第7話 新たなリーダー、冷酷につき

「……あの、音揃さん……」


「ん〜? どうしたの?」


「いや、その……何というかさ、このギルドって……1つの班のメンバーは何人なの?」


 重苦しい空気をなんとか打破しようと、リュウゴはそれっぽい問いを投げかける。するとその心配は取越苦労、コトハは笑顔で答えてくれた。


「えぇーっと、まず私達の『乙班』が今は一応6人で、他の班も大体5〜6人前後ってところ!」


「6人かぁ……オレ、音揃さん、さっきの陽川くん? それに……後ろのサング……雨倉さんに……あと2人?」


(こいつ、またサングラスと言おうとしやがって……)


「うーん、まぁそんなところ! ちなみにその中の1人は私達の班のリーダーで、ダントツで強いんだよ!」


「……へぇ、ぜひお手合わせ願いたいな」


「やめておけ、米川。あの方は本当にお強いんだ、それに毎日激務で忙しい。挨拶だけに留めておくことだ」


「ケッ、さっきから偉そうにしやがって……せめてオレに判断させてくれよ。その乙班リーダーさんがどれだけお強いのかを――」


「……誰に『どんだけ強いのか判断させろ』ですって?」


「……この声は!」

「ヒャッ! 頭下げたほうがいいよ早く、米川くん!」


「……え? 頭?」


 おかしい、2人の様子が。確かに、今の言動にキレた大人の女性の声が聞こえてきた。まるでカラスに襲われるスズメのように、シャチに囲まれたアザラシのように、2人は怯えて震えている。一体何者なんだ、そのリーダーとやらは……? そう思ってあたりをキョロキョロとしていると、突然目の前に巨大な黒い影が現れた。


(……ヤバい)


 恐る恐る目を上げると、そこには容姿端麗で黒いワンピースに身を包んだ、眼帯姿の金髪の長身の女性が立っていた。その目はまるで城の窓から平民を見下す貴族のよう、流石のリュウゴも察した。またまた、怒らせてはいけない人を怒らせたのだと。条件反射で、リュウゴは頭を下げる。


「も、申し訳ありません……! 新人がエラそうに、その……言ってしまって……」


「新人……あぁ。貴方が今日、仮加入してくるっていう米川リュウゴ君。確かに為成さんが言ってた通り、前髪だけ金髪に染めたアップバングの男の子ね」


「いいいいい、いや、その……オレは……」


「……いい? 米川リュウゴ君。弱いかどうか、強いかどうか。それは私が判断するべきこと。そして! 今の米川リュウゴ君が仮にどれだけ強かろうと、私に戦いを挑むのはやめるべきよ。私からすれば君は、ここで最低限の仕事も果たせず捨てられるかもしれない人間なの」


「で、でもオレは異能力騎士団で――」


「使えなくてクビになったんでしょ? ならばゼロから始めるのが筋ってところじゃないかしら? 学者なら論文を、小学生なら漢字ドリルを読み書きすべきなの。アンタは『漢字ドリル』から。いいわね?」


「あぁ、『オレが漢字ドリルから』ねぇ……でもですねリーダー様、アンタは『幼稚園のお昼寝タイム』からやるべきだって自覚は全く無ぇみてぇだなあ……?」


「……おい、馬鹿野郎!」

「ちょっと、まずいってそれ……!」


 2人は小声で、同時にリュウゴに耳打ちしてくる。だが、常に他のすべてを見下すような「リーダー」の言動に腹がたったリュウゴは、持ち合わせた脳みそをフル回転させて反抗してみせる。それを止めるつもりは、リュウゴには無い。


「大体、その冷笑系の塊みてぇなヤツがリーダー努めてんのかよ? オレを治療して案内までしてくれた、音揃さんの方がよっぽどリーダーシップがあると感じたけどな? もう時代は令和なんだぜ、なぁ?」


「よ、米川くん本当にやめなよ……」


 コトハはなんとかリュウゴを引き止めるが、もはやその声が届くことは無い。

 リュウゴは自分より背の高い、いかにも「令嬢」って感じの雰囲気の長身のリーダーにガンを飛ばし続ける。すると、半分嘲笑、半分興味を抱いたような表情を長身のリーダーは浮かべた。

