第3話 妄想が深刻化して現実世界から完全に逃走
箱の中で、妹の真美はボックスと対峙していた。真美は、ボックスが一郎の孤独な心の投影であることを理解し始めていた。
「ボックスさんは、お兄ちゃんの寂しさが生み出した存在なのね」
真美はボックスに語りかける。
「私は一郎の本当の友達だ。私は彼を心から理解している」
ボックスは真美を見下すように言う。
真美は、ボックスと会話を重ねるうちに、一郎の心の闇に触れていく。幼い頃からの孤独、周囲からの疎外感、自己肯定感の低さ。一郎の心の傷が、ボックスという形になって現れているのだと真美は感じていた。
一方、現実世界では一郎の不在が問題になり始めていた。
アパートの大家は、一郎の安否を心配し、真美に連絡をしてくる。
「一郎さんから連絡はありませんか?家賃の支払いが滞っています」
大家の声は真美の心を重くする。
真美は、一郎を現実に引き戻そうと、必死で説得を試みる。
「お兄ちゃん、ここは現実じゃないの。外に出て、また家族で暮らそう」
真美は一郎の手を握る。
しかし、一郎はもはや現実世界に戻る気持ちを失っていた。
「俺はここで良いんだ。ボックスがいてくれるから。現実なんて、もういらない」
一郎は虚ろな目で呟く。
「それは違うわ!お兄ちゃんは現実から逃げているだけよ!」
真美は叫ぶが、一郎の耳には届かない。
ボックスは不敵な笑みを浮かべる。
「一郎は私を選んだのだ。君には理解できまい」
真美は言葉を失った。一郎の心は、もう現実には戻れないほど遠くに行ってしまったのかもしれない。
箱の中で、一郎はボックスと楽しげに話し続けている。その姿はまるで、現実という名の檻から解き放たれた鳥のようだった。
真美は絶望感に打ちのめされる。これ以上、一郎の妄想の世界に足を踏み入れては、自分まで引きずり込まれてしまう。
真美は心を痛めながら、今日も箱から出るのであった。
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