第23話 打診、回遊試験
「ふぁーあ、ただいま戻りましたぁ〜。米川リュウゴですぅ〜ぐほっ!?」
「え、アツトくん大丈夫!? めっちゃボロボロだけど……」
「あぁ……まさか変な奴と連戦することになるなんて……もうだめだぁ〜」
「え、一体何があったの!?」
リュウゴは事の顛末をコトハ達に話した。すっかり寝巻きに着替えてリラックスモードのコトハだったが、リュウゴの報告は真剣に聞いてくれた。
「……ってワケなんだよ。やっぱおかしすぎだわ、あのギルド……」
「災難だったね……今日はここに泊まっても、帰ってもいいと思うよ。報告とかは明日でも大丈夫だと思う。もう為成さんも帰ったし――」
「米川君! どうやらクリアしたようだね、おめでとう!」
「ひゃっ! 帰ってない!」
「うわびっくりした! 心臓止まるかと思った!」
噂をすればなんとやら、ロビーに現れたのは為成であった。その右脇には何やら書類のようなものが抱えられており、リュウゴはそれが何なのか気になって仕方がない。目を細め、顔をあちらこちらに動かしながらその状態を探る。
(何だありゃ……もしかして本契約か!? オレついに報われた!?)
期待を隠しきれず思わずニヤケ顔を浮かべるリュウゴ。その目の前に為成が差し出したのは期待とは少しズレた、理解不能な文字列であった。
「米川君。キミにはぜひ挑戦してほしいものがあってね、それがこの『回遊試験』だ」
「かいゆう、しけん……?」
初めて聞く単語なだけに、リュウゴは理解が追いつかない。そもそも学の無いリュウゴにとって、回遊の意味が全く予想することすらできない。シワがよった眉間を見て「それ」を察した為成は、咳払いをついて説明を始める。
「コホン……単刀直入に申し上げると、これがキミを雇うか否かの最終判断だ。これを行うのは確か、キミで歴代3人目でね……申し上げにくいが、キミをこれから本当に雇うかどうかは当落線上なんだ」
「と、当落線上って……」
「フィジカルや魔力のポテンシャルだけで能力者を判断することはできない。頭脳や協調性、判断力に将来性……あくまでも総合力なんだ。
キミも聞いたことがあるだろう? どのギルドでもランクは大きく分けてEからAの5段階に分けられる。そしてキミは……下から数えて2番目、Dランクなんだ」
「そ、そんな……」
リュウゴはショックを受けながらも、目の前に出された通知簿のようなものに目を通す。学期末のトラウマ、それを不意打ちでくらわされる。
「フィジカルB、火力B! 頭脳D、協調性D、判断力D……常識E…………あぁもう見たくない! ヤメだ、こんなもん……」
「だがね、米川君。キミの将来性は素晴らしいものだと確信している。だからこそ、この試験の打診なんだ……これは1週間の期限でとにかく沢山の依頼をこなしたり、暴れ回る能力者や魔物を倒したり……そういったことで合否は分かれる。
もちろん危険な試験になってしまうよ。ましてや最近問題となっている、新種の魔物の大量発生に治安悪化。命を落とす危険性すら低いとは言えん」
「……!」
突如、ロビーに戦慄が走る。もちろん、いつものクエストも危険だらけだ。だが、為成に提示された試験はあまりにも不穏で、何か大規模な災害の前触れのようなものすら感じられる。どが、リュウゴにそれを断るつもりは断じてない。カゲミチとの戦闘中、何の変哲もないリスナーから送られたコメント。
『諦めるな、“crawl up!”這い上がれ!』
それがリュウゴの背中をそっと後押ししてくれた。正直、リュウゴほどの知名度となればこんなコメントは飽きるほど目にする。それでもなぜか、まるで運命の人とのちょっとしたハプニングのように、他の何倍も心臓をゾクゾクさせてくれたのだ。
「……リュウゴくん、無理はしないでね。今ならまだ『フツーの男の子』に戻れる。最近、このチームでも犠牲者がかなり……だから、だからお願い! 本当にやるのかどうかは、しっかり考えて……」
「いや、答えは決まってる。もう変えるつもりは無いさ」
「ほう。それじゃ、この試験、受けるか否か……教えてくれるかい?」
リュウゴはゆっくり立ち上がり、目の色を変えて呟く。
「やる。やらせてくれ、その回遊試験ってやつ。明日からでもいい、詳しくルールを教えてくれよ」
「そう言うと思っていたよ……それでは、改めて」
為成は立ち上がり、リュウゴに詳細を伝える。
「フフ……明日は5月4日の日曜日。つまり合否判定の期限は11日の23時59分となる。それまでに様々な依頼や悪者を倒すことでポイントを貯めるのが立ち回りとなる。
そしてもしキミが合計100ポイント以上を貯めることができたなら、その時点でキミは改めてこのギルドのメンバーとなるッ! キミの仕事中には常に監視が付き、遠隔で我々が厳正に評価をする。それと最悪の場合ポイントを使用して、我々が助けに参ることが可能。どうしても、という時はSOSを送ってくれたまえ」
「……分かった。ありがとう、頑張るさ」
リュウゴはエントリーシートにサインと拇印を入れ、「回遊試験」に参加することとなった。
絶対ここで契約を勝ち取って、ビッグな存在になって、貧乏な暮らしから抜け出して……! やる気まんまんのリュウゴだが、彼を待ち受けていたのは想像を絶する、まさに地獄そのものだった……
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