第6話 収納箱

 オークションが終了すれば、そこで縁が切れる。

 出品物の追跡も許されていない。

 落札者が公開しない限り、品物はどこぞの世界の何処かへと消えていく。


「……箱だよな? そんなに高価なものなのか?」

「いや、そんなはずはない。そこまで高価なものじゃなかったはずだ」

「だったら、なぜ、あんな額を……」


 ガベルとサウンドブロックは、ふたりして首をかしげる。


「今回もあの『ストーンボックス』はどこかに消えてしまうんだろうな……」

「そんなに心配するもんじゃない。世間の目から消えてしまうだけだ。なにも、廃棄処分されるわけじゃない。しかも、持ち主はあの『黄金に輝く麗しの女神』様だ。正しく使ってくださるんじゃないのか?」

「わかっているよ。正しく使えるから『ストーンボックス』も欲しかったんだろうな」


 あの『黄金に輝く麗しの女神』様は、『ストーンボックス』の正体に気づいている。

 『ストーンボックス』の中になにが入っているのかも予測しているようだ。

 そのうえで、正しい使い方をしてくれる。


 今まで多くのオークション参加者を見てきたガベルとサウンドブロックには、それがわかった。理解できた。


 だから、『黄金に輝く麗しの女神』様は『ストーンボックス』も落札したのだ。


「だとしても……」


 あの落札金額は過大評価だ。

 ふたつあわせて60000万Gだ。


「あれ? ガベルは気づいていなかったんだな」

「なにをだ?」

「受付でだな『黄金に輝く麗しの女神』様は『ストーンボックス』の受け取り手続きだけをしたんじゃないんだぜ」

「え? まさか……」

「そう、そのまさかだよ」


 サウンドブロックが黒い笑みを浮かべる。

 そのなんともいえない意地の悪い笑みに、ガベルはふるりと震え上がる。背筋がゾクゾクとした。


「あの『黄金に輝く麗しの女神』様は、今回の自分宛ての『贈り物』を全部、次回のオークションに出品する手続きを行ってたんだぜ」

「……な、なんて…………思い切りのよい……」


 言葉が見つからない。


 贈られたものをどう使おうかは、受け取った者の自由だ。


 だが、それにしても、受け取り拒否どころか、再出品とは……『黄金に輝く麗しの女神』様は、なかなかにエゲツナイことをするものだ。


 ただの箱入り娘ではない。

 いや、箱入り娘だからこそ、そのようなことを躊躇うことなくできるのだろう。


 下心ある男連中の嘆きを想像すると……これはそれで、胸がスカッとする。

 ざまあみやがれ……と言いたくなった。


 いうなれば『黄金に輝く麗しの女神』様の天罰といったところか。


「オレたちは与えられた使命を理解し、やることをきちんとやればいいだけさ」

「そのとおりだけど……さ」


 なんとも大変な一日だった。


「案外、その方が、『贈り物』たちも幸せになれるんじゃないか」


 アクビを噛み殺しながらガベルの相棒――打撃板――は、カラカラと笑い声をあげる。


 長年使われ、高貴な気配を放つ人々と接し、不思議な力を宿した云われのある品々と触れ合った結果、サウンドブロックとガベルもまた意思を持つモノへと変化していた。


 このまま順調に歳月を重ねれば、人の形をとることも可能となるだろう。

 そのような摩訶不思議なことが、おこりうる場所が、このザルダーズのオークションハウスだ。


 どこの世界ともつながり、どこの世界とも異なる不思議な場所。


 それが、ザルダーズのオークションハウスだ。


「次のオークションは1か月後だ。そのときは、またよろしく頼むぜ、相棒! オマエ以外のヤツとはやりたくないからな」

「ああ。任せろ。相棒! それは俺だって同じだ」


 時を共に過ごしてきたオークション用の木槌――ガベル――は、返事と共に相棒の打撃板――サウンドブロック――を軽くつつく。


 『ストーンボックス』の行方を気にしながら、ふたりは出番となるその日まで、収納箱の中で仲良く眠り続けるのであった。



(終わり)

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