聖遺物箱
深川夏眠
reliquary
知らない番号から着信があった。忙しければ無視するのだが、第六感が働いたとでも言おうか、何故か応答せねばと思った。案の定、姉に関する話だった。
姉は会社勤めをしていたが、要領を得ない理由で退職したきり連絡がつかなくなっていた。
茫然とする僕の横で一方的に捲し立てる家主に友人が代わりに相槌を打ってくれた。
「まあこの
姉は喫煙者ではなかった。来客か、さもなくば同棲相手の仕業か。言われてみれば、部屋はきちんと整頓されて清潔だが、壁紙から
諸経費を差っ引いて残りを返金するからと、家主が僕に振り込み先を訊ねた。それから、僕らは遺品と不用品を弁別し、後者の処分を業者に委ねた。
翌月、少し気分が落ち着いてきた僕は形見の検分に乗り出した。すると、一つだけ
友人も不思議そうに、
「きれいだけど、どうなってるんだろうね。小物入れにしちゃ、引き出しもないし」
「オルゴールじゃなさそうだよなぁ」
仮に、おもちゃのローテーブルだとしたら、
友人は眼鏡のブリッジを押さえて思案していたが、
「心当たりがある。イチかバチか……」
「うん。頼むよ」
好奇心に抗えず、然るべき人に助力を求めた。破壊せずに
中にはお守り袋を思わせる巾着が一つ。紐をほどくとビニールのジッパーがチラと覗いた。次の瞬間、
「うぇぇ、ハザード、ハザード!」
縁起直しのまじないめかした言葉を発した僕らは、しばらく
友人が、さる筋に鑑定を依頼する一方で、僕は姉の日記らしきノートをひたすら捲ってみた。
結果、辿り着いた答えは――肉片の絡んだ金属は肘などの複雑骨折を治療する際に埋め込まれたボルトで、後日、患部を切開して取り出す「
「お姉さんにとっての聖遺物箱か。だとしたら、離別じゃなくて死別だろうね」
「遺骨や遺髪の代わり……か。道ならぬ恋だったのかな」
「切ないねぇ」
僕らは小箱を前に、姉を偲んで盃を交わした。
reliquary【END】
*2024年3月書き下ろし。
*雰囲気画⇒https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/Zsb24uIY
聖遺物箱 深川夏眠 @fukagawanatsumi
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