第20話 ある意味一番怖いモノ

「異能力騎士団!? なぜ今らここまでらオレに執着する!?」


「あぁ、別に気にしなくてええんやで。セカンドチャンスを与えるべきかどうか、人事のお仕事を頼まれてるだけやから」


「セ、セカンドチャンスだとォ!?」


 リュウゴは無性に腹が立った。神経を逆なでするとはまさにこのことである。半年前に戦力外にしておいて、ちょっと活躍すれば上から目線で「セカンドチャンスを与える」とは傲慢にも程がある。


 無論、リュウゴは異能力騎士団に戻る気などさらさら無い。どれだけ実力を磨くことができようとも、それが変わる予定など全く無い。

 だが、カゲミチは淡々と説明を続ける。


「兄ちゃんは戦闘シーンをネット配信しとるやろ? ワイらはそれを見てたんや。遊園地に突然現れた、新種のモンスターを瞬殺する映像。それを見て決心した、考えを改めたんや……ワイらに一瞬だけ付いてきてもろて、配信してほしいモノがあるんや」


「……戦いをネット配信するのは禁止だったはずだろ、異能力騎士団は。かなり怒られたんだからな、あのクソオーナーに」


「あぁ、違う違う。戦闘シーンを流してほしいワケじゃないわや。あくまでもワイらが世に流したいのは、最近新種の魔物が――」


「『新種の魔物が増えてるから、私達異能力騎士団にお任せあれ』ってかァ!? PRなら自分達でやれや、この冷やかしがあああああッ!」


「……はっ!?」


 ついにリュウゴはブチギレた。身体中の穴という穴から、今にも溶岩が吹き出しそうなほどに顔が赤く染め上がる。泣く子も黙る、ブチギレモード突入である。


「いい加減にしろよ。急に襲いかかってきたかと思いきや、あれこれ自分勝手なこと言いやがって……」


「まあまぁ、落ち着いてくれって……ちょっと6秒間深呼吸してくれや。『あんがーまねじめんと』、っちゅーやつや。そもそもワイは無駄な争いはしたないんや、ホンマは。そもそも依頼は……」


「……あぁ、言いたいことがあるなら聞いてやる。今は配信してねぇからな、オフレコだ。さぁ言えッ!」


 直前までの恐怖心はどこはやら、リュウゴは大声でカゲミチをまくしたてる。だがカゲミチは淡々と会話を続けるだけだ。まるで、小さな子ども相手に物事を教え諭すかのように。


「……そもそも、ワイに今の兄ちゃんは勝てへんねん。なんでかって? そもそも『マンパワー』が桁違いやからや」


「桁違い? お前は今1人だろ、それに分身したとてこっちにも腕のなる味方はいるんだ……って!?」


 カゲミチの左横に、もう1人のカゲミチ。そしてその横にもまた別のカゲミチ。さらに横には別のカゲミチが……いつの間にかリュウゴはカゲミチに囲い込まれていた。

 5人、10人、100人……正確な数は不明だが、魔物でもオバケの類でもない、そしてただの能力者でもない……素性も考えも不明の「忍者」は、ある意味この世で怖いとされているモノより格段に恐ろしい。


「……ようやく気付いたか。兄ちゃん変わっとらんな、こっちのギルド異能力騎士団にいるときから。頭に血ィ登ったら周りが見えなくなる。ワイが魔王的な存在やったら既にこの世からバイビーしてるんやぞ、なぁ兄ちゃん?」


「……鼓動爆燃。生きねば、勝たねばというオレの想いを受け止めやがれェェッ!」


「ほぉ。当たり前やけど、実際にその技受けるのは初めてやなぁ……カゲミチJ! ちと遊びに付き合ってあげてや、帰りにおいしいお寿司奢ったるから。割り勘やけど」


「……分かったわ、ワイの出番やな。さぁ来い兄ちゃんッ!」


「見分けがつかねぇから正直、どいつでもいいけどよ……派手に燃えて決めてやらあああッ! 鼓動爆燃、着火ッ!」


 一思いにリュウゴは燃え盛る火球を投げつける。とっくに陽が沈んだ田舎道の片隅、大地を小さな彗星が駆け巡る。何も知らぬ者がこの状況を見れば何だと捉えるだろうか。


 だが、奇妙なほどに「カゲミチJ」は落ち着いている。いきなりリュウゴは必殺技を発動したというのに、一向に避ける素振りすら見せないのだ。


「何も、しない……!?」


「……アホやなぁ、兄ちゃん。ワイは兄ちゃんの戦い方から技、能力まで知り尽くしとんねん、情報戦も"数"が有利なんや。その火炎は見せかけ、中身はただの……」


 カゲミチJは突如、動きを解禁した。力を込めて足を開き、砂埃を発生させる。ただスッと足を動かしただけなのに、竜巻のように砂塵が巻き上がる。


「……火の粉なんや」


「……がっ!?」


 驚愕。高く舞い上がった砂塵はまるで獲物を狩る鷹のように火球に襲いかかり、飲み込み、瞬く間に消火してしまった。リュウゴの心の中に存在し続けた、「自信」の焔がシュウウと静かに消える。


「オ、オレの技を砂埃だけで!?」


「アホぬかせ! 自分の技の弱点くらい知っとかんかい、その技の威力はあくまでも、周りの人の『応援してくれる気持ち』と比例するんやろ! 今お前を見てくれてる人は後ろの3人だけ、いつもの視聴者が1000やとしたら0.3%の出力なんや!」


「黙れ……なら配信スタートしてお前を燃やし尽くし――」


「だからアホか! 兄ちゃんより千切りのキャベツのがまだ賢いんとちゃうか? ここら一帯は電波がクソ悪いんや……都市圏言えど山付近やからなぁ」


 正論である。シンペイタとの戦いのときも配信画面はカクカクで、視聴者からすればとても見れたものではなかったらしい。確かに技の調子も悪かったし、アツト達の援護がなければ今度こそ負けてしまっていたかもしれない。だが、そんなことくらい分かっているのだ。


 しかし、技の威力を高めるためには配信を始めなければならない。遊園地のように人がたくさんいる場所ではないからだ。今リュウゴ側にいるのは堤、アツト、そしてラゥーヴの3人である。配信をスタートすれば少しでも応援してくれる人を増やせるが、


「……ああ、分かったよ。ならば配信してやるよ、そっちのがアンタも手応えになるんだろ……?」


「ええで、ええで。全力を確認しときたいって思ったんや、もし再契約するならばな」


「同意ってことだよな!? 肖像権とか後から主張すんじゃねえぞ、それに契約書があるならそれもまとめて消し炭に――」


 リュウゴは大げさにスマホをポケットから取り出し、いかにも「映しますよ」と言わんばかりにカメラを向ける。ロックを解除し、アプリを開こうとしたその瞬間。真っ先に画面に表示されたのはコメントやいいね等のリアクションでもなく知り合いからの連絡でもなく、現代人が口を揃えて畏怖の対象としているあの通知であった。


 

「バッテリー残量が残りわずかです」



「ッ!!」


 思わず声が出る。バッテリー残量は15%弱、これでは配信したとて10分程度しかもたない。これではカゲミチを撃退するのに必要なエネルギーに届かないが、決してこの状況を悟られてはならない。さらに悪循環に陥るだけだから……




 

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