さらば地球での日々よ
「そうね、まずは自己紹介からかしら。わたしの名前はティファニア・ローレンス。ティファでもニアでも、好きに呼びなさい。どうせ短い付き合いになるだろうし」
目の前の少女はそう言って自己紹介をした。
ティファ。それが彼女の名前だ。
プラチナブロンドの髪をミドルヘア程度に伸ばしてあり、瞳の色は翡翠に見える。体格は…………まぁ、年齢によっては期待値があるボディだ。身長も170はあるトウマより頭1個近く小さい。
「おう。俺は結城斗真……じゃなくて、トウマ・ユウキの方がいいのか?」
「そうね、そっちの方が分かりやすいわ。最近は名前と苗字が逆なやつも少なくなってきてるし。あれ、どこの文化が発祥なのかしら。偶にわかりにくいのよね」
目の前で急に文化に対してネガキャン決め込み始めたティファに案内された場所は、ネメシスオンラインで言うならプレイヤーがそれぞれ持っている小型船のブリッジのような場所だった。
そこの操縦席らしき場所に座った彼女はコンソールを何度かタッチした。
すると、小型船が動き出したのかブリッジの各パネルに表示されているメーターやら何やらが動き始める。
ここら辺もネメシスオンラインと同じだ。小型船の操縦席で行きたい星やコロニーを選択することで小型船はオートで移動を始める。
本来なら移動を始めて暫くするとロードが発生するのだが、ロードは起こらない。
その事実がやはりここがゲームの中ではないことをひしひしと伝えてくる。
「で、トウマ。改めて聞くけど、あんた何者? 説明できる?」
「説明っつっても……そもそもどうして俺はティファと一緒にいるのかすらもわからない。強いて言うなら、この光景は俺がやってたゲームに似てるってくらいだが……」
「ふーん。説明しないのか、本当にできないのか……じゃあ生年月日は?」
「2002年の2月12日」
「暦は?」
「暦……って西暦の事か?」
「西暦ねぇ……ちょっと待って」
ティファはトウマの生年月日を聞くとブリッジ内にあった端末を手に取り、何かを調べ始めた。
ゲーム内だとメールを確認するしかできなかった端末のはずだが、どうやら違うらしい。
そして暫く経つと。
「げっ、アマノガワ銀河の太陽系第三惑星ですって!? どこよこれ!? しかも今から8000年前って……漂流者確定ね、これは……」
「どういうこと?」
「…………そりゃ、漂流者にはわかんないのか。簡単に言うと、今は統一歴3124年でここはアンドロメダ銀河。西暦換算だと……約10000年前後ってとこかしらね」
「……は?」
「簡単に言うと、あんた、8000年近い先の未来に飛ばされてんのよ」
流石に急にこんなことを言われると、頭が理解しきれなかった。
が、既に理解できないことなんて相当数ある。気が付いたらこんな所に居たわけだし、今更取り乱したところで変わらない。また取り乱しそうになったのを一度深呼吸して落ち着いた。
トウマが取り乱しそうなのが分かっていたのか、特に何も言わないティファに、それで? と続きを促す。
「……よく落ち着けてるわね。わたしならそんな事を急に言われても取り乱す自信があるわ」
「いや、取り乱しそうだけど、取り乱して何かに当たり散らしてもどうにもならないと思ったから……多分、大丈夫。で、続きは?」
「続きと言っても……あぁ、漂流って言っても分からないわね。時折あるのよ。局地的に発生した時空の捻じれに巻き込まれてランダムな場所、時間に吹き飛ばされることって」
「あー……タイムスリップ的な?」
「そうね。あなたは恐らく、時空の捻じれに巻き込まれた結果、あんな所に居たって感じかしら? というか、部屋ごと飛ばされたって感じかしら。なんか部屋の中にやけにレトロな物が散乱してたし」
「……で、俺みたいに飛ばされた奴を漂流者と呼ぶ……って感じか?」
「そうね。あぁ、安心しなさい。漂流者は政府の方が独り立ちできるまである程度サポートしてくれるから。まぁ、生まれ育った時間に戻れないのは、ちょっと可哀そうではあるけど」
こればかりはどうにもできないから諦めなさい、ときっぱり言うティファ。
だが、ここまでキッパリと言われたんなら悲しさの前にあぁ、もう帰れないんだな、という感想しか出てこない。そもそもまだこれが本当に現実なのか夢なのか、当人もよく分かっていないのだし。
目が覚めて十分程度でこんな事を立て続けに言われて全て鵜呑みにできる人間なんていないだろう。
夢なら暫く経てば目が覚めるだろうし、現実ならその内それを受け止めなければならない。現状はその二択しかないからこそ落ち着くしかないし、言われることは受け止めるしかない。
夢なら夢でいいのだ。夢で自分はネメシスの事を見るほどネメシスを想っていると改めて理解できるから。
現実なら……恐らく、この後大いに取り乱すだろう。取り乱した果てに、多分ネメシスに乗りたがる。
トウマという男はそういう人間なのだから。
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