第19話 サイコパス忍者、城ノ下カゲミチと申す

「お疲れ様でしたぁ〜! 今回も任務成功、やりましたッ!」


「あ、相変わらず元気だね……ボクは眠いよ、合体の反動はやっぱりキツイや、ふぁ〜あ……」


「2人ともお疲れ様です。それでは帰りますよ……って、あれ……?」


 仕事を終えたリュウゴとアツトを迎えるのはやはり堤……だが、堤はなんどもエンジンをかけ直したり、レバーを確認したりを繰り返している。淡々と喋り、任務を遂行する堤とは思えない手こずり様である。


「つ、堤さん? どうか……したのでしょうか……?」


「いえ、そんなハズは無いんですが……急に車が、何もしてないのに壊れてしまいまして……」


「何もしてないのに、ってそんなワケないでしょ〜。オレがかる〜く検査しますわ。生配信とかしてたら機械の知識は自然と身についちゃいましたからねッ★」


 どこか車体にイタズラでも受けたのか? アツトは外に出てタイヤや車体などを確認するが、変な痕跡は全く見当たらない。


「おっかしいな〜。そもそもここに来るまでは何も起きてなかったハズだろ? でも堤さんも本当に心当たりが無いっぽいし……って、何だアレェ!?」


 リュウゴはおかしな点を1つ見つけた。それは近くのベンチに、片手に工具を持った忍者が4人座って談笑している様子である。疲れによるマボロシなどではない、本当に「片手に工具を持った忍者が4人座って談笑している」のだ。



「……それでさぁ、ワイこの前コンビニでレジ待ちしてたら、後ろのカップルがいちゃつき始めたんや。唐揚げほちぃ、ほちぃ。でも隣にある激辛バージョンはイヤだって」


「……へぇ、それはウザったいなぁ。それでどないしたん!?」


「だからワイ、激辛を買って普通のを残しといてあげたんや! まぁそいつらの口内にそれを無理やりねじ込んで全力ダッシュで帰ったんやけどな」


「ギャハハハハハ! それはウケるわ、カゲミチAはんおもろすぎるわ!」


 

「……いやいやいやいや、何でだよ!? 何で忍者!? 忍者がたむろして変な会話してて……ってか、アイツらが車上荒らしの犯人か? いや、だとすれば堤さんがその被害に気付かないハズがない、だってずっと車に乗ってたんだから――」


「……すまん、ちょっと時間よろしいでっか? そこの、こっち見てくる兄ちゃんや」


「……はい?」


 リュウゴは忍者のうちの1人に話しかけられた。まさか「ここに路駐したんだから罰金を払え」とでも言うつもりなんだろうか? 第一、人気ひとけの少ないところで忍者の格好しながら工具を持ってワイワイ喋ってる集団がマトモなのか?

 

 話の通じない人間は下手すりゃ魔物より恐ろしい。リュウゴは決して彼らを刺激しないよう最大限に気をつけながら、ゆっくりと忍者に近付いていく。


「……いや、ドライバーとかハンマーとか持ってるから。ちょっと車が壊れちゃって、その〜ちょっと貸してもらえないかなぁ、なんて思いまして、アハ、アハハハハ……」


「……兄ちゃん、リュウゴ・ヨネカワやろ?」


「……へ?」


「……だから。兄ちゃん、上の名前が『米騒動』の『米』と『さんずいに可』じゃない方の『川』でヨネカワ、下の名前がリュウゴやろ。それと好きな食べ物は鶏肉とブロッコリーとアボカドと温泉卵とカシュナッツとお寿司と――」


「いや怖ッ! なんでこんなに知ってるんすか、オレのこと!」


「いやいや。当たり前やんか、おん? 情報の数は多ければ多いほど良し。昔からそうやって相場が決まってんねん、なぁカゲミチBとカゲミチCとカゲミチD!」


「その通りや!」

「当たり前や!」

「そうだそうだ!」


(な、なんなんだこの人。さっさと逃げよう……)


 そう思ってカゲミチの方を見ながらも後ずさりしたその瞬間、突然リュウゴの脳天スレスレをクナイが4本通り過ぎたのだ。髪の毛に触れたか否かぐらいのそのコントロールはもはや精密機器。「今投げました」と言われなければ気付かぬ者も多いだろう。


「……はっ!?」


「つれないなぁ。せっかく兄ちゃんのために、わざわざ安い賃金に釣られて参上してやったってのに……おっと、失礼したわ。自己紹介がまだやったな……ワイの名前は城ノ下カゲミチ……と言えば思い出してくれたか? 能力は分身、こいつらもそうなんや。ほら、戻ってええで」


「御意」

「りょーかい」

「アイアイサー」


 3人の「分身」とやらはカゲミチの中へと消えていった。どうやら本当に分身の能力を使えるらしい。

 それにしても「思い出してくれたか」と問われても、リュウゴには全くその名前にピンと来ない。過去の同級生にもそんな名前の人はいなかったし、今のギルドでも前のギルドでもそのような名前は聞いたことがない。一体何者なんだ、リュウゴはポケットに手を潜めていつでも通報できるようにスタンバイしておく。


(やっちまった、よりにもよってヤバい人に絡まれて……! アイツ絶対話通じねぇよ、しかもなんかマスクが一部ちぎれてるし。どんだけヘビロテしてんだよあのウレタンマスク!)


「……ほらほら、そんな怖がらんでもええやんか。ワイだって中身はピュアなんやで? どれくらいかって言うたらな、鼻かむときティッシュに名前つけるんや。今日はレフトスタンドとウユニ塩湖にしてみた」


「いや、聞いてないんですけど……それじゃオレ帰りますんで、あざした――」


「……させへんでぇ、悪の手先がッ!」


「なっ……」


 突然カゲミチは豹変し、瞑っていた目をかっ開きクラウチングスタートで襲いかかってきた。左手にはクナイ、右手には手裏剣を握っている。何がなんだか分からないが、この「カゲミチ」と名乗る忍者はリュウゴに敵意を抱いているらしい。


「速い……! こうなりゃ、躊躇してるヒマは無い……!」


 リュウゴは慌ててベルトに挟んでいた自撮り棒を伸ばして応戦する。だがこちらから攻撃することはしない、まずは防御に徹するだけだ。そのうちカゲミチが満足して帰ってくれれば御の字、ここでやるべきは「時間稼ぎ」だと悟ったのだ。


「ほぉ……商売道具で瞬時に命を守る判断。やっぱり戦にある程度慣れてるみたいやな! そして、その意識も消え失せてなかったことが確認できたァァッ!」


「ぐっ……! オレのこと知ってるらしいすけど……! オレは城ノ下さんのことが分からない! 申し訳ないけどォッ!」


「そうかァッ! なら教えとくわ……ワイの名前は城ノ下カゲミチ、能力は分身。そして所属ギルドは……」


 カゲミチは一体どこに仕込んでいたのか、突然刀を手にして大きく振りかぶり、半笑いで衝撃の言葉を呟いた。


「……異能力騎士団。米川リュウゴの調査命令を受けているんや、よろしゅう」


「異能力、騎士団……!?」

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