第27話 怪しいバッドなヤツ
「ちょッ! 待てって……グハァッ!」
「ほらほら、ほらほらほらァ! よそ見してると狩られますよ、このようにねッ!」
「ぐあっ……あああ……! 速ぇ、なんだよこいつ……」
間髪入れることなくカイムはみぞおちや脇腹を狙って攻撃してくる。その動きはまさに自由を手にした鳥人、重力なんぞに縛られることなく、舞い踊るように脚技を繰り出してくる。
体制を立て直す、攻撃をとりあえず防ぐ、もはやそんな余裕すらない。格闘ゲームの無限コンボのように次々と攻撃を繰り出すその様は、まさに理性も慈悲も持たない野生動物のようだ。
(くそっ、もう目眩がしてきやがった……こうなりゃやるしかねぇな、上手くいくか分かんねぇけどよォ!)
自分は周りの応援や自分のハイテンションが無ければ魔法を最大限に使えない……そんなの関係無い。リュウゴの全身を駆け巡る魔力を、ありったけを放出するしかない。うまくいくかは不明、なぜなら一度もやったことがない方法だからだ。
「……変態のイトハラさんよぉ、感情は爆発って……これで合ってるんだよな? ウズウズ燃えてきたぜ、このクソ野郎をいきなり焼き焦がすことができると思うとなぁッ!」
「ほぉっ! これだけいたぶられても、まだ反抗する気持ちがあるとは見直しました! 今までの奴らは泣き叫ぶばかりでしたから……余計に、貴殿からは搾取する価値があると感じました、ならば次の奪取ッ! 始めましょうかあああああッ!」
「……新・必殺、∣
「鍍金……火遁ッ!?」
じゅわじゅわと、噴火した溶岩の如き熱気がリュウゴから放たれる。水滴が垂れようものなら瞬時に蒸発しそうな、そんな身体にカイムの脚はどんどん突撃していく。
(聞いたことがありません、そんな技は! だけども今からブレーキをかけるには……既に遅すぎるッ!)
(へっ、ぶっつけ本番、いい感じだぜ! さぁ早く自滅しやがれコウモリ野郎、でなきゃこのオレまで溶けてしまうじゃねえか!)
リュウゴの皮膚表面の温度はどんどん上昇していく。ヒトの身体のタンパク質は42℃程で変性を始めると言われている。不可逆の反応、神経組織という生命のメインコンピューターの破壊、その行き着く先は三途の川である。
しかしリュウゴはむしろこの状況をどこか楽しんでいた。危機的状況に陥っての防衛反応か、もしくは既に危険を通り越しあり得ない挙動を起こし始めているのか、あるいは強がりか……ともあれ2人の能力者がぶつかり合う、その瞬間まであと1秒すら無い。リュウゴとカイム、この勝負最後の択は既に決まっている。
(さぁ受け止めて焼き焦がしてやる、初見の技で砕け散るんだなコウモリ野郎!)
(この熱気……! ただ蹴るだけでは返り討ちは必須! ならばやるしかあり得ませんね、本気を今ここで……!)
「来いやあああああああああああ!」
「オッラアアアアアアアアアアア!」
マグマの肉体と突風の肉体がぶつかり合う。激しい光が飛び散る。だが鍔迫り合いのように両者押して押されてで決着はつかず、互いに魔力を絞り出し続ける。
(いや、来んじゃねぇ……熱すぎる、このままじゃ身体が溶けて……!)
(まずい、脚が熱くなってきました……否ッ! これを利用すればいいのです、その熱をこちらの武器に……そうすれば!)
カイムはニヤリと怪しい笑みを浮かべる。この均衡を破りリュウゴを狩る打開策を思いついたのだ。灯台もと暗し、単純が故に視界から外れていた、簡単な答えを。
「貴殿……ヒヒヒ、調理された経験はありますか?」
「調理ィ? 何言ってんだ、ビビっておかしくなっちまったのなか?」
「おかしいのは貴殿、私の能力に油断した貴殿ですッ!」
「……まっ、まさか!」
「その熱そのものを頂戴いたしますッ! 最悪の恐怖をいざ、ボナペティートォォッ!」
リュウゴの熱がどんどんカイムに吸い取られていく。諸刃の防御をとっていたリュウゴにとっては一旦自傷ダメージから逃れられるが、その先にあるのはカイムによる高熱を纏った脚技である。一度体勢を立て直すべきか、そんなことを考えるヒマもなくカイムの靴はついに燃え始めた。
たちまちリュウゴの身体に熱が伝わる、自分を守っていた盾が鉾となり牙を剥いてくる。脳裏を駆け回る後悔、分かっていても自分は未知の敵に猪突猛進するクセが治らない……自信を失い、疲れとダメージからか目眩がする。
「ああ。あのクソオーナーの言う通り、フツーにバイトすべきだったんだ。オレは周りに応援されてなけりゃ、所詮は三流の能力者……」
走馬灯が始まる。数々の思い出が目の前に映る。
「ここは生まれた病院。これは初めて歩けたとき。これは石井さんとの思い出、なんでアイツ突然来なくなったんだろな……そしてこれは保健室でイトハラとやらに絡まれ……ん?」
なぜか何度も絡んでくる謎の存在、イトハラ。間違いなく走馬灯のはずなのに、彼が発する言葉はリュウゴの背中を後押しするものだった。
「君に託したいものがある。まず1つ、マンガの主人公のように、いつしか大きな存在になってほしい……」
「大きな、存在……」
「……ほう? まだ元気があったとは。貴殿、そろそろ三途の川を渡られたと思っていましたが……それならいいでしょう、その川に貴殿を蹴り押すだけです、オッラアアアアアアア!」
「そうだ、オレは太陽みてえに皆を元気にできる、そんなビッグな存在になるんだ! 誰もオレを超えられない、そんな太陽みたいな存在にッ!」
「キヒヒヒヒヒ、今まで縮こまってたクセに何をおっしゃいます! いい加減に狩られなさい、この熱に――」
「狩られるのはお前だぜ、自分の技によってな!」
「……む!?」
今度はリュウゴがカイムにニヤリと笑い返す。熱をどんどん吸収するカイムの足元は巨大な炎で包まれており、ジリジリと衣服を食い始めていたのだ。
「熱いだろ? 派手に燃えて決めてやるぜ、これがオレの熱意、心の叫びッ! オレの勢いまでは奪えなかったようだなああああああ!」
「あ、熱いッ! この野郎……覚えてやがれえええええ!」
カイムは慌ててリュウゴから脚を外す。だがその勢いは火炎によって強化、ロケットのように空高く飛んでいってしまった。空を見上げていると、戦闘前に奪われていたスマホがヒューンと落ちてきた。
「おっと、あぶねっ! 壊れたらどうすんだ、全く……」
愚痴を呟きながらもスマホをポケットにしまうリュウゴ。次なる敵を探しながら歩き始めたリュウゴのスマホには、「森子カイム撃破 付与ポイント5、累計ポイント5」と通知が来ていた……。
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