神の遊び、ロボと怪獣の戦い

O型はんなり

神様に捧げる

 光が消え、静かな夜の世界が訪れる。夜の時間は箱庭世界の住民のもの。

 一人、また一人と彼らが目を覚ます。



「……やっと夜か」

 箱庭の片隅で、二足歩行の爬虫類に鋭い角が生えた怪獣、キマイラと呼ばれるものが目を覚ました。そしてキマイラの赤く鋭い目に意思の光が宿る。

 昼の時間は神様のもの。箱庭の住民は自由に活動は出来ない。だからこの貴重な夜をうまく使わないとならない。神様に認められるために。

「よっしゃぁ! 今日もやるぜ!」

 キマイラは気合を入れた一言を叫ぶと一目散に走り出した。



 この箱庭世界には神様がいる。神様は夜が明けると現れ、箱庭の住民を選び祝福を与える。

 神様に選ばれることは住民にとって名誉なことで、彼らにとって生きる意味でもあった。

 住民たちはそれぞれ神様に向けて自分の価値をアピールする。ある者は美しさを、ある者は心動かす話術を、ある者は腕っぷしを誇る。

 住民たちは神様に選ばれることを夢見て今日も競い合う。



 キマイラが目を覚ましたころ、同時にもう一人目覚めるものがいた。

 彼はブゥーンという機械の駆動音を響かせると、その目に黄色い光が灯る。

「起動完了」

 待機中にしていたかっこよく決めたポーズを解除して自然な体制をとる。

 肩、腕、足など各パーツをを動かし調子を確認し、装備品の盾や剣の点検をする。左手に鋼鉄の盾、右手にミスリルの剣、どちらも損耗無し。


 一通り準備をしていると遠くから何かが走って近づいて来ていた。

 その姿を認めると盾と剣を構えて臨戦態勢をとる。

「おいロボ野郎! 今日は俺が勝たせてもらうぜ!」 

 二足歩行の爬虫類、キマイラは走ってきて開口一番そう言い放った。

「キマイラ、あなたですか……私はネオ・ナイトです。変な名前で呼ばないでください」

 ネオはその機械の顔にどこか呆れたような表情をつくった。

「うるせぇ! おら、今日もやんぞ!」

 キマイラは抑えきれないとばかりに腕をぐるぐると振り回す。彼は毎夜戦いを挑んでくる。勇ましく戦いその価値を示すことで神様に選ばれると考えているからだ。

「望むところです。かかってきなさい」

 キマイラを正面から見据え慇懃に返事した。

 ネオはキマイラ達怪獣を相手にし戦うことで自分の価値を示していた。彼にとって怪獣と戦うことは日常であり存在理由だった。



 キマイラはネオの返事を聞くと、距離を詰めその鋭い爪を突き出してくる。

 ネオはキマイラの爪を左手の盾で難なく防ぐとキマイラに右上から剣を振り下ろす。

 キマイラは動きを読んでいたのか、もう一方の爪で上から剣を抑え込んだ。

「っへ。やるじゃねえか」

「あなたも強くなりましたね。この世界に来た頃はもっと――」

「やめろ! あの頃の話はするな!」

 キマイラは苦々しく顔をゆがめる。ネオは一度目を妖しく光らせるとそのまま続けた。

「私のことを先輩、先輩って慕ってくれていたのに」

「くそっ! 昔の話だ。あの頃はこの世界の事とか、お前のことを良く分かってなかったんだ」

 キマイラは歯を食いしばりネオを睨みつける。

「確かにお前には世話になったが、それでも俺とロボ野郎は本来は敵同士。慣れあうわけにはいかねぇ!」

 彼はこう言っているがキマイラとはお互いを高めあう同士。ネオは嫌いになれなかった。


「いつまでも俺はお前の後輩じゃねぇんだ、舐めんじゃねえ」

 その言葉と同時にキマイラは頭を後ろに引くと勢いよく頭突きをする。

 突き出したキマイラの角はネオのフェイスガードに直撃してネオをはじき飛ばす。

 背後にはじき飛ばされたネオは何とか受け身をとり体勢を立て直すが、その隙をキマイラは見逃さない。

 追撃の一手を加えるべく、キマイラは腰を屈めるとネオに飛び掛かった。

「オラオラオラ!」

 キマイラはネオに向け上下左右と絶え間なく両手の爪でラッシュを打つ。

「くっ」

 ネオはラッシュに盾を合わせて何とか防ぐ。しかしキマイラの勢いは時間が経つごとに増していく。


 だんだんとその猛攻を防ぎきれなくなり、ついにキマイラの爪がネオの頭をかすめた。これまで余裕だったネオの顔に焦りの感情が浮かぶ。

 それを見てキマイラはにやりと笑いネオに言う。

「そろそろ限界なんじゃねえの? ご老体は隠居でもしたらどうだ、

 キマイラはカチカチと牙を鳴らしてネオを煽る。

 するとこれまで防戦一方で耐えていたネオの様子が変わった。

「調子に乗るな若造」

 ネオの駆動音が激しくなる。そしてキマイラのラッシュに合わせて盾での重撃を加える。  

 盾にはじかれたキマイラの体制が崩れると、ネオはそのがら空きの腹に思い切り横蹴りを入れ吹き飛ばした。

「かはっ」

 吹き飛ばされたキマイラは腹を抑えてうずくまる。

「…やるじゃねえか、まだ衰えてねえようだな」

「当たり前だ。私は世界の平和を守るヒーローロボットなのだから」

 ネオは目を輝かせ胸を張り答える。

「それでこそ俺の敵だ」

「ふっ。生意気な」

 顔を上げたキマイラと見下ろすネオの視線がぶつかり、再び互いの爪と剣を交えようとしたとき、世界に異変が起きた。地が揺れ始めると空が割れ、二人の間に一筋の光が落ちる。

 その瞬間、二人はこの戦いの終わりを確信した。

「どうやら今日はここまでのようですね」

「ああ、そうだな」

 二人は戦闘を辞め、いつものポーズを決める。

 夜が明ける。神が降臨して住民を選び祝福を与えるのだ。

「今日選ばれるのはこの俺だ/私だ!」

 そうして世界は完全に光に包まれた。





「今日は何で遊ぼうかなー」

 少年がウキウキしながらおもちゃ箱を開ける。

 中には様々なおもちゃが乱雑に入っていた。その中で今日は一段と目を引くおもちゃが二つあった。少年は心の赴くままにその二つを手に取る。

 そして少年は怪獣とロボットのおもちゃで遊ぶのだった。

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神の遊び、ロボと怪獣の戦い O型はんなり @ogata_hannari

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