第34話 夜鷹の襲撃
「ふぅ……流石に山奥に隠れ家を見つけたとはいえ、これじゃ行き来も大変だな……」
「仕方ないですよ、ジュンラ様……私達はアウトローを生きていく選択をした……ほら、その報いは既に始まっています」
団員の女が指差す先には、通りゆく人々に号外を配る者が確認できた。山賊団ナイトホークに気をつけろ……まさしく自分達への包囲網が敷かれ始めていることを受け入れざるをえなかった。
ジュンラは凶悪かつ臆病、そして怠惰といった男であった。苦労することが大嫌いで、毎日毎日、目の前の面倒事やリスクから逃げ続ける。だから、自らが持ち得ない物はちからづくで他人から奪うことすら厭わない。
だが自分達が捕まる、始末されるということは決してあってはならないと考えているので、毎日毎日山奥などに身を隠し、迷い込んできた者からは命も含めて全てを奪う。
残忍な夜鷹なのだ、ジュンラという男は。
「……鬱陶しいな、あいつら。ミミック、やれ」
「……承知。我々をコケにしたらどうなるか……思い知るがいいですね」
ミミックは人差し指を騒がしい広場に向ける。そしてピストルを撃つようにバーンと指を動かしてみせると、先程カイムにやったように、突如虚空から砂地獄が生まれた。
「えっ!? 道路が砂になって……!」
「ちょっと何これ、飲み込まれる!? イヤアアアアア!」
「ぐわああああああああ! 何だよこれ、誰なんだよお前はあああああ!」
ただでさえ騒がしく暑い白昼の都会は、悲鳴が飛び交う灼熱の地獄へと変貌した。アスファルトもガードレールも人も放置された自動車もお構いなしに、全てが砂に喰らい尽くされる。
「……我々に金銭を渡しておけば、あいつらも平穏な日常を過ごせたはずなのに。号外、号外とやかましい人々は始末するに限ります。ちょうど『エサ』も尽きていたところですからね」
「……あぁ、そういやそうだったな。久々のごちそうだぞ! さぁ好きなだけ食いつけ、"ジロジロ"ッ!」
「……チュチュチュ、チィィィィッ!」
ジュンラの掛け声とともに、懐から小さなネズミが飛び出した。ジロジロと名付けられた野ネズミは砂地獄の真ん中へと駆けていき、パニック状態の通行人たちに齧り付く。
「……チチチ、ヂャアアアアアアア!」
「フフフ、元気がいいですね。ジュンラ様……はじめは鬱陶しいネズミだと思ってましたが、これほどまでにお利口だとは……召し使いを雇うより何倍もお得ですわね」
「あぁ。なぜあそこまで我々に懐いているのかは謎だが……気にすることはない、すべて食ってくれたら証拠も消える。
たとえ、アイツがとんでもない魔物でそのうち大暴れし始めようとも無関係ッ! こちら側にも秘策があるのだからな」
「明晰……流石我々のリーダーですね」
ジュンラ達は小さなネズミが人々を捕食しようとする、歪な弱肉強食のシーンを高笑いしながら眺める。こうやって憎きギルドの連中も消せるのだろうか、そう考えたとき……街中に独特なサイレンが響き渡る。
「ムッ……騒がしいですわね」
「いや……早速来てくれたんだ、とびっきりのオオモノがな」
急ブレーキをかけて止まったトラックの、頑丈そうな扉からドタドタと足音を立てながら武装した人が5名ほど降りてくる。彼らは一斉に銃をジュンラ達に向ける。動くな、その合図だ。
「通行人から緊急の通報が入り駆けつけた! 犯人はお前らなんだろう、今すぐ降伏しろ!」
「お前らは犯罪者……いや、それすら置き去りにした凶悪人! 今なら命だけで済ませてまる、両手を挙げて歩いてこい!」
「とびっきりの獲物、異能力騎士団」
ジュンラは不敵な笑みを浮かべる。左腕で右肩をかばいながら手を挙げたジュンラは、異能力騎士団の戦闘員達に問いかける。
「特権を得れて羨ましかろう? お前らはピストルに刃物、その他いろんな武器を扱うことを許可されている」
「……当たり前だ! 我々はこの国、いや世界規模で平和と正義を守り抜く高貴なる戦士達! お前らのような野郎共とはワケが違うッ!」
ついに戦闘員の1人が空に向かって銃声を響かせる。それは運動会のような催しとは近しくも異なる、殺意に満ちた冷たくも熱い、なにより乾いた音であった。
だがジュンラは肝が筋金入りの野盗。そんなものは見慣れている。
「フン……特権か、特権。笑えるな」
「……何がおかしい!」
「あの日、隕石が授けた傍迷惑な贈り物。それは人によってはどんな兵器も優に超える力を持つという……なのにお前らときたらそんな錆びれた銃で我々と戦おうなんて、特権の授与も茶番劇だようだな」
「……どういう意味だ、説明しろ!」
「いや、馬場さん、地面……揺れてませんか?」
「地面……地震、いや違う! まるでコンクリートの下からバケモノでも目覚めたかのような……!」
「フン……正解だ、だがバケモノというのは今からこれを操る、我のことだ」
ジュンラの足元が派手に砕ける。そして手元に何かが飛び込んでくる。
その様子はそれは氷上の釣り人のようで、だがジュンラが釣り上げたのは魚ではなく、長い長い鉄パイプであった。
「それじゃあ……いこうか。狩猟の時間をなぁッ!」
ジュンラは鷹のような勢いで戦闘員へ向かって飛び出す。その目はまさに猛禽類、決して獲物を逃さないという強い意志を宿している。
「……一斉射撃、いけぇぇぇぇッ!」
「「「「ラジャアアアアアアア!」」」」
ジュンラに向かって無数の弾丸が放たれる。普通の人間なら致命傷などで済むはずがない、だが、ジュンラはそれに臆することなくどんどん戦闘員との距離を詰める。
「甘い甘いッ! そんなモノ夜中に車に突っ込んでくる虫同然、やはり所詮は過去の遺物よぉぉッ!」
「こっ……コイツ! なかなかにタフじゃねえか……!」
「臆するなッ! 続けろッ!」
「タマ、持ってくれよッ! があああああああああッ!」
やはり能力を持たぬ者など虫けら当然……今度はこちらから戦闘員に攻撃をお見舞いしてやろう、そう思った瞬間……トラックの扉が勢いよく開き、カウボーイのような風貌の男が飛び出した。
「……誰だ、アイツ――」
一瞬気を取られたのも束の間、カウボーイのような男が腕を振るったと同時にジュンラは手足の自由を奪われ、地面に叩きつけられる。まるで空気に拘束されたかのようである。
「ぐっ……! ほどけねぇ、離しやがれ……!」
「アイキャント、ソーリー……ですがよぉ〜く考えてもみなサイ? 危険な能力者相手に、能力者が備えていないとでも……?」
「卑怯だぞ、大体誰なんだよお前はよォッ!」
「オーマイガァ……ミーのことを知らずに喧嘩を売ってくるなんて勇敢な人です〜ネ! そこそこ有名なんです〜ヨ、ミーの名前は……」
謎の男はやけに自慢げである。だが先程まで恐怖でパニック状態だったオーディエンス達は、表情を明るくすると共にその名を合唱した。
「「ブームと気流を巻き起こすカウボーイ、K.ブーマー!」」
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