5-3-13 転生して魔法審理官になりましたが、味方が序列第三位の天使で生活は安泰です……?

【ID】

5-3-13

第5回/第三会場/No.13

【結果】

会場・全体ともに下から数えた方が早かった気がするけど、下から何番目かは覚えてない

【あらすじ】

※第5回当時はあらすじを掲載していなかったため、連載時のもの。提出当時から改題&内容大幅変更しているので、全然違う作品のようになってます。


三姉妹の末っ子で、姉たちに散々いじめられて育った大学生・上月紗弓(こうづき・さゆみ)。

妹がほしかった、とふと思っていたある日、目の前に幼女が二人。二人は天使という存在で、ここ最近異常に増えている悪魔を討伐……もとい、ぶちのめしに人間界に降りてきたらしい。紗弓はそんな二人をサポートし、悪魔をぶちのめす手伝いをする「天使管理官」という仕事を始めるのだった。


果たして女子大生とロリ天使×2の共同生活の行方は?そして、悪魔の異常な増加の原因とはいったい……?


【余談】

もう一度書き出し祭りに参加してみようということでネタを考えてみた時に、前回の「仮想都市の警察官」のような好きなネタをぶち込むのとは逆に、書き手が読み手になることが多く転生ものがマイナス評価を食らいやすい書き出し祭りという場で、あえて転生もの(に見える風な作品)を出したらどうなるか?という実験をしました。どんな魅力的な書き出しを書けるか、というのが書き出し祭りのコンセプトですが、私の場合は単に読者を試す場として活用しているので、このムーブが私にとっての正解です。

内容はほとんどタイトルの通りなのですが、魔法が当たり前の世界観で行政官のような仕事に就く主人公が、このたび仕事を補佐してくれる天使を呼んだところ何かと問題ありそうなやつでした、というもの。最後を疑問形にすることでひねった感を出しましたが、当時のタイトル感想などなどを聞いていると、どうもタイトルに「魔法審理官」という独自用語を使っていたのがマイナスポイントだったようで、それもあって振るわなかったようです。当時は魔法も審理も一般名詞だから、そこまで理解は難しくないだろうと思っていたのですが。

祭り終了後は一発ネタとしておしまいにするつもりだった本作品ですが、「天使」「魔法」「わがままヒロイン」などの要素を残しつつ、リニューアルして連載化しました。連載タイトルが


「天使管理官~ロリ天使のお世話と、悪魔をぶちのめすのがおしごとです~」


なので、いよいよ別の作品ですね。ちなみに本連載作品、最近の奈良ひさぎ長編に珍しく基調がギャグ展開なので、鬱屈な気分の時におすすめできます。残りの連載作は全部読者を病ませるために書いているようなものなので……。


【本文】

 転生した。






 と言っても何だかよく分からないうちに、である。おかしいな、昨日はちゃんと早くベッドに入ったはずなのに。朝目覚めたら、全く知らない場所で、全く知らないファンタジーな格好をして俺は雑魚寝していた。




「……は?」




 人間関係に難があるとか、人生に不満を抱いているとか、そういういわゆる負の感情があると、異世界とやらに“飛ばされる”傾向があるらしい。そうどこかで聞いたことがあった。しかしそんなやましいことは断じてない。最近の悩みを強いて言うなら、肩こりがひどくなってきたことくらい。




「勘弁してくれよ……」




 けれど元いた場所と全然違う、というのは間違いなさそうだった。それでぶっ飛んだ理論なのは承知で、俺は異世界に飛ばされたという仮説を立てた。


 美術の資料集で見たことがあるような、昔風の貴族の寝室。スペースの半分くらいを陣取るベッドの足元に、俺は寝転がっていた。誰だよ、こんなところに俺を寝かせた・・・・・・やつは。




 寝かせた・・・・?




「お目覚めですか?」


「わっ」




 俺以外誰もいないと思っていた寝室で、俺以外の声がした。可愛らしくて、透き通るような少女の声だった。




「おっと、驚かせてしまいました……なるべく穏便にことを済ませようと、」


「誰だあんた」


「思ったの、ですが」




 果たして俺のすぐ隣にあるベッドを陣取っていた声の主は少女だった。髪は栗色のボブ、目は水色がかっているように見えた。そしてあまり人に見せることを考えていなさそうな、無防備な寝巻き姿だった。浮世離れした少女の容姿を見て、俺はここが少なくとも昨日までいたのとは違う世界だということを確信した。




「こうも敵意を向けられては、仕方ありませんね」




 そして開始十数秒でいきなり、少女が銛もりのような先の鋭い武器を俺に突き出してきた。やばこいつ。正気かよ。




「待て待て待て。まずこの状況を説明しろよ。話はそれからだ」


「あ、話をしたら殺してもいいんですね」


「……よくない」


「ですよね」




 少女は何事もなかったかのように武器をしまった後、とりあえず新しい職場に行きましょう、と俺に声をかけた。




「新しい職場?」


「こんなところではなんですし、カタイ話をするのにはそこがちょうどいいんです」




 少女は俺が瞬きをした隙に、俺と同じような紺色のローブを身にまとった。何がなんだか分からなかったが、一瞬殺されかけた俺が納得するような話をしてくれるのならと、とりあえず従ってみることにした。




