第11話 初任務「畑荒らしを殲滅せよ」 その1
約束の時間が来た。依頼主は隣の町の自治会長。なんでも、スライムが大量発生かつ大暴れさているせいで、作物がメチャクチャになって困ってるのだとか。
報酬は特産の野菜にそれなりの金銭。野菜まで貰えるなら家計が少し楽になる、リュウゴは絶対にスライムを根絶やしにしてやると意気込んでいた。
「最近野菜高いからな……野菜山盛りに持って帰れば、おふくろも喜んでくれるだろう」
「報酬目的で動く新人がどこにいる! まずは基礎から学んでもらうからな、米川!」
「その声は……準備できたってワケかい、雨倉さんよォ」
ドアの前には相変わらずの服装に、やけに大きなリュックを背負ったユキハルが立っていた。腰には小さなナイフのようなものも身につけている、どうやら今から出発するようだ。
テンション高めにベッドから飛び起き、軽くストレッチをしながらリュウゴも着替えを済ます。このギルドに来てから最初の任務であるが、リュウゴは対して緊張も心配もしていない。スライムなら何度も討伐の経験がある、なんなら自分1人で十分だとも考えている。
足早に部屋を出ようとするリュウゴに、コトハは最後に声をかけてくる。
「じゃあ、リュウゴくん……応援してる!」
「おう! ま、1〜2時間もありゃあ余裕のよっちゃんよ!」
嫌いなユキハルとなるべく目を合わせず、急いでドアを閉めてギルド玄関へと向かう。正直、自分1人でも一瞬でクリアできそうな内容の依頼だ。それに、リュウゴの術は「気持ちの高ぶりを熱エネルギーに変える」こと。自分がやる気を出せば出すほど強くなれるし、周りに応援してくれるオーディエンスがいればその効果は高まる。逆に、いちいち口出ししてくるユキハルって邪魔者じゃね? とすら感じている。
(スライムの大量発生、ねぇ。まぁ、オレが戦ってるとこ配信すりゃあ、応援してくれる人も沢山いるだろ。それに、地元の人からすりゃ、オレ達は魔物を倒してくれるヒーロー様なんだしさ)
リュウゴは歩きスマホをしながら、配信開始画面を予めスタンバイさせておく。戦いの途中からいきなり配信をスタートさせるより、スライムとエンカウントする前の道中から配信をした方が確実にバズる。リュウゴには分かるのだ、バズらせ方のコツが。
(オレのフォロワー数は1.2万人。しかも世間はゴールデンウィーク、視聴者数もそれなりに稼げるはず。オレがスライム全員倒して、あのサングラス野郎をビビらせてやらぁ)
道中は望んでもないユキハルからのお説教ばかりであった。やれ「決して油断するな」とか「変なモンスターがいたらすぐに逃げろ」とか。聞き飽きた上に明らかにナメられている感じがどうにも気にくわない。はい、わかりました、とうわべだけの返事を繰り返しつつ、早足で目的地へと向かう。
バスを乗り継ぎようやく目的地にたどり着いた。リュウゴはジェル状のものが撒き散らされベチョベチョになった畑の中に入ったり、何かに歪にかじられた葉や茎の痕跡を確認しながら、スライムがどこかに隠れていないかをくまなく散策する。後ろからいちいちユキハルの声が聞こえてくるが、リュウゴにそんなものに貸す耳は無い。
「どこだ、どこだスライムゥ! さっさと出てきやがれ、楽に火葬してやるからよ!」
「そんな呼びかけに反応するワケがないだろ、米川。第一、奴らは人の言葉を理解でき――」
「いたぞ、1匹目ェ! オレが倒すんだ、派手に燃やしてやらあああッ!」
「……ちょ、おい! 待つのだ!」
見つけた、初めての獲物を。奴は依頼通り、畑の作物の上をベタベタと歩きながら元気に育った作物を食べ尽くそうとしている。リュウゴはまるでF1カーのように加速し、畑の中に飛び込む。
