第33話 始動、山賊団ナイトホーク

「ぐああああああああああああああ、グギャンッ!」


 リュウゴにやられたカイムは、森の中の小さなスペースに落下した。そこには小さな丸太でできた小屋がぽつんと存在しており、幸いキズを癒すことができそうだ。


「……くそ、あの野郎は許しません! こんなに人をコケにしておいて、次に会ったらただじゃおきませんからね……ごめんくださーい!」


 カイムが堂々と他人の住宅に侵入すると、そこは薄暗い廃墟のようだった。電灯は切れかけ、壁の隅には蜘蛛の巣が張り回られている。家具はホコリまみれで歩くたびに床がギィギィと軋む。


「ゲフ、ケッホ、ウェッホ……! ここの主はガサツな性格だとみました……! 人を招き入れるどころか、少し傷を癒すことすら難しい環境! もしかして人間じゃなく、空き家に獣でも住み着いてるとしか思えません、ゲホッ――」


「……オイ、誰が『獣』だってェ?」


「……いや、それはそれはもちろん貴方様のこと……で……」


「……やれ、ミミック!」


「承知……アリ・ヴェデールチ!」


「……へ!? 今の声は誰ですかっ……て! 足元がッ!?」


 突如、カイムの足元が崩れる。それは決して床が抜けたのではない。ザーーーッという粉塵のようなものが流れていく音、木材はいつの間にか砂へと変わっていたのだ。


「飲み込まれるッ!? 誰ですか、こんなひどいことをしてくるのは!」


「……森子カイム。本当は覚えているんだろう? オレ達にわざわざ断罪されに来るとはお利口な野郎だ」


「……ヒィッ! その声は、山賊団ナイトホークのォッ!? 授けます、どんな……お宝でも、情報でも授けます! 例えば……あのインフルエンサー、米川リュウゴが近くのギルドにいること!

 頼みます、頼むからどうか……いのぢ…………だげ…………ば」


 カイムは砂の中に飲み込まれ、跡形もなく消えていった。その最期はまるで蟻地獄に捕まったアリンコ、なすすべもなくただ、暗い暗い地面の中に捕食されたのだ。

 その姿を、暗闇に紛れた3つの人影が嘲笑う。


「フン……馬鹿を言え、馬鹿を。敵の縄張りにノコノコと現れておいて、助けてくれだと? 盗賊の不文律くらい頭に叩き込んでおけ、コウモリ野郎!」


「失笑。思わず笑ってしまいますよ、あのザマは」


「それにしても厳しいですわね、ジュンラ様は……せめてお宝を差し出して許してやってもよかったのでは?」


「必要ない必要ない! そんなモノ……アイツは盗賊の中でも底辺中の底辺、大した掘り出し物なんて持っとらん……だがヨネカワという者のこと。かーなーり、気になるな……」


「ああっ! 確か耳にしたことがありますわ……ギルドに属して人々の悩みを解決しつつ、インフルエンサーとして若者から支持を集めるという男。きっと金目のモノもいくつか持ってらっしゃるかと」


「同意。インフルエンサーとなれば、いくつか機材などを揃えているでしょう……彼の身ぐるみを剥がし、アカウントも奪取することができたならば……楽しいことになりそうですねぇ」


「フン……面白そうだな、それは! となれば早速出向くぞ、近くのギルドを手当たり次第ッ!」


「「ラジャー!」」


 ついに邂逅することとなるのか、山賊団ナイトホークと! リュウゴはカイムと一戦交えたことにより、良くも悪くもターゲットに近づくことになったのだ…………

 

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