#2
今度はドッキリしなかった。理由は単純で、もうネタ晴らしを食らっているからだ。実は先刻から、少しずつではあるが、自分のことを思い出してきていた。
「それじゃあ、改めてお聞きしますが、あなた様のお名前は?」
「伊織。伊織っていうわ。」
「あなた様の死因は?」
「トラックね。跳ねられた。詳しいことは、死んじゃってるしわかんないんだけど、
はっきり覚えてるのはトラックの眩しいライトと、その直後に来た強い衝撃…ね。」
淡々と、事実を告げるように喋っている、とにかく死んでしまった事実が変わらないことを知っているからこそ、何か変な気を起こさないために、冷静でいるつもりだった。それでも、やはり胸がぎゅっと何かに抑え、締め付けられるような感覚になった。
「あなた様はご自分でおっしゃる通り、やはりお亡くなりになったわけなんですが、次の肉体で、次の人生を送るために、これまでの人生を振り返る義務があるんです。だから、今ここでお話していただけないでしょうか?」
犬はそういうと、丁寧に頭を下げた。
「私の人生なんて、猫かぶりでつまらないものよ。」
私は少しぶっきらぼうに言った。犬の丁寧なお辞儀を見た直後だったので、罪悪感は少なからずあったが、それでも私は自分の人生を胸を張って語れる自信がなかった。
「それでいいんです。むしろ、あなた様の人生とは死んでもなお、そうでなくてはいけないんですよ。」
人生は長い。だからこそ、その長い人生を全て事細かに語る必要はない。犬は私に、自分が強く覚えている人生の記憶を語ってくれればいいと言った。
だから私は三つのことを語ることにした。
一つは、私の妹のこと。
一つは私の想い人のこと。
一つは私の愛猫のこと。
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