第22話 忍者vsストリーマー、時代を超えた決闘!ら

(しまった! ワイとしたことがよそ見を……!)


 リュウゴの細身ながらも屈強な拳がまっすぐ、カゲミチの顔面に向かって飛びかかる。風を切り裂き、大地をかち割るようなその勢いに、カゲミチも思わず反射的に腕が出る。


 忍者のコスプレをするだけあって、カゲミチは自分のスピードや運動神経にはかなりの自信を持っていた。

 パルクールや短距離走、はたまたマラソンだってお手の物。異能力騎士団の中でもそれなりにやれる能力者、そう自負してやまなかった。大きな成果、あるいは獲物の首のどちらかは必ず持ち帰る、それがモットーだった。


 だが、その自信や信念はまさに今、その拳に打ち砕かれる。リュウゴのパンチを受け止めきることができず、その分身は踏みつけられたクッキーのように粉々に崩れていく。


「こ、小癪なガキがぁぁぁ…………っ!」

 

「へへっ、さぁ次はどの『分身』が相手するんだ?」


「……次はワイや、同じようにはいかへん!」

 

 分身その1を撃破し、自信満々なリュウゴ。騙し討ちと共に、配信には欠かせない明かりの用意までこなすことができた。さっかり有頂天のリュウゴであったが、既に背後からカゲミチの魔の手は迫っていた。

 

「それにしても……明るいなぁ、夜にしては。兄ちゃんの影も丸見えや」


「何が言いたい!?」


「……忍法、影纏かげまつり! 僅かな明かりに背かれて負けろッ!」


「こ、これは……!? 身体が重いッ!」


 気分を良くしたのも束の間、リュウゴはの技、影纏にて拘束されてしまった。まるで自分に降りかかる重力だけ数倍に跳ね上がったかのように、リュウゴは地面に這いつくばる。


「これはワイのオハコ、相手を侮辱し降伏させるための奥義! 明かりを灯したってことは必然的に影も生まれる……そしてワイのこの技はあいての影を媒介として発動する! 兄ちゃんは策で策に溺れてしもたんや」


「ぐっ……! スマホはどうなってる、オーディエンスは……!」


 リュウゴは必死のパッチでスマホを覗き見る。少し視聴者は増えたものの、電波が悪くカクカクの放送に不満を持つコメントもちらほら確認できる。



貨車男『カックカクすぎて草、ゴミやん』

中﨑『主やられた?』

カーゴパンツ『これ大丈夫なやつ?』

 


(鼓動爆燃を照明として発動したお陰で少し配信画面はマシになったが、電波の方は全く改善出来てねぇ! これじゃまだカゲミチを撃破するのは不可能、それに光を落とせば影纏を解除させられるかもしれないが、配信画面はさらに悪くなっちまう! これは詰みか…………いやッ!)


 心配や不満の声の中にポツンと存在する、1つのコメント。決してリュウゴの配信の常連ではない、見慣れぬユザネ。だがそのコメントは、間違いなくリュウゴの心に大きな灯火を灯してくれた。



菅田『諦めるな、“crawl up!”這い上がれ!』



(こ、これは……!)



 大きな灯火は不思議なことに、他のコメントよりなにか特別なものを発していた。字面は何の変哲もない応援コメントなのだが、それはまるで太陽のように明るく、力の湧き出るコメントだったのだ。


(その通り……ここで諦めて、何が残るッ!)


「う、うおおおおおおおおおおおお!」


 リュウゴは地に落ちた鳥のように、重々しい四肢を動かしながらカゲミチに少しずつ近づく。赤子のハイハイよりも遅く、不安定にでも前に進む。決して降参するものか、そんな想いをむき出しにしながら前に進む。


「ほぉ〜。まだ諦めへんのか。その技受けてもなお立ち向かってきたのは確か……3人目かな? 少しは見直したわ、やっぱウチに短期間だけでも配属できた所以はあるみたいやな」


「うるせぇ、配信者たるもの……リスナーを裏切ってどうする! ここで負けを受け入れて……ビッグになれるもんかぁぁぁ!」


「フン! 根性はすごいみたいやな、でもそれだけでは……って、何やこの熱さは?」


 カゲミチの上にふわふわと浮かんでいる、照明代わりの鼓動爆燃。それはどんどん成長し、あの日遊園地で新種の魔物を倒した時のような爆炎と化していたのだ。


「な、何でや! こんな山ン中で、マトモな配信ができるワケが無い! それなのに、何でいきなり技が元気を取り戻したんや!?」


 カゲミチは突っ立っていた分身1人にリュウゴのスマホを覗き見させる。すると画面右上に映っていたアンテナの数は3本、それどころか見慣れた"孤状のマーク"すら確認できた。


「……こいつ!」


 分身は堤の車の方を睨み告げる。そこでは何やら片手に機械を握ったアツトがこちらをドヤ顔で見つめ返している。見慣れぬが電波を急に良くした機械、現代に生きる忍者カゲミチはその正体をすぐに察した。


「持ち運びの……ワイファイ……!」


 電波も明かりも解決できた配信環境、こうなればリュウゴの独壇場である。滝のように流れるコメント欄、そのほとんどは間違いなくリュウゴを後押ししていた。


「ハァ、ハァ……まるで昼間だな。どうだ、明るく……なっただろう……?」


「やかましいわ、成金のおっさん歴史の教科書のアレかお前は! でもそれでいいんか? 光があるならば、そこに影は! ワイの技は生き続けるッ!」


「倒せば問題なしだろ……? 鼓動爆燃、突撃!」


 カゲミチに向かって火球は自由落下、だが間違いなくその時代遅れの頭巾に着陸した。


「この、馬鹿野郎があああああああああああ!」


「フッ……ざまぁ見やが……れ……?」


 叫び声をかき消すように、鼓動爆燃はカゲミチを包んだ。リュウゴの身体も軽くなり、立ち上がって最後に決め台詞を決めようと指さした瞬間。そこに残っていたのは凹んだアスファルトだけだった。


「……アレ? どこ行ったアイツ! ふざけやがって!」


「多分だけど……どうやら逃げたみたいだね、ギリギリで。証拠に道路がヘコんだのに、アイツの服のかけらとかが何も残ってない」


「ア、アツト! 確かにそうだ、マジで許さないアイツ……!」


「ま、まぁまぁ落ち着いて……とにかく無事で良かったよ、さっきの不良の撃退もクリアできたことだしさ。一旦帰ろう、本命は不良の方なんだしさ」


「そ、そうだな……ありがとう。それと、助けてくれて助かった、スマホと、その……電波の件も」


「べ、別に大丈夫だよ! 当然のことしただけだしさ……それに車も無事だったんだ、エンストしただけだった」


「え、えんすと?」


 運転席にいる堤は、少し恥ずかしそうにこちらに頭を下げてきた。そして窓を開け、申し訳無さそうに呟いた。


「ごめんなさい、普段はAT車なので……こっちマニュアルを動かすは3ヶ月ぶりで……」


「な、なんじゃそりゃあああああああああ!」


 どうやらただの操作ミスだったらしい。良かったのか悪かったのか……とにかく、チャンチャン。

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