SFな未来の世界で傭兵ライフ~天才美少女メカニックに拾われ天才パイロット始めました~

黄金馬鹿

ネメシス出撃! その名は──

漂流者〜スペースハリケーン〜

 ネメシスオンラインという、意識没入型のVRMMOロボットゲームがあった。

 自身の意識をゲームの世界に落とし込み、ゲームの世界を己の体で遊びつくせるそのゲームは日本中のロボオタを熱狂させた。

 全長十メートル弱のロボット、『ネメシス』に乗り込み、時には人と、時には宇宙に跋扈するズヴェーリと呼ばれる適性生命体と戦いながら宇宙を旅するそのゲームにロボオタが熱中しないわけがなかった。

 ズヴェーリを倒した際の報酬やクエストと呼ばれるNPCからの依頼に対する達成報酬によってランダムで得られる幅広いパーツを組み合わせ、自分だけのオリジナル機体を作り上げる。

 そして、組み上げた相棒と共に宙を飛び、共に戦う。

 堅実にかっこいい機体を組む者もいれば、変態と呼ばれる機体を組む者もいれば、戦闘力重視の無骨だが味がある機体を組む者もいる。

 そんな己の分身とも、己の趣味の集大成とも言える機体に乗り込み、プレイヤーたちは戦った。己の機体がこの宇宙で、電子の海で最強であることを証明するために。

 そんな、シンプルだが奥深いロボットゲームが、あったのだ。

 そう、ゲームが、だ。


「あぁ、やっと目が覚めた。ったく、なんであんな廃棄船の中でわざわざ酸素が尽きるのにも関わらず過ごしていたのだか」


 ――目の前で見知らぬ少女が溜め息を吐きながらなにやらぼやいている。

 しかし、そんな光景も彼、結城斗真ユウキ・トウマには聞こえなかった。

 何故なら、そこは彼のよく知る光景ではなかったのだから。

 大学に通うために借りたワンルームの一室なんかではない。全長十メートル弱の機体がハンガーデッキに身を預け、様々な工具が散らばるここは、明らかに斗真の記憶にある様々な光景と合致しない。いや、そもそも十メートル弱の機体がハンガーデッキにある時点で日本であることはあり得ない。

 だと言うのに目の前に広がるこの光景は。

 いや、この機体は。


「……すげぇ。めっちゃかっけぇ……」


 目が覚めて見知らぬ場所に放り込まれたのにも関わらず。ゲームで見たどの機体よりも明らかに弱そうなのにも関わらず、斗真の心を掴んで離さなかった。



****



 結城斗真という青年の事を語るのに必要な情報はあまり多くない。

 21歳という年齢で大学2年生。19歳の頃に発売したネメシスオンラインに廃人レベルでのめり込み、留年してまでもゲームに自身の時間と情熱をつぎ込んだ正真正銘の馬鹿。

 さらに加えるとするなら、根っからのロボオタというところだろうか。

 子供の頃、父親が好きだからという理由で見せられたロボットアニメから入門し、様々なロボットを知った。

 スーパーロボットにリアルロボット。それらが時に必殺技で輝く様子が。時にはボロボロになる様子が大好きだった。故に、ネメシスオンラインと出会ったのは、もはや必然とすら言えるだろう。

 そんな運命的な出会いを果たした彼はネメシスオンラインをひたすらやりこんだ。ネメシスオンラインの到達点の一つとも言える、明確にプレイヤー内での順位を与えられる存在、『ランカー』になるまでに。

 そんな彼が今日も大学をサボり、バイト帰りにネメシスオンラインを起動し、意識がゲームに入り込もうとしたところまでは覚えている。

 覚えているのだが……ふと、体が揺れたと思った次の瞬間には自分を覗き込む少女がいて、ハンガーデッキにはロボットがいた。

 これが、冒頭までのあらましである。


「で、あんた」

「……」

「ちょっと、聞こえてんの? おーい?」


 目の前に鎮座するロボットを眺める斗真。そんな彼の頬をぺちぺちと叩く少女。そんな光景が五秒ほど続いたところで、ようやく斗真が意識を現世に戻した。


「……あっ、ごめん、ぼーっとしてた」

「ふーん。酸素が薄い場所に居たせいかしら……? いえ、低酸素病ならもっと酷いことになってるわね。まぁ、とにかく。あんた何者なの? あんな廃戦艦をレトロな居住スペースに改造して過ごすなんて正気?」

「え? 廃戦艦……?」

「なによ。自分の事でしょ? 覚えてないの? ってかそもそも、小型船やネメシスも持ってないのにどうやってあそこまで移動したのよ」


 急に色々と聞かれたせいでなかなか質問に答えられない。

 というか、話の中で斗真の方が聞きたい言葉がいくつか出てきた。

 廃戦艦、小型船、ネメシス。どれも聞いたことがない……いや、ゲーム内ではよく聞いたが、現実では聞いたことがない言葉だ。

 まさか自分は何かしらのイベントをスタートさせたのか? と思いながら、自身の左手首を見る。

 ネメシスオンラインのプレイヤーは左手首に端末を埋め込まれており、それを右手で触ることでメニューを空間投影することができる。だからこそ、イベントが発生しているのならそれを確認するためにメニューを開こうとしたが、左手首に端末はなかった。


