第18話 第2任務「触らぬ毒に祟り無し」 その2
「オラオラオラオラァ! こっちはお前の能力知ってんだよ……その時点で有利なのはオレ側だったのになァ! それにここら辺は山道、ゆえに電波もカス! カックカクの配信に人が集まるワケねぇだろうがあああああああ!」
「グハァァッ!」
「お前は所詮、1人じゃなぁ〜んにも出来ない! キョロ充、イキリ、弱虫、金魚のフン野郎ォォ! ここぞとばかりにカッコつけてこの有り様、ダッサイ男だなああああああ!」
「ぐほっ……黙れよ、いい加減に……!」
「なら反撃してこいやゴラアアアアアア! オレだって! カカト落としと! みぞおちに蹴りをブチ込むだけで! 我慢してやってるんだぞ! それ以上ムカつかせるなら、バット持って来てやる――」
「「そこまでだ、クソダサ野郎!」」
「……あぁん?」
「……え?」
突然の介入に、不良とリュウゴは同じ方向に目を向ける。そこには両者とも全く知らぬ、悪魔のような天使のような人間のような、謎の存在が立っていたのだ。
服装は陽田アツトと同じ、緑のネルシャツに紺のジーパンであるが、背中には紅い羽、腰回りにはスペードのような形をした尻尾、頭には蒼い天使の輪っか。そして髪は全体的に金色がかっており、さらにはかなり目力が強く、付けている眼鏡のレンズを今にも粉々に砕いてしまいそうなほどだ。
(アツト……で合ってる、よな? いやそれしか無いんだろうけど……)
なんとなく、リュウゴには心当たりがあった。服装はアツトのもの、そして羽や尻尾などはラゥーヴとかいうサキュバスらしい人物のもの。まるで2人が合体したかのようなその人物は、フワフワと浮遊しながらゆっくりとこちらに向かってくる。
「「……これくらいの毒。オレには大したことねぇ……おい不良野郎、名前は何という?」」
「アァン!?
「「……オレか? オレはラゥーヴ、かつアツト。わかりやすく言えばヒーローだ……そして今から……」」
(ラゥーヴ、かつアツト……? それって……)
アツトが身体の前で両手を構えると、その間に紫色の雷が発生した。それは手のひらと手のひらの間でバチバチと激しくほとばしり、夕闇の街外れを妖しく照らす。
「「……今から、お前はオレに倒されるッ!」」
アツトは隼のように滑空しながらシンペイタに突撃する。その勢いは凄まじく、風圧でトラックすら吹きとばせそうなほどだ。
「は、速いッ! アイツ、意外と動けるのか……!?」
「イヒャヒャヒャヒャヒャッ! そうこなくっちゃなァ! 迎え撃ってやるよ、そして地獄に送ってや――」
シンペイタがカウンターを決めようと殴りかかったその瞬間、既にアツトはシンペイタのすぐ目の前にまで移動していた。額でシンペイタの拳を難なく受け止め、続いて不規則に襲いかかる拳や脚のラッシュをすべて片腕ではらいのける。
(チッ! 速すぎんだろ、この野郎……ウザすぎんだろ!)
「「そろそろ行くぞ?」」
「……へ?」
「「……吹き飛べ! 気に入らねぇ野郎は、いきなり蹴り飛ばすッ!」」
アツトの戦闘スタイル、それは相棒であるサキュバスの「ラゥーヴ」を憑依させ、身体能力や魔力を底上げして相手を翻弄するもの。空中戦から地上戦、地上戦から空中戦。「羽」という人間が本来持たぬパーツを駆使し、さらにはサキュバスという悪魔が持つ底しれぬパワーで相手を叩き潰すスタイルである。
本来、悪魔に取り憑かれた者は理性を失い、暴れまわるのがステレオタイプ的なイメージである。だがアツトとラゥーヴのコンビは例外、形の異なる歯車と歯車がうまく噛み合うように、互いの足りない部分をうまく補いあうことで奇跡的にも少し性格が荒々しくなるだけで済みつつも大きな力を得ることができる、まさにベストマッチな2人なのだ。
「グハアアアアアッ! なんだこの力、このオレに勝てた野郎なんて今までに1人もいなかった! なのに、なのに、こんな意味不明なヤツにやられるなんて、自分が許せねぇぜええええええええ!」
「「当然だろ? オレはただの人間とは違うからな……それとお前、さっき地獄に云々、って言ってたよなァ? 全然やってくれそうにないからよ、ならばそのお手本を見せてやる。
「……こ、この光はさっきの!」
再びアツトは紫の雷を生み出し、今度はビームのようにそれを繰り出した。空気すら焼き焦がしそうなその妖光は容赦なくシンペイタに降り注ぎ、防御することすら許さず成敗してしまった。
「イヒャ、イヒャヒャヒャ……負けちまった、このオレが……ヒャヒャヒャァ………」
煙の中からは丸焦げになり、ただ笑みを浮かべるしかないシンペイタが現れた。全身ボロボロ、もう戦うことはできなさそうだ。
「「二度と現れるな、クソ野郎が……ッ!
……うわ、合体が解除された!」
「ふぅ~。今回も楽しかった♪」
シンペイタに勝ったのと同時に、アツトとラゥーヴはもとの2人に戻った。アツトは元々の姿に、ラゥーヴも再び小さくなってアツトの懐に入っていく。
さらにさらにシンペイタを倒して「能力」が解除されたのか、倒れていた名も知れぬ他のギルドの面々も元気を取り戻した。そしてそれは「彼」も例外ではなく……
「うおおおおおお! アツト、すっげえじゃねえか! 撮れ高バツグンだったみたいだぞ!」
「……わっ! びっくりした……って、ええええええ! めっちゃ見られてたんじゃん、ボク達!」
リュウゴに言われてスマホ画面を見たアツトは思わず大きな声を上げてしまった。そこにはアツトを褒め称える、多くのリスナーのコメントがあったのだ。
山崎「おめでとう!!」
ミトコンドリア「すごかった!」
大西洋「ナイス!」
草刈り機「神」
「ボ、ボク達……役に立てたんだ……!」
「何いってんだ、もっと自信持てって! 心の底から、マジで助かったわ〜! ありがとなっ、ほら帰ろうぜ〜☆ 堤さんの車まで競走だッ!」
「うん……って、ちょっと待ってよ〜! ボクこの状態じゃ足遅いんだってば〜!」
危機一髪、今回もターゲットを撃破することができたリュウゴ。人知れず、誰にも気付かれずにその背中を見守る男がいた。
「……かなりピンチだったけど、2回目の任務も成功したようだね。これからも"Grow up"だ!"成長"していくんだよ、ボクが見込んだ男なんだ、きっとできるさ★」
そう呟くと、男はどこかへと消えていった……。
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