「さぁ、まずはこっちに移動しやがれ! オレ達のご飯と、農家さんの頑張りをめちゃくちゃにすんじゃあねぇぇぇッ!」
「プル、プルルルルッ!?」
スライムの大きさはサッカーボール程、重さも1キロあるかないかくらいだ。リュウゴに持ち上げられたスライムは反撃しようとする素振りすら見せず、ただただ突然の出来事に困惑してするだけ。リュウゴは空に向かって高くスライムを投げ飛ばし、肩から腕に向かって力を貯めてエネルギーを解き放つ。
「オレが結果出す瞬間、みんなもご一緒に! せーの……炎攻撃、オラアアアアアアッ!」
「あのクソバカ! あんなことしたら……!」
リュウゴの右手からスライムに向かって火球が飛んでいく。それは対空ミサイルのように的確にターゲットを捉え、まっすぐに突き進み、スライムを爆炎の渦に閉じ込めた。
「ピギ……プリリ……プギャアアアアアアッ!」
「へへっ……撮れ高バツグン、ってところかな」
スライムは何らかの小動物のような、でもどこか不思議な断末魔を残し、大きな煙とともに散り散りになって消滅した。汗が伝う顔を袖で拭きながら、リュウゴは後ろに立っているユキハルに活躍をアピールする。
「どうよ! オレ、この程度のモンスターなら簡単に倒せるのよ! 店員がレジに商品通すみてぇに、流れ作業的になッ!」
してやったり! リュウゴの心は自尊心でいっぱい、もはや溢れ出そうな状態だ。笑みがこぼれるリュウゴに向かって、ユキハルがずんずんと向かってくる。
「お前は大馬鹿者だ! そんなに目立つ行動をしたら、"奴ら"は本気で襲ってくるぞ!」
「んぁ? んなもん、倒せばいいだけだろ、まとめてな」
何匹スライムが一斉に襲ってこようと、まとめて焼却してやるだけ、そう思っていた。
スライムなんて雑魚中の雑魚、リュウゴにとって片腕で倒すことすら容易いもの、そう考えていた。
「否! あのスライムは死ぬ際、大量のフェロモンをまき散らす! それもハデなやられ方をされようものなら――」
ズチャ、ズチャ、ズチャ……重さがありつつ、かつ半液体状の物体が地面を這うような音が微かな地響きと共に響き渡ってくる。ガサガサと乱暴にかき分けられる葉の音、バキッと踏み潰される枝の音。その犯人はシカ、イノシシ、クマ……そんな易しいものではなかった。
「……チッ! おい下がれ米川! とんでもねぇのを引き寄せてしまった!」
「とんでもねぇヤツ!? ならオレがそいつをふっ飛ばすしかないな!」
「違う! オレの言うことを聞け、恐らくアレは畑荒らしの首謀者、そしてかなり手強いモンスター! 成体のイノシシのような獰猛性とその身体、スライム系モンスターの半個体、半液体の要素を併せ持つ……イノシシスライムだッ!」
「ブルン、ブルン、ブオオオオオオオオッ……!」
現れた、イノシシスライムとやらが。ユキハルの言う通り、イノシシをベースにスライムの長所を足したような形状をしている。その上その鳴き声はまるでモンスターマシン。攻撃力と敏捷性は高そうだが、知性はほぼ感じられない。
何をしでかすか分からない、典型的な野生動物系のモンスターだが、こうなれば倒す以外の選択肢は無い。むしろリュウゴはやる気満々。カメラのピントをモンスターに合わせ、ゲーム実況者のようにハイテンションで喋り始める。
「……撮れ高マックス、派手に燃えて決めてやるぜ! やい、そこのドブブタ野郎! かかってきやがれ、立派なチャーシューにしてラーメンに乗っけてやるからよォ!」
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