第25話 完了

 流歌たちは無事に転移陣の間に到達し、地下一階に戻る。


 そこでは愛海含めて回復担当の者たちが待ち受けていた。



「ウタ姫、お疲れ様でした! あとはわたしたちに任せてください!」


「ヒカリさんもお手伝いするんですね。死体、結講重いので、蘇生室までは運びますよ」



 愛海とやりとりしつつ、流歌は死体を蘇生室という名のテントへ運ぶ。


 流歌はぐちゃみちょになった死体をテント内でばらまき、愛海はそれを見てふふふと笑う。



「今日も見事なグロ死体ですね! 食欲が刺激されます!」


「これで食欲を刺激されるのはなかなかレアですけどねー。蘇生はお願いしますけど、食べちゃダメですよ?」


「食べませんよー。美味しいお肉っていうのは、それなりに味付けがされたものなんです。生でも無加工でも食べません」


「……まるで、味付けとか加工ができれば食べてみたい、みたいな雰囲気ですね」


「……じゅるり」


「冗談に聞こえないので、おちゃらけるのもほどほどにしましょうね」


「えへ」



 流歌は愛海の反応に少し呆れつつテントを出る。


 フェアリーがまだ配信を続けていたので、最後に軽く挨拶。



「ゴウケンさんたちの死体も無事に回収できましたので、今日の配信は終わろうと思います。いつもなら蘇生完了までやりますが、蘇生後の様子はゴウケンさんの配信でご確認ください。フェアリーは私たちについてきていて、今はチカラさんが配信中です。では、ご視聴ありがとうございました」



:ウタちゃんお疲れ様!


:いつもながら刺激的で面白かったよ!


:死体回収以外でも配信してくれていいんだよ?


:お義姉さん、また後ほどお会いしましょう。



(……そう言えば、私をお義姉さん呼ばわりする人は誰だったんだ?)



 流歌は少し気になりながらも、配信を停止。一息ついた。


 そこで、神代が流歌に話し掛けてくる。



「あ、ウタさん、ウタさん、そっちが終わったなら、ちょっとこっちで雑談でもしない?」


「いえ、結構です。私はもう出ます」


「まぁまぁ、そう言わずに。ウタさんがすごい活躍してたから、気になってる人が結構いるんだよ」


「私、雑談のための配信とかはしないタイプなので」


「じゃあ、ウタさん、一個だけ! 一個だけでいいから質問に答えてよ!」



 神代のしつこさに若干うんざりしながらも、流歌は応じてやる。



「……なんですか?」


「ウタさんって、どうして探索者やってるの? ちなみに俺は、超有名になってお金をたくさん稼いで女の子にもモテまくって、さらにダンジョン探索を楽しむため!」


「……欲望まみれですね。よくSランク探索者になれたものです。Sランクって人格も問われるんでしょう?」


「人格は問われるけど、危険な思想を持っていないかとか、まともな倫理観を持っているかとか、人助けをすることに喜びを感じるかとかだから。人間的に持っていて当然の欲望を持っていることは、マイナスにはならない」


「なるほど……。確かに、品行方正で正義の権化みたいな人だと、逆にちょっとうさんくさいですよね。面倒くさそうでもあります」


「そういうこと! それで、ウタさんはどうして探索を?」


「私は単に探索が好きなだけですよ。未知や不思議との遭遇、魔物との戦い、自分の能力向上……。探索より面白いものはないと思っています」


「わっかるぅ、それ! 探索ってもちろん危険もあるけど、やっぱり面白いよね! 地上では味わえない超刺激的な時間! ハマっちゃうともう探索自体が最高の娯楽になっちゃう!」



 神代がずずいっと前のめりになって、熱く語った。元より大人びた印象というわけではなかったが、子供っぽい無邪気な雰囲気が神代の魅力の一つなのだろう。



「あ、はい、楽しい、ですよね。探索自体が最高の娯楽、私もそう思います……」


「気が合うじゃん! ウタさんにももっと興味が沸いてきたなぁ。ウタさん、この後時間ある? ちょっと一緒に食事でもどう? ダンジョン探索について語り合おうよ!」



 流歌が何かを答える前に、蘇生室であるテントから愛海が出てきて、叫ぶ。



「ちょっとちょっと! わたしのいないところでウタ姫のナンパなんて許しませんよ! わたしがいてももちろん許しません! ウタ姫と食事なんて千年早いです!」



 愛海はバタバタと駆け、流歌と神代の間に割って入って両手を広げる。



「ああ、いや、俺は別にナンパしようっていうわけじゃないんだ。単に探索者として友達になりたかっただけでさ」


「嘘です嘘! わたしは知っていますよ! あなたが、探索者としてお友達になった女の子とそのまま爛れた関係になっていることを!」


「いやー、始めはただの友達のつもりだったんだけど、意気投合してだんだんそういう関係になるんだよねぇ」


「ダメですダメです! ウタ姫には近づけさせません! 離れてください! しっ、しっ」


「……いやはや、ウタさんには強力なボディガードがいるんだね。俺の入り込む余地はない、と」


「ありませんありません! 全くありません! ウタ姫はわたしのです!」



 愛海は神代を睨み、神代はそれを苦笑いで受け流す。



「ひ、ヒカリさん! 蘇生の途中で離れないでください! ゴウケンさんが人体模型みたいになってますぅ!」



 回復担当で常駐している人が、半泣きで愛海に声をかけた。



「今はそれどころじゃありません! ふしゃぁ!」


「わかったわかった、ゴウケンさんが可愛そうだし、早く行ってあげてよ。俺はもうウタさんには声を掛けない」


「次にウタ姫にちょっかい出したら、回復と金的の無限地獄ですからね! ふん!」



 愛海が慌ただしく蘇生室に戻っていく。



「……おっかない子だなぁ。まぁ、これは独り言だけど、ウタさん、今日はありがとう。雑談にちょっとでも付き合ってくれて、そして何より、ゴウケンさんを救ってくれて。俺、ゴウケンさんとは普通に友達だから、本当に死んだままになっちゃってたらすっげー悲しかった」


「……これも独り言ですが、私は仕事で仕方なく死体を回収しただけですよ。それでは」



 流歌は軽く手を振って、ダンジョンを後にする。


 少々面倒な死体回収だったが、引き受けて良かったのかもしれないとも、少しだけ思った。

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