HELLO, SPACE FUTURE

「さて、わたしができる説明としてはそれぐらいかしら? 一応漂流者は自分を拾った人か、政府に面倒見てもらうか選択できるけど……まぁ、政府に面倒見てもらった方が確実よ」


 流石に常識そのものに欠落がある人間に対して即席で常識全てを叩き込むなんてマネはできないだろう。相手は何が分かっていて何が分かっていないのか、そこから既に分からないのだから。

 色々と聞きたいことはあるが、そこら辺はティファについて行けば自ずと分かる事だろうと思い込み、とりあえず半分おふざけで質問をしてみる。


「じゃあ俺が君に面倒見てもらいたいと言ったら」

「やめときなさい。この船、空き部屋はあるけどお金は無いし。わたしだって自転車操業なのよ。まぁ、支援金があったらもうちょっと贅沢はできるでしょうけど」

「……それ以前に男と女って問題は?」

「あるっちゃあるけど……あんた、見た感じ鍛えてないでしょ? 悪いけど、わたしはこう見えても鍛えてんのよ。傭兵として最低限、ね。だから、そういうのを除くとそういう答えしか出ないのよ」


 どうやらティファ的には、このままティファに面倒見てもらうという選択肢はあまりオススメできない選択肢らしい。

 だが、その言葉の中にふと気になる言葉があった。


「自転車操業って……そう言えばティファはこんな船を使って何をしてるんだ?」


 自転車操業。つまり、彼女は何かしらの仕事をしており、しかしお財布事情はかなりカツカツ、という事だ。

 それを聞いて思い出すのは、ネメシスオンラインでもかなり初期状態のプレイヤーだろうか。性能的には一番底辺のネメシス一機と船を渡され、チュートリアルをある程度こなしたプレイヤーが宇宙に単身放り込まれた結果、ゲームに慣れてない者が陥るのは金欠だ。

 ネメシスオンラインで金銭を稼ぐ方法はそこそこ多い。まず一つが、宇宙害獣とも言える存在、ズヴェーリの発生地点に向かってズヴェーリを倒し、報酬金を貰う。資源惑星に向かい採掘を行う。廃棄された戦艦や資源等の元へと向かい、資源を回収して売り払う。トーナメントに出て賞金を貰う等。

 しかし、この中の廃棄された戦艦からの資源の回収はあまり利益が出にくい。何せ、見つかるのはジャンクパーツばかりなのだから。

 それを売ったところで二束三文。ネメシスのパーツを買わなかったとしても増えていくお金は微々たるものだ。

 経験者は真っ先に資源惑星に行って採掘を行うのだが……ネメシスなしでできる作業と言ったら、思い当たるのはそれぐらいだ。


「なにって……ただの傭兵よ。ジャンク漁りが趣味の、ね。もっとも、稼ぎなんてくそ悪いけど」

「そうなのか? なら俺の……なんだっけ。漂流者支援金だっけか? それがあると楽になるのか?」

「まぁ、あったら有り難いけど、その場合あんたは給料も何も無しの状態よ。わたしは何も払えるものがないし、あんたの漂流者支援金はわたしの財布に入ってくるわけだし」

「給料なしはひでぇな……でも、ネメシスがあるんならズヴェーリ退治とかしたらいいんじゃないか?」

「できるわけないでしょ。さっき言った通り、あの子はまだ未完成。今日買ってきたパーツでようやく一応の完成ってレベルなんだから……って、あんたなんでズヴェーリの事知ってるのよ。ネメシスの事も」

「え? あ、いや、これはゲームの知識と言いますかなんというか……」

「……まぁいいわ。漂流者は色んな平行世界から来ているらしいし。中には宇宙怪獣とかそんなのと戦う世界から来たとか言っていたのもいるらしいし。あんたが偶々ズヴェーリが星に来訪した世界からの漂流者と思えば不思議じゃないわ」


 一応言っておくなら、ズヴェーリ討伐はネメシスオンラインのメインコンテンツの一つ……というよりも、強くなるなら避けては通れない作業の一つであり、強くなればなるほど儲けがいい。更にズヴェーリを倒すことで報酬としてネメシスのパーツの設計図やパーツそのものを得ることもできる。

 初心者のうちは弱いズヴェーリしか倒せず、報酬は微々たるもの、得れる設計図も初期パーツ相当、等のしょぼさだが、トウマ程の腕を持つのならある程度強いズヴェーリを倒して財布を潤し、即中級者並みのパーツで機体を組むこともできるだろう。

 だがそれはゲームの話。リアルではないのだ。

 そもそもネメシスも現状動かないらしいし、そんなことできるわけもない。


「よし、ついたわね」

「ついたって?」

「コロニーに、よ。あぁ、そう言えば前面モニター切ってたわね。えっと、どれだったかしら…………あったあった。これね」


 彼女が操縦席のパネルを暫く弄っていたかと思うと、今まで計器類のモニターをしていた前面の巨大なモニターに外の後継らしきものが映った。

 そこに映っていたのは。


「う、わぁ……」


 宇宙だった。

 映像でしか見たことがない宇宙。それが前面モニターに映り、その中心にはドーナツ型の人口建造物が漂っている。

 間違いない。あれはネメシスオンラインにもあった居住コロニー。そしてその背後に広がるのは、ネメシスオンラインの舞台となる広大なる宇宙と煌めく星々。

 その幻想的な光景に思わず感嘆の声が漏れる。


「なによ、ただ外を映しただけなのに大げさね」

「大げさなもんか。すげぇ……これ、本当にこの船の外の光景なのか?」

「当たり前じゃない。今はちょっと忙しいから無理だけど、何なら後で宇宙に出てみる? つまんないけど」

「いや、出してほしいかな。宇宙なんて俺にとっては創作の世界でしかなかったんだよ」

「あー、そういやあんたって宇宙進出すらしてない時代の人間だっけ。それならこの反応も当たり前……なのかしら? でもよくもまぁ、こんな何の変哲もない光景で感動できること」


 本気でトウマの言っていることが分からない、と言いたげな彼女は操縦席に腰を下ろし、パネルを操作。

 すると、前面モニターにネメシスオンラインでも見たことがある通信用モニターが出現し、そこに人の顔が映るのであった。



―――――――――――――


後書きになります。

今回はちょっとした設定を解説。


・ネメシスオンライン

VRMMO形式のロボゲー。パーツを集めて自分だけの機体を作って戦うゲーム。PvE要素も沢山あったがPvPが人気だった。

トウマはこのゲームが大好き。ユーザー名は『Y-UMA』。ゲーム内ではユーマと呼ばれていた。

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