No money

「こちら『傭兵協会』所属、ティファニア・ローレンス。コロニー5-31-2、応答願う」

『こちらコロニー5-31-2、オペレーターのロールです。ティファさんですね、お疲れ様です。今日はもう着艦ですか?』

「えぇ。ついでに言うと、ちょっと面倒事もあるから早めに着艦させてほしいかしら」

『面倒事、ですか?』

「漂流者よ。意図せず拾っちゃった」

『あら。この辺りで漂流者なんて久しぶりですね。ではこの後はこちらに?』

「えぇ。そっちに面倒見てもらうか、わたしが面倒見るのか分からないけど。だから早めに着艦許可を」

『分かりました。漂流者が絡むとなると、そこらへん早いですからね。えっと……はい、出ました。ドックA-4-6です』

「いつも一時間くらいかかるのに、こういう時は早いわね……わかったわ。ありがと、ロール」


 どうやら行っていたのはコロニーへの着艦許可申請らしい。

 ここら辺はゲームではなかった場面だ。何せ、コロニーへの着艦なんてロードが終わればすでに終わっているのだから。一応、着艦の際のムービーはあるのだが、そんなの数回見たあたりで自動スキップをするように設定している。

 なんだかSFっぽいやり取りに少し感動していると、ティファは前面モニターを映したままパネルに何かを打ち込んだ。すると、船が自動で動き、コロニー側部に開いている穴へと向かっていく。

 側部の穴。つまりはドックへの入り口を通ると、後は船が自動で動いて何かの文字が書いてあるドッグの前に向かい、暫く経つと船が揺れた。

 ゲーム的に考えるなら、今のはドックの天井から伸びてきたアームと船が接続されたときの衝撃だろうか。

 それにより近くのデッキに船の出入り口が寄せられたと考えれば、もう船から降りれるはず。


「もう降りれるわ。行くわよ」


 やっぱり。

 ティファの言葉に頷き、船の中を案内してもらって出入り口からデッキに移動する。


「すげー……」


 そして、船から出てすぐのドックの光景、そして先程まで乗っていた小型船を振り向いて見上げ、その迫力に再び感嘆の声を漏らす。

 だが、ティファの小型船はゲームの物とは違い、少し小型だった。まぁ、全高十数メートル、全長五十メートル以上の船はトウマが今まで見てきた船、の名の付くものと比べれば大型の部類に十分入るのだが。

 後部ハッチからは恐らく物資やネメシスの搬入を行い、それ以外の部分は機関部であったり居住スペースであったり物資庫なのだろう。


「わたしの船なんて見ても面白くないでしょ。他の船の方が立派だし」


 と、呆れ半分のティファが違うデッキの方を指さす。

 それに釣られてそちらの方を見ると、今度はゲームで見た小型船よりも数倍は大きな船がそこには停泊していた。


「デカッ……!?」

「わたしのは一人から二人用。あっちはグループで使うものね。ネメシス数機を格納して、五~十人が中で生活するのを前提として作られてるわ。ちなみに、ネメシス無しで使う小型船はあっちの平べったいの」

「小型船ってそんなに種類があるのか?」

「当たり前じゃない。メーカーや好みによって種類は人それぞれ。わたしのは結構旧式で居住スペースも小さめ、物資庫と後部ハッチからの格納スペースが共通、その他諸々。小型船を買うお金がないから使ってるお古よ」

「そう、なのか……」


 ここに来て初めてネメシスオンラインの常識が崩れた。

 小型船なんて、プレイヤーそれぞれが同じようなデザインの物をそれぞれ一つ持っているだけだ。中には課金等で小型船の外見を変える要素もあるのだが、基本的に小型船の性能やら内部構造やらは変わらない。大きさもだ。

 ここは昔からのネメシスオンラインのがっかり要素ではあるのだが、ネメシスオンラインはネメシスで戦うことを主軸に置かれたゲーム。小型船がある程度手抜きでも仕方ないのだ。

 しかし、目の前には様々な小型船が並んでいる。

 その光景に感動してしまうのも、無理なかった。


「でもすげぇ……俺も小型船欲しい……」

「お値段1000万ガルドからよ」

「えっと……ごめん、基準が分からない」

「わたしが一日かけて稼ぐ額が1万ガルド。そこから必要経費やら生活費を引けば残るのは大体2000~3000ガルド」

「たっけぇ……」

「わたしのやつだって、買おうと思えば今は1200万ガルドくらいかしら。免許もいるし、メンテ費も馬鹿にならないし。中古でもそこそこするから、最初は真面目に働くのをお勧めするわ。貯金が溜まったから、程度で買うと痛い目見るわよ」


 どうやら現実となったネメシスオンラインは想像以上に世知辛いらしい。

 SF世界に来て普通に働くのか……とがっくり肩を落としたところで、ティファに背中を押されてどこかしらへと連行される。

 門のような場所を通り、コロニー内部らしき町中を少し歩かされ、そこでも感動と興奮を覚え、案内されたのは近未来版市役所みたいな建物だった。

 もちろん、こんな建物はゲーム中にはなかった。そもそもゲーム内のコロニーなんて一キロもない程度の小さな町中に必要となる店が連なっているだけだったし。


「えっと、ここは?」

「政府の役所。漂流者はまずここに連れてくるよう言われてんの」

「役所……」


 どうやら市役所というのはあながち間違いじゃなかったらしい。

 そこに入ると、中は結構清潔感に溢れた内装だった。思わず内装を見渡すが、案内板らしき所に書いてある文字がよく分からないので早々に飽きた。

 その辺りで一旦トウマを置いて機械で何かやったティファは彼を連れてそのまま役所のカウンターに座った。そしてトウマにも座れと促す。

 ここで何か必要な手続きでもやるのだろうか。待っていると、先程船の通信で映った女性、ロールがタブレットのようなものを片手にこちらに歩いてきて、向こう側の席に座った。



―――――――――――――


後書きになります。

今回もちょっとした設定を解説。


・コロニー5-31-2

コロニーのみで構成されたコロニー国家『メロス』に属するコロニー。この時代ではちょっと田舎みたいな立ち位置のコロニー。

ドックの数が少なめなので毎回小型船の入港手続きに時間がかかるが、住みやすいコロニーと評判。

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