#3
「ところで、犬さん。あなたのこと私なんて呼べばいいのかしら?」
「私のことは、”イヌ”とだけ、そう呼んでくだされば十分でございます。」
私と私の家族は、家族らしくない。気づいたときには、もう、そうなっていた。
「原因は、そう。あえて言葉にするなら、方向性の違いね。」
「家族のことをバンドか何かとお間違えで!?」
「あら?でも、考えても見なさい。初ライブ、狭い箱を埋め、観客を湧かせたバンドマンたちはきっと言うわ。俺たちは家族だー!!!って」
「そう言われれば、そんな気もしてきますが。」
「そうでしょ?発想の逆転よ。」
私の家族、ここでは両親と表現するのが正しい人たちは大衆の意見を尊重する人たちだった。要は多数派主義。だから、固定観念を沢山持っていて、旧い考え方をする。そのせいで、私はよく家族と意見が衝突してしまった。
「そのたびに、私を励ましてくれたのが、アオちゃんなのよ。」
「アオちゃんとは、誰の事なんですか?」
「私の愛猫。可愛いのよ。保護猫だから、雑種だったと思うけど、詳しくはわからないわ。家に来てから、二年くらいだけど、年はそこそこ、少なくとも子猫ではないわね。」
アオちゃんの存在は、私を励ますだけに収まらなかった。アオちゃんは私と両親を繋いでくれたのだ。
「意見の食い違う私たちも、アオちゃんを前にすると猫をかぶるのよ。猫なで声でね。」
あれ程、どうしようもなく険悪だった私と両親の関係は、アオちゃんも勿論だが、単純に私が大人になるにつれて、落ち着いた。多数派主義。両親に限らず大人は結局みんなそうだったのだ。そもそも言葉の意味通り、それは多数であるのだから、みんながその意見を持つのは、当たり前のことだった。ただ、大人が多数派主義なのは、子供を守るためだった。大人の側に近づいて、ようやくその事実に気づくことができたのだ。
「私それ以降、素直ないい子になったわ。」
「それはとても良い傾向ではないですか。」
「ただ、一つ、問題があったわ。一人、ずっと私を許してくれない家族がいたのよ。」
「それが、妹さん…。」
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