「……え? いや、何がどうなって……」

「ちょっと、質問に答えなさいよ」


 左手首に端末がないという事は、ここはゲームの世界ではない。

 だが、現実でこんな光景があるわけもない。

 混乱していると、目の前の少女がちょっと不機嫌そうに斗真にもう一度質問に答えるように促した。

 促されても何もわかるわけもなく、ただしどろもどろに自分の知ることを答えるしかできない。


「いや、俺は……よく、わからなくて。端末も無いし、そもそもここがどこでなんなのかも……」

「あの廃戦艦の事は?」

「いや、そもそも廃戦艦ってなんなのか……」

「はっきりしないわねぇ…………まさか漂流者、とか? いえ、そんなピンポイントでまさか……」

「漂流者って……?」

「……まぁいいわ。物資と一緒に持って帰ってIDを照会してもらえればわかることだもの。本当に漂流者で何もわからないってんならついてきなさい。悪いようにはしないから」


 悪いようにはしない。その言葉はなんとなく信用できた。

 悪いようにする気なら、もうすでにしてそうだったし。


「あぁ、あと。そこのネメシスを奪って逃げたところで無駄よ。それ、まだ完成してないから」


 そう言いながら少女はハンガーデッキの機体を指さした。

 ネメシス、と言いながら。

 という事は、だ。


「そこのネメシスって……まさか、これが?」

「それよ。悪かったわね、ジャンクの塊で」

「いや、そうじゃなくて……こいつは、これって、本当にネメシスなのか!?」


 ネメシスは現実に存在する兵器ではない。

 ネメシスオンラインという架空の世界に存在する人型兵器の事だ。

 それが目の前にある。少なくとも今、現実として認識せざるを得ない眼前に、ネメシスの一機であるロボットが立っている。その事実が訳の分からない現状に対する混乱を打ち消し興奮を与えてくる。


「どこからどう見てもネメシスじゃない。作業ロボならそっちに転がってるし……」

「本当にネメシスなんだな!? す、すげぇ……装甲を見るに機動力特化型か? いや、そもそもフレームがむき出しだし、未完成って言ってたか……って、武器は実体盾とライフル、更に右肩に三連装ミサイル!? しかも左右非対称のフォルムとか作ったやつは話が分かる! っつか、よく見ると脚部は両足が別のパーツで、右足に小型パイルと左足に地上走行用のダッシュローラー!? なんだこの装備! かっけぇ!! 足パーツが左右で非対称とか超かっけぇじゃん!! 最早かっけぇ超えてエッチだよ超エッチ!!」


 その結果、斗真は暴走した。

 というか、目の前のネメシスに夢中にならないとさっきから入ってくるよくわからない情報群のせいで一度も落ち着けず何がどうなっているのか理解する前にあれよあれよと流れに身を任せなければならないところだった。

 しかし、こうなると混乱するのは少女の方だ。

 急に目の前の青年がネメシスを舐め回すかのように見物し始めたと思ったら興奮しながらなんか言っているのだから。


「えっ……と? ちょ、ちょっと?」

「いやー、最高。ついでにクッソ落ち着いた」

「うわっ、急に落ち着かないでよ!? やばい薬でもやってんの!? それともやっぱ低酸素病!?」

「いや、落ち着かざるを得なかったといいますか……一周回ったというか」

「五周くらい回ってんでしょその落ち着きよう……」


 スロットルが一か十しかないのかというレベルでの落ち着きっぷりを見せた斗真。

 とりあえず仮定生ネメシスを見て満足した斗真は興奮を落ち着けることで一先ず冷静を取り戻したような感じに見せた。

 まだ分からないことだらけなので完全には落ち着けていないが、先程までの狼狽えるしかなかった状況と比べれば大分精神は安定したほうだろう。

 で、心を落ち着かせた結果見つけた次の行動はというと。


「……とりあえずついて行くから、色々と聞かせてくれないかな? なんかよくわかってなくて」

「わたしはあんたという人間がよく分からなくなったわよ」


 ごもっともで。

 少女の言葉に内心で頷く斗真なのであった。



―――――――――――――


後書きになります。


時折後書きとして本編の零れ話とか、ちょっとした設定を書いていこうかなと思います。

あと、面白いなーと思っていただけたら星とかハートとか貰えるとありがたいです。

ちなみに、サブタイは基本的に古今のロボアニメのOP、ED、挿入歌の曲名を改変したかそのまま持ってきたものです。偶に例外があるヨ

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