第32話 2日目 〜目を覚ましたら〜

「……起きろ、起きるんだ!」


「……うぅ…………来るな、こっちに…………ぐがぁ…………」


「米川、しっかりしろ! ボクだ、大丈夫だ!」


「…………あれっ、オレは一体……?」


 リュウゴが目を覚ますと、そこはもはや見慣れたベッドの上であった。全身傷だらけ、だが遊園地のような場所でマスコット達に立ちふさがれてからのことは何も記憶にない。


 リュウゴの視界には幽霊の類はどこにも映っておらず、ユキハルがただ心配そうにこちらを見下ろしているだけだ。

 それにしても一体何があったのか。なんとか助かったのは間違いないのだろうが、ユキハルに問うもはぐらかされる。


「頼むよ……オレ一体どうなってたんだ、どうやってあの遊園地から脱出できたんだよ……!」


「……無かった」


「へ…………?」


 意味がわからない。たしかに遊園地はそこに存在した。にも関わらず無かったなんて、絶対に信じられない。だがユキハルの性格的に、嘘をここでつくとも思えない。

 リュウゴが現実を受け入れられずにいても、その残酷な説明はまだまだ続く。

 

「遊園地なんて無かった。ボク達が駆けつけたら、何も無い、ただ草木が生い茂ったところで独り言呟いたりフラフラと走り回って、それと……」


「それと?」


「……暴れていた。人が変わったみたいに小さな魔物を狩りまくって……だからボクの判断で、不意打ちで気絶させてここに帰還させたのだ」


「魔物を狩り…………そ、そんなハズは! 確かにオレは、ちっちゃい子どもに寂れた遊園地に誘い込まれて、それでマスコットとかに襲われて、気付いたら……!」


 あれは夢だったのか? それとも幻……? どちらにせよ、リュウゴは何かを倒したりなどは決してしていない。


 そうだ、魔物や能力者を倒せばポイントが貯まっていくと説明があったじゃないか! 逆に言えばポイントが貯まっていればそれだけ敵を倒したということだし、そうでないならやっぱりそんなことはしていない、という証明になる。

 リュウゴはスマホを取り出し、ポイントを確認する。倒した覚えがあるのは能力者2人だけだ、それだけで大したポイントなど貯まってないはず…………だった。


「現在のポイント、きゅうきゅ…………99……!?」


「あぁ。わずか2日でこの途中経過……前に受けた2人よりも遥かに早い。だがボクには米川が試験をこのまま続けていいのか分からない」


「あと1ポイントなのに……? それってどういう?」


「繰り返しになるが米川はか弱い魔物を対象に、無差別的に蹂躙していた。おそらく、一種の暴走状態に陥っていたのだと考えられる。

 米川もこの業界にいるなら聞いたことがあるだろう? 能力者はある日突然、自我を失い暴れ出す者がいることを……!」


「自我を……」


 異能力騎士団に所属してきた時期も時折、そういう話は耳にしていた。彼らは例外なく即始末され、その後その姿を目にした者はいなかったそうで…………だが、リュウゴは自分が今、それにあたるなんて考えられなかった。ましてや今、ベッドの上で大人しく横たわっているんだから。


「米川、とにかく今日は休んだほうがいい。そもそも米川は半年ほどのブランクがあるんだ、いきなりの連戦は心身共に疲弊させてしまう……」


「……で、でもそれだとオレは――」


「これは命令だぞ! 悲劇を繰り返すなんて……とにかく、ダメなことはダメなのだ!」


「ッ! うぅ……」


 突然の叱咤に、思わず胸がドキッとする。しかし流石の米川でも、ユキハルの言わんとしていることは理解できた。過去のトラウマを振り払い、でもこれ以上二度と同じことを繰り返せまいと決意したその眼は、どんな純水すら霞んで見えるほどに真っ直ぐなものだった。


「分かりま……した。 今日はもう、ゆっくりします」


「……うむ。こちらこそ声を荒げてすまない…………決して無理だけはするな、それじゃ」


 そう言い終えるとユキハルは部屋をあとにした。ゆっくりと、でも力の抜けきれてないそのドアの閉め方は、彼が抱える葛藤をこれでもかと強調させるものだった。


 リュウゴは天井を見上げる。よくあるタイプの防音機能の備わった天井。それを迷路みたいにウネウネと指を動かしながら物思いにふけっていると、疲れからか自然とリュウゴは眠りについていた……。



 あとから聞いた話だが、遊園地についてはアツトのスマホにメールが届いていたらしい。だがそれは見るたびに文面を変え、しまいには受信したその履歴すら、真っ白に消えてしまっていたという。


 あの正体がなんだったのか、いくら考えても分からない。



 

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