2 憑いている

翌日、父が叔母に電話を掛けてくれた。思ったより会話はスムーズで、やはり、今も父だけは交流があるようだった。


驚いた事に、明日、占いの館においでとのことだった。

場所はF市で、車で小一時間もあれば着くだろう。


そんなに近くに住んでいたのか。

私は本音では気乗りがしなかったが、コウタのたっての願いだ。


腹を括り、翌朝、菓子折りを購入して、父に教えて貰った住所へと出掛けた。


お洒落な洋館風の、占い御殿(儲けで購入したそうだ)に、約束の時間より少し早く到着した。


家の前の駐車場に車を停めていると、どこか懐かしい雰囲気の老婦人が迎えてくれた。


思い出した!父の妹だ。私は、


「叔母さま、お久しぶりです。ご無沙汰しておりました。」などと形ばかりの挨拶をした。


叔母は何故か、ニコリともせず、


「どうぞこちらへ。先生がお待ちです。」

と低い声で唸ると、さっさと玄関へ入って行ってしまった。


私とコウタも後に続き、薄暗がりの部屋で、なにやら頭からすっぽりと黒のヴェールを被った、サヨコお姉さんに対面する。


なんと!その顔が、私とそっくりではないか。やはり従姉妹か。


私が挨拶をしようとすると、


「黙って!!

おぉ…見える、見えるぞ…恐ろしい怨念おんねんが、よぉく見えるぞ…。」


などど、大きな水晶玉に向かって、指先までオーバーリアクションを付けて言ってのけた。


…やはり胡散臭い。


私はどうせ、父がコウタから聞いた出来事を、事前にサヨコお姉さんに伝えているに違いない、と思っていた。


ところが、彼女はコウタには目もくれずに、私を凝視している。


…私に向かって言っているの?


急に冷や汗が滲んで、鳥肌が立った。コウタの不調は、私に何か憑いているせいだったのか?


「お前は、呪われている…生き霊が、憑いている…。

怪しい人影が二人、見えるぞ…片方はメガネを掛けていて…。」


サヨコお姉さん、いな、占い師の言葉は続く。


私の身体は、いつの間にか前のめりでお告げを聞いていた。


結局、身の毛立つ様な、脅しのオンパレードを言われたが、しかし当てずっぽうとも思えないような話を聞かされた。


終始、私の、父にも誰にも教えていない人間関係についての指摘で、コウタの話は一つも出なかった。


代金は、身内サービスで無料にしてもらえたが、細石さざれいしのクリスタルと、神社でお清めした塩というのをセットで七千円で買わされた。


私達親子は、狼狽うろたえながら実家への途に着いた。


私は運転しながら、先程賜った、不吉でいて的を得た言葉たちが、頭の中をグルグルと廻っていた。


本当に、この世に占い師、いや、霊媒師なる者は、いるのかも知れない…。


私をじっと睨む、あの目。言葉の数々。

不気味なオーラに、私もコウタも圧倒された。


「ねぇ、ママ。やっぱり今日、行って良かったよ。不思議な力ってあるんだよ。俺、あんな人、初めて見た。」


コウタはすっかり、丸め込められている。

そう言う私も、直ぐに、お清め塩とクリスタルを活用しよう!と心に誓っていた。






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