第13話 夕陽が彩る帰路

「……なぁ、個性的ファッショ……じゃなくて、サングラス……でもなくて……えっと、あま、くら……さ――」


「わざとやってるだろう、さっきから! ……んで、一体どうしたのだ、米川?」


「ちょっと聞きたいことが2つあってさ。まずは、このギルドっていつ建てられたのか。あと、サングラ……じゃなくて! 雨倉さんはいつから能力に目覚めたんだ?」


「あぁ……このギルドなら、ちょうど6年前だな。一部の人類が能力に目覚め始めて2〜3ヶ月ってところだ。規模は小さめだが、設立されたのはギルド業界ではかなり早いほうだな」


「へぇ……あの為成さんって人、めちゃ先見の明があったんだな……」


 リュウゴが感心しているところに、ユキハルはさらに驚きの事実を返してきた。


「当たり前だ。あの方は頭がとても良い、能力に関する研究者としても、市民から信頼されてるんだ。知らなかったのか?」


「えぇっ!? あの人、学者だったのか! 確かに、いかにも、って感じの服装してたなぁ……」


「だろ? そ、それと2つ目の質問だが……」


 ユキハルはリュウゴから投げられた「いつ能力者になったのか」という質問に対しては、なぜか所々声をつまらせながら返答してきた。


「ボクが能力に目覚めたのも、割と早い方でな……ある朝突然、村で雨乞いをしたら……その、100%雨が降るようになった。干ばつで苦しんでた時に……な。それより米川はどうなんだ?」


「ど、どうって……オレが目覚めた日のことか?」


「そうだ。キミのことも教えてほしいんだ。ほら、頼む」


(この人、急に動揺し始めたな……何か暗い過去でも隠してるのか?)


 態度が豹変したユキハルに困惑しながらも、リュウゴは能力に目覚めた「あの日」のことについてそれっぽい口調で説明を始める。


「……あの日。あまりにも退屈な授業を逃げ出し、その……保健室。骨組みが鉄格子みたいな、チープなベッドに横たわってた日のことさ」


「おぉ、雰囲気出すんだな……」


――――――

〜2031年9月28日 東京都 某中学校 保健室〜


『ふぁ〜あ……やっぱ授業抜け出して、横になりながら見るスマホは最高だな! 枕もオレにめっちゃ合うやつだし。あとでおばちゃんに、どこで売ってるやつか聞いてみようかな?』


 その日。リュウゴは授業をサボり、仮病で保健室に逃げ込んでいた。カーテンの仕切りがあるのをいいことに時々咳払いをしながら動画サイトやSNSを見て楽しんでいた。


『ん〜。魔法に能力がどーたらこーたら。なんか1年半くらい前からこういうの見るけど……そんなのありえねぇっしょ。便乗するようにギルドとかもいっぱい建てられたけど……って、なんだこの感覚は……寝不足か? いや、そんな……レベルじゃ……』


 突然だった。リュウゴが原因不明の頭痛と目眩に襲われたのは。慌ててリュウゴはカーテンレールをつま先で蹴り飛ばし、助けを呼ぼうとする。


『せんせ……ヤバい、かも……こ、れ……』


 そのままリュウゴは、気絶するかのように眠りについた。



『んん……ここはどこだ……? 学校では……ないよな……?』


 気がついたリュウゴは辺り一面真っ白の何も無い空間に立っていた。ほっぺをつねると痛い、でも明らかにここは現実の空間ではないようで……困惑しながらもリュウゴは周りを散策してみることにした。


