第24話 試験の呪い?

「ふぅん、回遊試験ねぇ……オレが3人目? ってことは、全員にやってるってワケじゃなさそうだし……それにしても当落線上かぁ〜……」


 自分が思っていたより危ない状態であるという事実が、後になってリュウゴの心臓を締めつける。ただでさえ学校を時々休んでバイトに入るぐらいには金欠のリュウゴ、退学になって職にも就けませんでした、というのは本当にシャレにならない。


 どうしよう、どうしよう……緊張感という名のエンジンが激しく音を立てる。そんな時、机に突っ伏した背中に誰かの手が乗ってきた。


「……聞いたぞ、米川。回遊試験だってな」


「あ、グラサ……じゃなくて雨倉さんか、お疲れっす……」


「米川。これに至っては話さねばならないことがあってだな……その、過去にその試験を受けた人がいてな」


 ユキハルは何やら含みを持たせた語り口調をリュウゴに投げかける。その顔はどこか悔しさや寂しさを隠しきれないものであった。


「沢と宇佐美。残念ながら、既にここからは旅立ってしまったが……過去に試験を受け、合格を勝ち取った2人だ」


 前に受けた2人が両方とも合格、ならば簡単な試験なのか? そう思ったリュウゴだが、ユキハルの声色はリュウゴを励まそうとしているものでは決してなく、暗い暗い……まるで深夜に降る雨のような声だった。


 まさか死んだのか、問いかけずとも察せる。沢と宇佐美という人物は既に命を落としたのだと。ギルドでの仕事は命がけ、それはそこで働く人全員が認識している事実である。実際、ゴブリンでさえその腕力はプロボクサーに匹敵する個体はわんさかといる。それがさらにさらに危険な魔物、例えばドラゴンやサイクロプスなどとなれば……リュウゴは思わず固唾をのむ。


「そうか……なら、その2人のためにも頑張らないとな、空から見守ってくれてるだろうから」


「それはそうなんだが、その……これは一種の『都市伝説』程度でいいんだが……」


「都市伝説?」


「あぁ。杞憂で終わればいい、いや終わらなければならないことなんだがな。このギルドでも、これまで命を落とした人間は少なくない。だがあの2人はどちらかというと消えていった……いや、ようだった」


「……消された?」


 意味がわからない。消されただと? 一体誰に? 違うギルドの奴らか、魔物達も何か組織のようなものを作っているのか、もしくはここに裏切り者がいるのか? カタブツなユキハルの口から発せられるそれはただの陰謀論などと捉えることはできず、明らかに現実味のある都市伝説だったのだ。


「ああ。残念なことに、これまで多くの勇気あるものが儚く散っていった。彼らは強い魔物や能力者にやられたり、あるいは事故や病気などで、という感じだった。

 でもあの2人はどこか違った……見たことも聞いたこともない不思議な物体を発見したとか、そんな話をして数週間経った頃だった。失踪したかと思いきや突然、人気ひとけのないところで冷たい状態で発見された」


「ハハハ、何だよそれ。失踪? ワケわかんねぇ、マジ……」


  リュウゴは恐怖をごまかすように自分を落ち着かせながら情報を整理する。そもそもテストを課して合格した者を消すなど意味がわからない、でもカタブツなユキハルがここまで真剣に「都市伝説」を語るならば、絶対に何かがあるに違いないと考えられる。


 

(うーん……えっと……多分これか? 自信は無いけどよ)

 

 

 あれこれと頭を捻らせた結果、リュウゴが導き出したのは2つの仮説であった。それは魔物がギルドを作っている説と他のギルドに消された説である。

 

 まずは魔物のギルド説だ。例えば、一口にお菓子メーカーといっても世界に知れ渡る有名なものから、観光地の片隅に佇んでいる、古くから老舗として続いている小さなものまである。それと同じようにギルドも様々なものがあって、2036年現在日本にあるだけでも200以上はあると言われている程だ。

 それほど人間側が魔物側に防衛線をひいているならばと、魔物側が何らかの大規模な対抗組織を設立していても不思議ではない。回遊試験合格後に命を落としたその2名は、共通して奴らにとって不都合な何かを見つけてしまったのかもしれない。


 次に違うギルドによる暗殺説。はっきり言って、自分達の力こそ正しいのだと信じるギルドは多い。異能力騎士団こそその一例で、彼らは良くも悪くも自らの正義をとにかく煮詰めきったような団体である。逆らう者は何人であろうと絶対に許さない。そんな彼らの、何らかの怒りを買ってしまって……いや、これは考えすぎか?



「……ダメだ。さっぱりだ。てか、なんでピンポイントで『消す』必要があるんだよ。その話を聞いたグラサ……ユキハルさんはこうして無事でいるだろ? 縁起でもない話すんじゃねえって」


「……そうだよな。済まない、ボクとしたことが…………もし

 もし本当にやるならば。明日からの試験……頑張ってくれよ」


「言われなくともそのつもりだ、なんなら1日で終わらせてやる。んじゃあオレは今から寝るぜ。ロングスリーパーだからよ、オレは」


 リュウゴは椅子から立ち上がり、ロビーを後にする。自分の個室に向かいながら、初日はどんなルートで回ろうかと作戦を立ててみる。


「やっぱ暴れてる能力者倒すのが手っ取り早いかなぁ。東京練り歩いてりゃあ、そういうヤツはわんさか見かける。何らかのトラブルとかで配信できなくても、街中ならオレのこと応援してくれる人いっぱいいるだろうし!」


 当落線上という事実はどこへ行ったのやら、もはやワクワク感すら湧いてきたリュウゴ。だが彼を待ち受けていたのは地獄の門。死闘に次ぐ死闘が待ってるなんて、この時は思いもしなかった……

 

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