体だ。奴らに理性はなく、あるのは純粋な食欲だけ。

 その大きさは約十メートルから百メートル。大きさはズヴェーリによる。

 その中でも十メートルから二十メートルが小型。二十メートルから六十メートルが中型。それ以降が大型となり、今回ティファが戦う予定のズヴェーリは小型の物だ。

 また、ズヴェーリはその体を液状の何かで構成しており、その核を砕くか真っ二つにすることで殺すことができる。更に厄介なのは体が液体故に不定形であること。

 それ故に、体を斬ったとしても切り離された部位とくっつけば再生するし、体を触手状に伸ばして攻撃してくることもあれば、刃のようなものを生成して攻撃してくることもある。

 だが、小型ズヴェーリならやってくる行動は突撃、触手伸ばし、捕食、斬撃の四種類。それらを体を蠢かしながらランダムで行ってくる。

 初心者はこの不定の動きに規則性を見つけられずに負けることが多いのだが、ティファはこのために相当勉強もしたと言っていた。恐らく、大丈夫だろう。

 ……一応、攻撃の前動作で何をしてくるかは分かるのだが、ティファはそれに気づいているのだろうか。


『あの小惑星ね……確かにコアが三つあるわね。なら!』


 ティファのネメシスがライフルを構え、小惑星の表面を転がっているキラキラと光る結晶、コアに向かって銃弾を放った。

 当たれば確実にズヴェーリを倒せる銃撃……だが、小惑星の表面を転がるコアはその銃弾を避け、小惑星全体を覆っていたのであろう自身の体を一点に集め、体を構成する。

 その姿は、動物のようなものを模っているのもいれば丸い形状を取っているズヴェーリもおり、その姿には統一性がない。

 一応ゲームならある程度パターン化されているのだが、トウマも三体の内一体は見たことがない姿をしており、改めてこの世界がゲームとは違う世界なのだと実感した。

 

『くっ、不意打ちで倒せなかった……!! でも、倒す!!』


 ズヴェーリを倒すには、コアを破壊する必要がある。

 コアは体の外側から見てわかるほどに体内で輝いている。

 それを破壊するのに、初心者はマシンガンなどの弾幕武器で当たってくれと願うのだが、上級者となるとめんどくさいからとダメージ覚悟で体内に入り、そのままコアを斬りつけにかかる。

 いくらズヴェーリでも、十メートル弱のネメシスを体内に取り込むには時間がかかる。ゲームではHPが削られていくという形で食われていくのが目に見えたが、こうしてズヴェーリを見てみると、流石に体内に入り込んで一騎当千、はあまりしたくなくなる。

 もし自分が戦うときは銃弾で確実に倒そう、と決めた所で、再びティファが照準を定めて銃弾を放った。

 しかし、ズヴェーリはそれを避け、一匹は触手を出し、一匹は体当たり、一匹は刃物を形成してから体当たりしてくる。


『くぅぅっ!!』


 だが、ティファはそれを避け、避けるついでに右肩の三連ミサイルランチャーからミサイルを一発放った。

 それは体当たりをしてきたズヴェーリに命中。体内でミサイルがさく裂し、そのままコアも衝撃で破壊した。これにより一匹のズヴェーリの体は固まり、そのまま動かなくなった。

 ゲームで、このズヴェーリの死体は回収され、報酬として金がもらえる。設計図は倒したときにドロップという形で入手できるのだが……流石にこの世界でそれはないだろう。

 確か設定では、ズヴェーリの死体からはエネルギーを抽出し、電気などに変換できる、となっていたような気がする。この世界でもそうなのだろうか。


『まずは、一体!』


 更にティファは機体を旋回させてズヴェーリを撃とうとするが、旋回が間に合わず狙いが定まらない。


「……なるほど、スペック上は初期機体以下か。けど、ちゃんと姿勢制御用スラスターが全身についているみたいだし、大型ズヴェーリも全然倒せるな」


 こちらからの声はミュートにした状態で、ティファが丹精込めて作り上げたネメシスのスペックを見定める。

 見た感じではスペックはゲーム内の初期機体以下。つまり、かなり弱い。

 だが、ネメシスオンラインは上級者なら初期機体で大型ズヴェーリをノーダメージで倒すことだってできてしまうゲームだ。トウマならあの三体のズヴェーリ程度、苦も無く倒すことができる。


『これで、二匹目よ!!』


 どうやらライフルで相手を倒すことを諦めたのか、ティファは右肩のミサイルをもう一発放ち、突っ込んできたズヴェーリのコアを爆散する。

 これで二匹目。そしてラストも。


『続けて三発目! 終わりよ!!』


 そしてラストの三発目。

 これもティファは相手が突っ込んできたところにカウンターでミサイルを放ったため、見事命中。三体目のズヴェーリも無事倒すことができた。


『はぁっ、はぁ……はぁ……お、終わった……?』

「ここまで戦闘して追加が来ないから確実に。お疲れ様、ティファ。ズヴェーリの死体を回収して戻ってきてくれ」

『わ、わかったわ……でもこれでアイツらを見返すことが……!!』


 ティファの声は聞かなかったふりをして、トウマは後部ハッチを開き、ティファの帰りを待つのだった。

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