『マジで何もないじゃん……スマホも圏外、困ったなぁ……』


『おーい、そこの者。聞こえるかい?』


 突然、リュウゴは"何か"に話しかけられたのだ。聞き覚えのないその声にリュウゴは思わず腰を抜かす。


『……えぇっ!? どこどこどこ、一体誰!? こっっわ!?』


『ハハハ、驚かせちゃったかい? ごめんね、そんなつもりは無かったんだけど……』


『んぎゃあああああああ! お化け、ギャアアアアア! 悪霊退散、悪霊退散、なむなむなむなむなむぅ!』


 リュウゴの前に現れたのは、まさに「オバケ」って感じの白装束を身をまとい、その上から軽めの甲冑のようなものを着用し、頭の上に黄色い輪っかがある金髪の人間? であった。明るい空間にも関わらず顔にはなぜか影が覆いかぶさっており、その風貌や表情を汲み取ることはできない。


 

 見知らぬ何かはリュウゴの肩を掴み、不思議な依頼を申し込んできたのだ。その内容とは、「ビッグな存在になること」であった。


『少年……今、世界中が大変なことになっていることは知ってるかい? 魔法を悪用する者が暴れているし、モンスターが現れては生態系を壊し、それに――』


『な、何ですかいきなり! オレ、そーゆーのマジで信じてねぇよ! 第一、周りでそんなこと起きたことも聞いたことも無ぇし! 通報すんぞ、不審者!』


『ん〜、困ったねぇ……あ、そうだ。少年よ、キミは昔、ヒーローもののアニメとかが大好きだったね? そして今も、バトル漫画とかが大好き』


『そ、それはそうだけどさ……なぜ分かったんだよ? 怖いから通報すんぞ、この不審――』


『今のはボクの能力。ボクは何でもできちゃうんだ。だからこそ……君に2つ、託したいものがある。まずは1つ、マンガの主人公のように、いつしか大きな存在になってほしい。キミにはその素質があると見たんだ。

 そして2つ目は、周りから頼られ、また自尊心を高めることでエネルギーを生み出せる能力! 起きたら試してごらん、安全なところでね★』


『はぁ!? 何が"安全なところでね★"だ! それに何だよ、その……オレも魔法が使えるようになりましたよ、的な説明は!』


『おぉっ! 察しが良いね。まさに今、キミに力を託したんだ。起きたら鏡を見てほしい。顔にはクッキリ、能力者にしか見えない紋章が刻まれている。

 ほら! ボクの顔にあるのと同じような、星で囲まれたサムズアップのマークがね。それじゃ頼んだよ、未来のヒーロー……』


『えぇっ、ちょっと待って! ちょっと、おい……!』



 それから目覚めたリュウゴ。変な夢を見たな、そう感じながらも自身の顔をスマホのカメラで確認する。どうせ紋章なんて刻まれてない、あれはただの夢……では、なかったのだ。


『んぎゃ、うわああああああああああ!? いやいや意味分からんって、こっっっっわ! 何これ消えない、油性か!? いやマジで分からんって……!』


――――――


「……オレは恐ろしさのあまり、ベッドのシーツに拙い世界地図を描いてしまった。そして不審者が言ってた通り……イカれた能力に目覚め、不思議とビッグになることを意識するようになったのさ」


「……そうか。申し訳ないが、できれば普通に喋ってくれ。それと米川、絶対それお漏ら――」


「しかしッ! オレは思い出したんだ。小さい頃叶えたかった、マンガの世界のようなヒーローになるって夢を! そして誇れるようになったんだ。それを堂々と、卒業文集の『将来の夢』欄に刻めるようになったことをな☆」


「お、おう。不思議な運命に導かれたのだな……でもお漏――」


「よおおおおし! 今日は帰ってゆっくり休むぞー! 初仕事は大成功だ、イヤッホー!」


「……おい、ちょっと待て! こっちは下駄であるぞ、おい! それと米川お前、下手すりゃ死んでたぞ今日……って、待つのだあああああ!」


 犬猿の仲にある、リュウゴとユキハル。ほんの少しだけど、信頼関係が生まれた気がした。

 リュウゴのセカンドキャリアのスタートは、いちおう任務成功で収めることができたのであった……たぶん。



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