第35話 ブームに乗るカウボーイ

「す、すげえや! 27クエスト連続クリア中のブーマーさんだ!」


「ほ、本物のブーマーさん! オーラが段違いだ、これなら勝てる!」


「キャー! こっち向いてぇ〜!」



「イエーイ……この瞬間がたまらない、だが……」


 歓声に包まれるブーマーはジュンラの動向を伺いつつも、その後ろで控えている手下2人に注意を払っていた。


(あそこに待機してる男女……見たところ、この男に比べたらかなり格下に見えマス。こいつの強さを10とすれば、0.6と0.4ってところでしょうカ? ともかく、まずはこのボスから始末すればいいデスネ……)


 ブーマーは左手をデニムのポケットに入れ、右手を銃の形にして人差し指をジュンラに向ける。それはまるで西部劇に出てくるカウボーイそのもので、キレイに整えられた爪先はキラリと金属のような光沢を輝かせる。


「……オイ、何のマネだ、早撃ちか? 悪いが、これはごっこ遊びじゃねえんだぞ」


「……遺言はそれでいいんデス? あの世で後悔しますヨ」


 静かな風がそおっと通り抜ける。オーディエンスの興奮とは対照的に2人の間には緊張が走る。


「……遺言か。悪いがその言葉、そっくり返す。そして早撃ち対決も、制するのはこの鷹取ジュンラだッ! 狩りに参って狩られやがれェェッ!」


「……ホワッツ?」


 ブーマーがあっけに取られたのも束の間。その刹那は運命の天秤を大きく狂わせた。ジュンラに弾かれ散らばっていた弾はガタガタと自我を持ったかのように震え始め、その矛先をブーマーに向けたのだ。


「我の能力は『金属の使役』。今、我は嬉しいんだぜぇ、お前のように自信満々にやってきたヤツを返り討ちにできるというんだからな。さっきの大歓声、どうやらかなりの実力者のようだが……我には一歩、届かなかった」


 さらに銃弾は振動を強める。それはかつての役割をこなさんとばかりに宙に浮き、だがそれはむしろブーマーに向かってスタートダッシュを決めた。


「うわあああああああ!」

「ブ、ブーマー様ぁぁぁ!」

「嫌ァァァァァァ!」


 数コンマ先の未来が見えたのか、皆悲鳴を次々と上げる。だがブーマーはおじけることなく、むしろ抵抗を強めた。


「卑怯者ッ! ズバババババババァァングッ!」


 ブーマーはそのを左腕も解禁して10本に増やし、今度はガトリングガンのように弾丸を放つ。その姿を見ても、オーディエンス達の緊張の糸が切れることはない。


「あのブーマーさんが追い詰められるなんて、聞いたことねぇぞ!」


「ど、どうする!? さらに援軍を呼ぶか? なんなら別のギルドでも……!」


「何言ってんだ、間に合うわけねぇだろ! 信じるしかない、ブーマーさんを!」



「「ブーマー! ブーマー! ブーマー!」」


 東京の片隅で巻き起こる銃撃戦に共鳴する、大勢の歓声。本物の弾丸と空気の弾丸、それらがまるで武士の乱戦のようにあちらこちらでぶつかり合う。


「ぐぐぐ……ヤツは使用済みの弾も再利用できるッ……ならばこれはスタミナ勝負! もってくだサイ……!」


「フン……もう一度言うぞ?」


「……ホワッツ?」


「我の能力は……金属の使役。金属を内包する物体ならば何度でも、何であっても……我の忠犬となるのだ」


 ブーマーの後ろに、キラリと不気味な光沢を放つ小さな物体が待機する。当然それが慈悲など持ち合わせているハズもなく、ブーマーの脚を貫いた。


「グアアアアアアッ……! ミーとしたことが、背中から撃たれる……なん……て…………」


「ブ、ブーマーさあああああああん!」


「逃げる、逃げるぞぉぉぉ!」


 歓声が突如、悲鳴に変わる。ブーマーに意識はあるようだが、脚を撃たれては自由を奪われたも同然、希望そのものだったブーマーは1人の男の前に倒れたのだ。


「さっすがジュンラ様! だけど、それにしても無様な姿ねぇ……こうはなりたくないわ、絶対……」


「同意……ですが我々の真の獲物はインフルエンサーの男。ここで苦戦していてはならないのです」


 うずくまるブーマーを尻目に、ジュンラは部下2人のもとへ移動する。鷹の翼を彷彿とさせるように深みのあるブラウンのレザージャケットをたなびかせながら、スマホを取り出して「米川リュウゴ」と検索する。


 出てくるのは当然、リュウゴの写真やチャンネルなどである。ジュンラは最新のアーカイブのサムネイルを開く。


「見えるか、ミミック? この男の居場所……教えてくれないか」


「承知……この男、恐らくまだ東京に住んでいるはず。このビルの配置に車のナンバープレート……見えました、奴はすぐこの近く、恐らくあの屋敷にいますッ!」


「フン……流石の洞察力だな、ミミック。ならば行こう……おっと、杖を忘れるな。都会は道路が多いからな」


「感謝。しかし、私ももう少し目が見えていれば――」


「かまわん、我が持たざる頭脳を有している……それだけでミミックは最高の戦力だ。そして場所が特定できれば、やることはただ1つのみッ!」


 ジュンラはなんとその手に握ったスマホをバキバキと音を立てながら握りしめ、粉々に砕いてしまった。基盤の欠片をこぼれ落としながら、その鷹のような眼を光らせて宣言した。


「……さて、狩りの時間だな。米川リュウゴの財産から名誉まで何もかも、奪い去ってやるぞッ!」


「「ラジャーッ!!」」




 

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