第26話 食事会
<掲示板>
:ウタっていうBランク探索者、すごいらしいな。
:鬼丸パーティーがほぼ全滅した階層、一人で攻略しかねない勢いだった。
:日本最強の探索者って、ウタなのかな?
:最強かどうかはまだわからんけど、神代君は『あの階層の敵マジでヤバい』って言ってた。
:神代君も割とスムーズに進んでなかった?
:あれは単に敵を避けまくってただけだな。ウタは逆に敵をほぼ全部倒しながら進んでた。
:帰り道も、なんだかんだウタが魔物を倒しまくってたよな。
:神代君、若干引いてた。あの火の鳥、いまいち活躍してなかった。
:たぶん、神代君でも倒せる敵なんだろうけど、倒すのに時間がかかるんだろうな。
:ウタの今後の活躍、要チェック。
:でも、ウタってあんまり配信してないらしい。残念。
:配信してないって、結講危なくない? あれ、犯罪防止目的でもあるだろ?
:確かにな。配信してないってだけで、探索者狩りに狙われるリスクが高くなる。
:大丈夫じゃないか? そもそも、探索者狩りが行けるような浅い階層を探索してないだろ。
:何事もなければいいけど……。
* * *
鬼丸の死体を回収した日の夜。
午後七時過ぎに、流歌は紅月のダンジョン近くにある居酒屋、『探索者ギルド酒場』に来ていた。
ここは『探索者ギルド亭』と同じ系列のお店なのだが、ランチよりもディナー向き。そして、色んな酒も置いてあって、酒飲みたちにも人気が高い。
流歌はまだ十九歳であり、お酒は飲めない。さらに、昼に派手に暴れたせいで体がかなりだるい。それでもここに来たのはちょっとしたわけがあってのこと。
「
野太い豪快な声でそう言ったのは、無事復活を果たした鬼丸。
彼は笑顔で続ける。
「わざわざ駆けつけてくれた
鬼丸が感謝を述べたように、ここにはSランク探索者四人に加え、流歌と愛海、鬼丸のパーティーメンバー五人が集合している。助けてくれたお礼にと、鬼丸が集合をかけたのだ。
鬼丸は常駐の回復担当も誘ったのだが、先方が遠慮したため、ここにはいない。集まっているメンツが高ランク探索者ばかりなので、彼らも気が引けてしまったのだろう。
なお、流歌としては初めて知った情報も含まれるのだが、Sランク探索者たちのフルネームと探索者名、そして特徴はというと。
それぞれ配信活動もしているため、流歌はこのメンツのことをある程度知っていた。ただ、実際会ってみるとまた違う発見もある。
特に、流歌の左隣に座る夢宮白雪。
「流歌お
「……えっと、夢宮さん。どうして私がお義姉さんなんだ?」
夢宮は、店の前で会った初対面のときから流歌をお義姉さんと呼んだ。何かの聞き間違いかと思って聞き流していたが、はっきりお義姉さんと言っているので、改めて尋ねてみた。
夢宮は軽く首を傾げ、不思議そうに言う。
「流歌お義姉さんはわたしのお義姉さんだから、お義姉さんなんです」
「……ごめん、何を言っているのかわからない。何か大事な部分が欠けている気がするのは私だけか?」
「とにかく、流歌お義姉さんはわたしのお義姉さんです」
「……そうか」
流歌はなんと呼ばれても構わないので、もう好きにさせておくことにした。
「そういえば、流歌お義姉さん。わたしのことは気安く
「……いや、待て。流石に何かがおかしい気がする。いつから私たちは義理の姉妹になった?」
「今日からですが、今更何を?」
「今更何を……? 私は白雪との会話をどこかでスキップしたのか……?」
そんな話をした覚えが全くない。何が起きているのか、流歌にはわからない。
混乱するばかりなので、流歌は愛海に尋ねてみる。
「……なぁ、愛海さん。どうして白雪が私をお義姉さんと呼ぶか、わかるか?」
「わたしが流歌さんの妻だからだよ」
「……二人は一体なんの話をしているんだ? もしかして、ダンジョンを出た辺りで、私はパラレルワールドにでも迷い込んだのか……?」
「何を言ってるの、流歌さん。そんなわけないよ。わたしと流歌さんは前々から
「やっぱりパラレルワールドじゃないか。ちょっと今からダンジョン入り直してくる」
半ば本気でそうした方がいいような気がしたが、鬼丸からとりあえずなんか注文せいやと促されたので、一旦保留。
各自、夕食や酒を注文。
それから、愛海や白雪と話していると少し混乱しそうだったので、流歌は白雪のさらに左に座る黒沼に話しかける。
「えっと、黒沼さん。配信、いつも拝見させていただいてます。妙なきっかけですが、お会いできて嬉しいです」
「は、はい!? わ、私と会って、う、嬉しい、ですか!? 私なんて、その、全然、会って喜ぶような相手では、なくてですね! 本当に、どうしてこんなところにいるんだろうって、申し訳なくなっちゃうくらいで! 私がSランクだなんていうのも、きっと何かの間違いなんです!」
黒沼が過度に謙虚で気弱な感じなのは、配信を見ていてもわかる。実際に話してみると、その印象は強まった。
「間違いなんかじゃないですよ。黒沼さんにはちゃんと実力があります。妖魔のダンジョンもソロで地下八十階まで到達しているんでしょう? 間違いで到達できる場所じゃありませんよ」
「それは、その、私というか、黒魔術がすごいだけで……。私はただ、闇の導きに従って魔法を使っているだけでして……」
「闇の導き……ですか。黒魔術って、何か特殊な副作用があるんですか?」
「れ、冷静に、突っ込まないでください! 恥ずかしさで殺す気ですか!?」
「そんなつもりはないのですが……」
今の会話で何か悪いことを言ってしまっただろうか? 流歌は首を傾げる。
「流歌さん、流歌さん、黒沼さんをいじめちゃダメだよ」
愛海にたしなめられて、流歌はさらに首を傾げる。そして、ふと思い至る。
「あ、闇の導きって、なんか漫画的なセリフを言ってみたとか、そういう話ですか?」
流歌が尋ねると、黒沼は顔を真っ赤にしてしまった。
「わ、私、やっぱり帰りますぅううううう!」
黒沼が席を立って去ろうとするが、すぐに愛海が追いかけて黒沼の腕を掴み、まぁまぁとなだめる。
「すみません、わたしの旦那様、少し対人スキルに問題がある人でして……」
「……うぅ、私は早く帰りたいんですよぅ……人間は苦手です……」
「ここにあなたを傷つけて楽しむような人はいません。安心してください」
「……光瀬さん、優しいんですね。私と結婚してください……」
「すみません、既婚者なのでそれは無理です」
「やっぱり帰りますぅ……」
愛海は黒沼を逃さない。その腕をがっちり掴んで引っ張り、再度席に座らせた。
そして、流歌の対面の席に座る神代は、一連のやりとりを見てくつくつと笑いながら言う。
「なんだ、このメンツ! めちゃくちゃじゃねぇか! 面白すぎるだろ! もっと早く会ってれば良かった!」
流歌は笑っていいものかわからず、軽く肩をすくめた。
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