木箱箱推し
睡田止企
木箱箱推し
僕は木箱箱推しである。
だからと言って、底板単推し・側面単推し・蓋単推し・釘単推しを否定するつもりはない。しかし、健全な状態であるのは、木箱を構成する全てを愛する木箱箱推しであるということは自信をもって言える。
まず、底板単推しについて。
統計的には沼地に多いらしい。底板があるから箱の中のものが濡れないということが推す理由だという。確かに、泥濘んだ大地では一番重要なことだろう。
しかし、箱というのは立体の空間である。底板だけを推すのならば、木箱を推しているとは言えないのではないだろうか。
過激な木箱箱推しが底板単推しに言う言葉に「底板だけが好きならカマボコでも食ってろ!」というものがある。僕はそこまで過激ではないが、底板だけを推している彼らは木箱好きではないとは思う。
次に、側面単推しについて。
統計的には風の強い地域に多いらしい。側面があるから箱の中のものが飛ばされないことや、箱の中のものに砂埃などがつかないことが推す理由だという。
また、側面単推しに関しては、側面にロゴが描かれているため、おしゃれだという意見もあるらしい。
しかし、箱というのは入れ物である。側面だけでは持ち上げて中のものを動かすこともできず、入れ物としての機能を果たさない。側面だけであれば、それはただのロゴの描かれた板にすぎない。
僕は側面単推しは木箱好きではないとは思う。
次に、蓋単推しについて。
統計的には雨の多い地域に多いらしい。蓋があるから箱の中のものが濡れなくてすむことが推す理由だという。
しかし、箱というのは入れ物である。蓋はオプションのようなものだ。木箱に関して蓋をメインに据えるというのはどう考えてもおかしい。
僕は蓋単推しは木箱好きではないとは思う。
最後に、釘単推しについて。
釘単推しはただの変わり者だ。推している理由もわからない。おそらく気を衒っているだけだろう。
僕は過激な木箱箱推しというわけではないが、釘に関してはオマケのようなもので、木箱を構成している要素であるとは考えていない。むしろ、箱の中を埋め尽くしている木屑の方が釘よりも木箱の要素であるとすら考えている。そもそも、名前が木箱である。鉄製の釘は必要かだろうか。木屑の方が木である分、木箱に相応しいように思える。
しかし、釘は木箱に密接に関わっているため、木箱を構成する要素であると言わざるをえない。釘が底板と側面を繋いでいる。釘を抜けば木箱は形を保っていられない。木屑はなくても問題はない。
だからと言って釘に対しての異物感は拭えない。木箱だ。木の箱だ。鉄製のただの異物が、箱の形を保つという役割を人質に木だけの空間に棘のように突き刺さっているように思えてならない。そして、突き刺さって離れようとしない。これならば、木屑の中に紛れているエビの方が異物としてもマシである。エビは木箱から離すことができる。
こんな異物を推しているなんていうのはどうかしている。
彼らは木箱を好きではない。
木箱について考えていると嵐が来た。
僕の住む場所には嵐がよく来る。
嵐に晒されても、箱の中は、底板のおかげで浸水がない。側面のおかげで暴風から守られている。蓋のおかげで雨粒が入ってこない。箱の中は嵐からのシェルターとして完璧に機能している。箱の中のものを守る機能がないのは釘だけだ。釘だけは箱の中にその先端を飛び出させ、逆に、箱の中のものを危険に晒している。
僕は自分の体にできた刺し傷を撫でる。これは先ほど寝返りを打ったときに釘が刺さってできた傷だ。この釘があるせいで安心して眠りにつけない。これさえなければ木箱は嵐からのシェルターだけではなく、安心のできる寝床になるというのに。
やはり、木箱に釘は不要である。
木箱箱推し 睡田止企 @suida
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