第27話 提案

 なんだかんだ、賑やかな食事会となった。


 流歌はあまり他の探索者と交流しないため、色々と話をする機会が得られたのは良かったかもしれない。今後、他の探索者との付き合い方を少し変えてみようか、とも思う。


 ただ、気軽に色々と話せたのは、相手がSランク、もしくはSランク探索者率いるパーティーメンバーだから、という可能性はある。


 流歌はBランクだが、戦闘力に関してはかなり高い。同ランク以下の者たちとは、考え方も悩みもだいぶ違ってしまう。


 実力的に同じランクで、そして近しい目線で考えられる相手だからこそ、気軽に話せたとも言える。逆に、実力やランクに開きがあると、嫉妬が生まれたり、考え方に違いが出たりして、話が合わない。


 ついでに、気軽に話せたのには、鬼丸が上手く調整役になってくれたのも大きい。場を盛り上げたり、誰かのやや不適切な発言をたしなめたり。実力と人格を備えた、尊敬すべきSランク探索者という感じだ。


 そして、時刻が午後八時を過ぎたとき、鬼丸が言う。



「これはまだ単なる提案なんだが……ここにいるメンバーで、一度紅月のダンジョン八十八階を探索してみないか? ああ、もちろん、光瀬愛海みつせまなみさんは戦闘に参加できないから、それ以外の九人で、だな」



 一瞬、場が静かになる。


 最初に反応したのは、神代。



「それ、攻略しようっていうより、単に探索しようってこと?」


「ああ、そうだ。攻略目的ではなく、地下八十八階の調査が目的だ」


「攻略はしなくていいわけ? SランクとSランク相当が一同に介するなんて、次はいつになるかわからないよ?」


「攻略までやっちまうのは、それぞれのパーティーの人間関係にも影響するだろ? あまりはりきりすぎると、もうSランクの連中だけでパーティーを組めばいい、と言われるかもしれない。強い奴が集まれば最強パーティーが出来上がるってわけじゃないんだが、ちょっとしたひずみは生むかもしれない。だから、あくまでお祭り的にちょっと探索しようってことだ」


「なるほどねー。面白そうだし、俺は構わないよ」


「他の皆はどうだ? このメンバーなら、割と安全に地下八十八階を探索できると思う」



 鬼丸のパーティーメンバー五人は、すぐに賛成の意思表示。



 流歌は、白雪と黒沼の様子を確認。



「流歌お義姉さんが参加されるなら、わたしも参加します」


「わ、私は、その……皆さんが、参加されるなら、行きます……」



 黒沼はあまり参加したくなさそうだが、この流れで不参加を表明することができないらしい。


 ともあれ、こうなると、二人がどうするかは流歌の気持ち次第。


 流歌は少し考えて。



「……どうしても断わりたいというほどの理由はありません。探索だけであれば、参加しましょう」


「では、わたしは流歌お義姉さんと一緒に参加します」


「……参加、します」


「ありがとう! まぁ、攻略目指して頑張ろう、なんて張り詰めたものじゃない。気軽に構えてくれ」



 そういうわけで、流歌たちは、明日、早速紅月のダンジョン地下八十八階を探索することになった。


 流歌はまだ体のだるさを感じているが、明日には概ね回復しているだろう。


 その後、午後九時過ぎに食事会は終了。


 一度解散となり、神代は鬼丸の家に泊まるとのことで、二人連れ立って去っていった。


 鬼丸パーティー五人もそれぞれ帰宅。


 白雪は、別行動していた母親と合流。白雪はまだ高校生なので、遠出には保護者がついてきていたのだ。それから、流歌たち五人は近くのビジネスホテルへ。


 その途中で、流歌は白雪の母から尋ねられた。



「探索者って、死ぬことはほとんどないにしても、痛いこととか、苦しいこととかは、結講あるんでしょう? 女の子には難しい仕事だと思うけれど、ずっと続けていけるものなのかしら?」


「……それは本人の性格次第でしょうね。性別はひとまず関係ないですが、死ななくても、めちゃくちゃ嫌な思いをすることはもちろんあって、それで探索者を辞める人は少なからずいます」


「あなたは、辞めようと思ったこと、ないの?」


「ありませんね。私は探索が好きですから」


「そう……」


「探索者の中には、もう探索者としてしか生きられなくなってしまう者もいます。白雪さんがどうかはわかりませんが、私はそういう人間です。私の場合、周りから何を言われようと、探索者を続けます。ちなみに、あなたは、白雪さんが探索者を続けることに反対ですか?」


「……そうね。反対、かな。いつか、本当に酷い目に遭うんじゃないかって、不安なの」


「申し訳ありませんが、あなたの不安を取り除くことは、私にはできません。そんな魔法の言葉、私は知りません。それに、白雪さんに安全な探索を約束できるわけでもありません」


「そうよね……。あなたのご両親は、何も言ってこないのかしら?」


「何も言ってはきませんが、私の両親も、色々と心配はしているでしょうね。でも、私は探索をやめません。心配させて悪いとは思いますが、私にとって最高に楽しい生き方をさせてほしい、二人にもらったこの命を最大限に活用させてほしい、とも思っています」


「……そう。子供って、そういうものよね」



 白雪の母は少し呆れたように微笑んで、その話を終わりにした。


 ほどなくしてホテルに到着。


 それはいいのだが。



「……愛海さん。部屋は五つ取ったはずだけど、何故私の部屋に?」



 流歌の部屋に、ごく当たり前のように愛海がついてきた。



「約束通り、お泊りに来たよ!」


「いや、それは私の家に来るって話でしょ。一人用の部屋で二人はきつい。ベッドが狭い」


「大丈夫! 体を寄せ合えば十分寝られるから!」


「わざわざ苦しい道を選ぶ場面じゃないって」


「苦しくないよ? 幸せな道だよ?」


「本当に同じ部屋で寝るつもり?」


「うん!」



 愛海は本当に譲る気がないらしい。



「……もう好きにすればいい。でも、普通に寝るだけだから」


「またまたぁ、照れちゃって」


「照れてない。……とりあえずシャワー浴びてくる」


「全裸で待機しとくね?」


「待機しなくていい」



 流歌が呆れていると、愛海がいつになく寂しげな声を出す。



「ねぇ、流歌さん。流歌さんにも、これから友達増えたり、義妹ができたりすることもあると思うけどさ。流歌さんの一番傍にいたいって思ってるのは、わたしだよ。それは、忘れないで」


「……うん。それは、わかってる」



 要するに、愛海は寂しくなったのだろう。


 明日の探索も、愛海は参加することができない。



(私が遠くに行ってしまうような気がした……のかな)



 流歌は少しだけ愛海の気持ちを想像し、迷いながら、愛海を軽く抱きしめた。



「私はどこにも行かないし、探索から離れるときには、愛海さんが傍にいてほしいと思ってるよ」



 少し、間があって。



「る、る、流歌、さん。そ、それは、プロポーズと受け取っても……?」


「それは飛躍しすぎ」



 流歌は愛海から離れ、シャワールームへ向かう。



「飛躍してないよ! もうプロポーズにしか聞こえなかったよ!」


「違うから。そういうのじゃないから」


「もう! 流歌さんの意気地なし!」


「なんでそうなるんだ」



 何かと騒がしい夜が更けていく。



(探索してるときが一番楽しいとは思っちゃうけど、こういう時間もいい、かな)



 流歌はそんなことも思った。

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