#6
「それで、結局仲良しになったんですか?」
「わからないわ。なったというより、どちらかというとこれから、なる予定だったわね。一緒に食事に行ったりもできたから。今度は正面を向いて座って、ね。」
「何よりです。それでは、想い人のお話ですか?」
イヌに言われて思うけど、改まってそう言われると、なんだか気恥ずかしくなって、私は耳の奥までバターでも溶けるみたいにじゅわりと熱く、赤くなるのを感じた。
「ま、まぁ、話すわ。私にとって大事な人生の記憶だもの。」
「想い人のこと、それほどまでに思っていたんですね。」
「うるさいわね!!!想い人って言ってるんだから、思ってるのは当たり前でしょ!」
イヌは表情こそ変わらないものの、まぁイヌだから、犬の表情なんてものは人間の私には分かりえないんだけど、声のトーンが人をおちょくるような、少し高いものになっているように感じた。
よくよく考えてみれば、今、数十分前に出会ったばかりの犬に、恋バナをするなんて、私、気でも狂ったのかしら?と、思いつつ、生前そういえばアオちゃんに散々、夜な夜な語っていたことを思い出せば、おかしくもない?
「何を黙りこんでいるんですか?早く話してください?」
きっと今、このイヌのしっぽが見えていれば、左右にぶんぶんと激しく揺れていたことでしょうに。
「私の想い人の話をする前に、一つ、小説とライトノベルの決定的な違いって知っているかしら?」
「さぁ。私はイヌですし、読書はしませんので。」
「そうね。よく考えればそうだわ。うちのアオちゃんは私のお話を読むのが好きだか
ら、てっきりあなたも読むと思ってしまったの。小説に対象年齢は存在しないのだけれど、ライトノベルの対象年齢は。」
ここで一呼吸置く。
「10代なのよ。」
イヌはどうやらピンと来ていないようだった。
彼女は死んでも猫をかぶる 緋盧 @4n2u
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