第26話 意味深な野盗
「さぁて、早いとこスタートダッシュ決めたいけどなぁ。合計100点以上だっけか? 1日に15点弱くらい集めれたらいいとはいえ、1体、1人敵を倒したらどんだけ貰えるのかも分からんからなぁ……」
色々と考え事をしながら、リュウゴは東京の街を練り歩く。暖かくなった東京は朝から活気に満ち溢れている。高級ブランドの紙袋を片手に、もう片方にコーヒーを抱えてゆっくりと歩く若い女、世間話にあけくれるおっさん2人組、ジャージのまま部活帰りに買い物を楽しむ学生たち。普遍的「都会」といった光景だは
しかし、今のリュウゴに買い物などを楽しむ余裕は無い。金銭的にというのはもちろん、今は重要なテスト中だからだ。まだ締切は先だとしても胡座をかいていれば、その惰力は後ほど牙を剥いてくる。夏休みの宿題にテスト勉強、その他数々の提出物。リュウゴにとって飽きるほど経験したことだ。
「あぁ〜。とりあえず何かしら達成さないと話が始まらない。どっかにいないかなぁ、魔物か能力者って……何じゃあれ?」
不謹慎にも、小さな事件でも起こってくれないものか。そんなことを考えながら歩いていると、広場では何やら慌ただしく号外が配られていた。
「号外! 号外でーす!」
「山賊団ナイトホーク! 謎の窃盗グループ、山賊団ナイトホークと名乗る団体の目撃情報及び被害が最近急増しています、皆様十分ご注意くださーい!」
「え、山賊? なんじゃそれ……?」
リュウゴも号外を受け取って記事に目を通してみる。どうやら最近になり山賊団ナイトホークと名乗る数名の団体が無差別的に強盗行為をはたらいているらしい。幸いリュウゴの身内はその被害にあっていないが、突発的にこれほどまでの騒ぎになるほどだ、決してタダ者ではないのだろう。
リュウゴは記事を受け取って「怖い」とか「注意しよう」とは全く思わなかった。それどころかテンションが高くなった、ターゲットが見つかったと。
こいつらを倒せば、きっとポイントを一気に倒せる。思わず口角が上がる、自然と目が怪しく光る。記事を片手にニヤニヤと笑みを浮かべながら歩くリュウゴは、傍から見ればまさしく不審者である。
「ポイント、ポイント〜! 待ってろよ獲物達! 鷹狩りの時間だぜ、ウヒヒヒ……」
明らかに怪しい独り言を呟きながら、リュウゴは
落ち葉が押し付けられる音、枝が割れる音、野生動物たちの不協和音。暗い木漏れ日に照らされながら、怪しい道をとにかく進んだそんな時。突如、リュウゴの後ろでカサリと音が響く。
「ッ! 誰だ!」
リュウゴは後ろを振り返る。そこには何もいない。だが確実に風のしわざでは無く、かなり大きい"何か"が横切ったのは間違いない。野生動物や魔物だろうか? リュウゴは足元に落ちていた手頃な枝に魔法で火をつけ、簡易的な松明を片手に周囲を見渡す。
しかし、何も起こらず。今配信してればコメントや自身の録画でその正体を掴めたかもしれないなぁ、なんて少し後悔しながら辺りをくまなく警戒する。そんな時だった。
突如、足元に見知らぬシルエットがぬっと現れた。まるで後ろの木にぶらさがり、コウモリのような姿勢でこちらを至近距離で観察し始めたかのようだ。
リュウゴは固唾を飲み込みながらも、松明を頭上に掲げてゆらゆらと揺らす。この炎で影が丸見えだぞ、そんなメッセージである。
「見えてるからな! 降りてこい、このコウモリ野郎!」
「おおっと! バレていましたか……これはこれは、失礼致しましたね。キヒヒヒヒヒ……」
不気味な笑い声と共に、カサリと足元から音が鳴る。間違いない。影の正体は今まさにリュウゴの背後に降り立ち、自己紹介を始めた!
「
(や、野盗? まさかナイトなんちゃらって奴らの仲間か? ならば映像にその証拠を……って、あれ?)
リュウゴはスマホをおもむろにポケットから取り出そうとするが、左も右にもそれは見当たらない。だが落とした記憶は全く無い。おかしい、なぜだ! 慌てふためくリュウゴの様子を見て、さらにカイムは不気味に笑う。
「キヒヒヒヒ、これですか? 今貴殿が探しておられるのは。随分とスペックの高そうなスマホですねぇ、まるで配信業を営んでいる方が愛用してそうなプロ仕様の機種ですね」
「ッ!? オレのスマホ……返しやがれッ!」
「おおっと、いいんですか? 私は貴殿に全く触れることなく、このスマホを頂戴いたしました……この答えが、キヒ、キヒヒヒヒヒ……分かりますかねェ、キヒヒヒヒヒヒィ!」
「な、何だよ! 気持ち悪ぃ……」
最悪だ、遊園地に現れた謎の魔物のようにサクッと敵を倒せると思いきや、いきなりクセモノと対峙してしまった……それも何を考えているのか分からない最悪なタイプ、それに能力も謎である。
物を奪う能力の持ち主か? あるいはそれは野盗を続ける間に磨き上げられたもので、恐ろしい能力を隠し持っているのか。能力者は顔面に浮かび上がる模様やアザでおおよその能力を考察できるのだが、あいにくカイムはその大部分を真っ黒な覆面で隠している。これでは一番気になる能力が何なのか見当もつかない。
「……とにかくッ! オレはお前を倒す、憎悪の炎がメラメラ燃え始めてんだからな……?」
「大人しくしていれば、ちょこっと情報をいただくと共に貴方を再起不能にするだけで許すんですよ? それでもいいのですか?」
「当たり前だろ? それに再起不能になんのはそっちだ」
何と言われようとも、ここで臆するワケにはいかない。リュウゴの能力は自他の感情の高ぶりを熱に変換するもの、ビビってしまえばその炎は湿って消えてしまうだろう。
「あらあら。本当に、本当にいいんですか? 私の推理になりますが、貴殿はかつて某大手ギルドに所属していて、毎度配信を行いながら戦っていた……そんな貴殿がスマホ無しで戦ってしまっていいんですか? ルーティン、崩れてしまいますよ」
「関係ねぇだよ、今オレは別のギル……ッ!?」
(こいつ……明らかにオレのこと知ってやがる!)
戦慄。背筋が凍てつき、思考回路も動きが鈍くなる。
ヤバい、ヤバいヤバいヤバい! すぐさまスマホを取り返し、いきなり助けを呼ぶべきか? ポイントの前借りができるのか不明だが、ユキハル、コトハ、ラゥーヴ、アツト、もしくは……! だが、油断は命取りである。少しでも油断を見せた瞬間、猛獣は牙を剥き襲ってくる。
「あああああああ! これから成果を出せると思うと、ウズウズしすぎてじっとしてられません……戦闘開始。ぜひお楽しみくださいねェッ!」
まるで獲物を見つけたコウモリの滑空のように、奴は突如動き始めた。
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