 

「ふぅん、中々度胸がある子じゃない。ほんの少し、見直したわ……なら、試してみる? 私とアンタ、どっちが強いのか」


「おぉ、面白いじゃねえか。平成生まれにしてはよぉ! いいぜ、戦える場所に案内してくれや。リーダー名乗ってんなら、音揃さん以上のモノを見せてくれよ」


「ハァ……そのかわり、何があっても謝らないこと、泣き叫ばないこと後悔しないこと! これが本当に最後の質問よ? 本当に『やる』つもりなのね?」


「当然だろ……? オレの心臓もな、派手に燃えて決めてやりてぇって滾りまくってんだよ」


「……分かったわ。このギルドの中庭には、特訓用のコートがあるの。そこで手合わせしてあげる……付いて来なさい!」


 長身のリーダーはバサリとそのドレスをマントのようにたなびかせ、廊下を足早に歩いていく。ドレスの生地感は素晴らしい。オシャレ好きのリュウゴには、おおよそではあるがそのドレスの値段の高さが予想できた。


(都会の百貨店で買った、それどころじゃない! 色、生地感に素材、縫製……どれをとっても神レベル! 渋沢栄一1万円札何百枚分だ? 一体何者なんだ、この人は!)


 さらに、リーダーの背中からかすかに漂ってくる香水の香りがリーダーの品の高さをさらに連想させる。まるで自分達が天国にいるかのように錯覚するほどのいい香りである。彼女からすれば一流企業の社長ですら、もはや庶民レベルに見えてしまうのかもしれない。


(……いや、待てよ? もしかしたら、ここで活躍すればめちゃくちゃお金貰えるってことなのか? 悔しいが、あのグラサン野郎も結構良さげなサングラス付けてたし……)


「ちょっと、米川くん!」


(激戦区の異能力騎士団に所属してるより、こっちで地道に年数重ねる方がそれなりのギャラになるんじゃね!? あぁ、今に見てろよあのクソギルド! いつかテレビに、豪邸と一緒に出てるところ見せてやる……!)


「ちょっと、聞こえてる? 米川くーん……」


(あぁ、楽しみだぜ! あのお金持ちのリーダーさんに勝てば! いきなりボーナスとか貰えたりしちゃって!)


「米川くん!」


「え、うわっ! びっくりした……」


 自分の世界に入り込んでいたせいで全く気付かなかった。どうやらコトハはずっとリュウゴに話しかけてきてくれていたらしい。リュウゴは両手を合わせて「ゴメン」のポーズを取ると、耳元でコトハが囁いてくる。


「ずっと呼んでるのに反応無いから心配したよ……んで、本当に大丈夫なの?」


「大丈夫って……あの人と戦うことが?」


「うーん……何と言うか、無茶だけは絶対にやめてよ? あのリーダーは、これまで何度も死闘をくぐり抜けてきたエリート中のエリート。リュウゴくんの強さを否定するワケではないんだけど……あの人に勝てる存在なんて、100年に1人現れるかどうかくらいなんだからね……」


「100年に1人、ねぇ……余計に燃えるじゃねえか。でもよ、ドレス姿なんて戦いに適してなくね? 機動力は圧倒的にオレの方が上だろうよ」


「だからこそすごいの! ドレスを着たままっていう、普通なら大きなハンデになるはずのモノを持ってしてでも超超、超一流レベルの強さ! 気をつけてね、本当に……」


「あぁ、頑張るよ。静かに見守ってく――」


「到着したわよ! ここが弊ギルドのコートよ!」


「うわ、びっくりした……」


 リュウゴの目の前には、キレイに整備された芝と土のコートが広がっていた。小石1つすら落ちていない、プロが地均しをしたかのような綺麗なグラウンド。


「これがコート……すっげえや……」


 リュウゴがグラウンド見とれていると、それを遮るようにリーダーが突然振り返り、上から見下すようにリュウゴに自己紹介をしてきた。


「私の名前は門別.Jジャック.サエナ……乙班の班長を務めているわ。よろしくね」

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