目が覚めたら鬱ゲーヒロインを呪う邪神になっていたので物語をスタートさせないことにしました

シャルねる

目覚めの絶望

「……ん? ……んん? ……んんん!?」


 目が覚めると、目が覚めていなかった。

 いや、意味が分からないと思うけど、それは俺もだ。

 どういう状況なの!? これ。

 だってさ、目が覚めたはずなのに、俺は真っ暗な空間にいるんだぞ? 朝だよな? なんで光が一滴も差し込んでないんだよ。

 待って待って待って、普通に怖くなってきたぞ!? 夢じゃないよな?! 怖いって! マジでどういうことなんだよ。


 ……もしかして、誘拐か? ……いや、俺なんかを誘拐してなんの意味があるんだよ。

 少し冷静になってきて、色々と考えたけど、答えは出なくて、ただただ恐怖が倍増していくだけだった。

 

 なにかに身体が拘束されている様子もない。

 取り敢えず、動いてみるか。

 ……動きたくないけど。動くしかないもんな。


「ひ、光だ!」


 そうして少しずつ歩き出すと、何か光が見えてきて、自分でも気が付かないうちにかなり精神的に追い詰められていたのか、俺は恥ずかしげもなく大声で叫ぶようにそう言った。

 そしてそのまま、光に向かって走り出した。

 その間に何か邪魔なものがあって足を躓くかも、だなんて微塵も考えずに。


「……な、なんだこれ」


 光のようなものの近くに近づいていくと、そこには占い師が使うような水晶玉がポツンと置いてあった。

 そして、そこには一人の少女が映し出されていた。

 青い髪にまだ成長しきっていない体。……12歳くらいのどこかで見たことあるような少女だ。


「…………レレシスのヒロインか?」


 考えに考えた結果、俺は呟くようにそう言った。

 レレシス……最高で最悪の鬱ゲーと言われたゲームだ。

 ヒロイン達はみんな魅力的で可愛いのに、主人公に選ばれなかったヒロインは全員死亡するとかいうクソみたいなゲームだ。

 ……俺が何回思ったことか。もうこの主人公ハーレム作れよ、と。

 いや、だってさ、主人公がハーレムさえ作ってくれれば、みんなが助かるんだぞ? そう思うのも当たり前だろ。


「……今はそんなことより、なんでここにレレシスのヒロイン……ミレイがこんな水晶玉に映っているのか、だ」


 そうして水晶玉を見つめていると、少しだけ水晶玉に俺の顔が反射していることに気がついた。

 

「……いや、これ、ほんとに俺の顔、なのか?」


 だって、そこに映っていたのは、どう考えてもヒロインを呪う邪神の顔だったんだから。

 黒い髪にいかにも悪人、って顔だ。……人じゃなくて邪神だし、悪神? かもだけど。

 と、とにかく、これが夢じゃないのなら、俺は邪神になったということになる。


「って、納得出来るかぁぁぁぁぁ!」


 邪神になったということになる、じゃねぇよ! なんで俺は邪神なんてものになっちまってるんだよ!


「い、いや、よく考えてみよう。考え方次第では、良かった、のか?」


 だってさ、これ、もうヒロインたちが不幸な目にあうことはないってことだろ? なら、良かった、のか。

 ……いや、主人公にしてくれたら良かったじゃん! 俺なら喜んでハーレム作ったよ! ヒロインみんな救ってたよ!


「はぁ。もう邪神になってしまったもんは仕方ないか」


 うだうだ言ってたって、この事実が変わるわけじゃないからな。

 

「…………うん。それはもういいとして、この状況、どうしたらいいんだ?」


 この空間にあるのはこの水晶玉だけ。

 そして、俺にはこの空間から出る方法だ分からない。

 更に言うのなら、邪神に寿命なんてものは無い。邪神とはいえ、神なんだからな。

 ……つまり、俺はこの長い一生をこの水晶玉を見て過ごすことしか出来ない、と。

 

「え、冗談でしょ?」


 いくらヒロインが大好きな俺とはいえ、それは地獄だぞ? 

 

 そんな絶望に打ちひしがれながらも、この空間から出ることなんて出来ないんだから、俺は大人しく……いや、諦めて、水晶玉の前に腰を下ろした。

 泣きそうになるのを我慢しながら。

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