「着きました。ここが今日からあなたの職場です」




 そう言って少女が案内した先は、部屋を出て階段を下りて正面に見えた部屋だった。途中に通った廊下から見える屋内の雰囲気はさながら、貴族のお屋敷だった。そして仕事場だというその部屋は、何やら使い古された難しそうな分厚い本があちこち積み上がった、いわば書斎だった。




「申し遅れました。わたくしロゼといいます。天使、というのをやっていまして」




 少女は窓際にある、ひじかけのついた高級そうな椅子を俺に勧めて、俺に向かい合うような形で簡素な椅子を用意してちょこん、と座った。




「天使ぃ?」


「その反応を待ってました。実はあなたをこの世界に呼び出したのも、わたしというわけです」


「やっぱ、なんか異世界とかそういうやつなのか」


「ええ、あなたのいた現代日本と交わることもなければ、並行世界でもない。ここはいわば、ねじれの位置にある世界です。本来は・・・、ですが」




 ロゼ、と名乗った天使は最後だけ強調して言った。言われてみれば、ロゼの頭の上にはなんだか天使の輪っかみたいなものがうっすら見える気がする。寝ぼけて目がかすんでいるだけかもしれないが。




「本来は」


「この世界をはるか上から統治する天使は、魔法を使えます。ところがどっこい、その魔法が下界の人間にぶんどられてしまったわけです。そしたらどうでしょう、本来つながるはずのない世界とリンクしてしまった。しかも、微妙に世界どうしの移動ができない、中途半端な状態で」




 ロゼの話し方がどうもミュージカルぽい、という邪念をいったん頭の隅に追いやって、俺は言葉の意味を咀嚼そしゃくした。要するに、やっぱりここは異世界というやつで、しかも俺は元の世界に帰ることが許されないらしい。




「最悪だ。納期だって近かったのに」


「そうも言ってられないんですよ。今は現代日本とつながりかけてる程度ですが、このままだといずれ世界の崩壊が始まってしまいます。より具体的には、こちらの世界が向こうを丸呑みしてしまう感じ」


「……え」


「あなたがわたしに協力しない、と言ったとしても、あなたは帰れません。それともここは帰れませんよかったですね、と言った方がいいんでしょうか」


「んなわけあるかい」




 さすがに家族に友人、同僚や上司までみんないなくなっちまえ、と思うほど俺は鬼ではない。つもりだ。




「……分かったよ。協力すれば、帰れるんだな?」


「そうとも限りません。なぜ人間風情に魔法が奪われてしまったのか。人間には魔法なんて使えっこないのに、何のために奪ったのか。天使の手から離れた魔法が今どこにあるのか……まだ天使側も混乱していて、分からないことだらけなんです。分からないままでは世界の崩壊を止めることもできません」




 人間風情、と見下すような言葉遣いをしたのが少し気になったが、そこにこだわっている場合ではないらしかった。




「そんな、天使にも分からねえのに」


「しかし人間から魔法を奪い返さないといけないのは同じ。そこでわたしの出番です。あなたには魔法審理官になってもらいます。それも序列第3位の天使の加護を受けた最強の、です」




 ロゼがへっへん、と手を腰に当て、胸を張ってジロジロ俺を見た。こいつが天使の中で3位? 33とか333位の間違いだろ。とてもそんなに強そうには見えなかった。いわゆるひょろひょろ体型というやつだ。




「……ふーん」


「今思いましたね!? このクソ雑魚が、がっかりだぜとか思いましたね!?」


「……間違ってはない」


「へへっ……まあいいんです。魔法を使うのはわたしじゃありませんから。天使の力を借り受けた、あなた自身なんですから」


「俺が、魔法を?」




 なんだか開き直った様子のロゼに尋ねると、彼女は胸をとん、と軽く叩いて自慢げに口を開いた。




「普通の人間ごときに天使の魔法は使えません。でも天使の加護を受ければ話は別です。天使の魔法を盗みやがった人間をぶちのめすには、天使の力を使った人間が戦うしかないんです。どうです、希望が持てましたか?」


「……お、おう」




 ロゼがどんどん乱暴な口の利き方になっていることの方が気になって、生返事になってしまった。なんだかんだ言って、俺が戦わなければならないことは変わらないらしい。めんどくさ。




「……で、その魔法ってのはどんなのなんだ? 炎とか水とか、自然とか? それしか思いつかねえけど」


「いえいえ。そんなちゃちいもんじゃありません。そんな低級魔法を使うのはクソ雑魚天使だけで十分。その程度であがけるもんならあがいてみろって話です」




 そうですね、例えば、とまで言ってロゼがバルコニーへ出て行った。ついていくと、ロゼがさっき俺に突き出した銛のような武器――よくよく考えれば天使より悪魔が持つにふさわしいものだ――の先を遠くの方へ向けていた。




「あの雑魚が見えますか? 炎系の低級魔法を奪っていい気になって、しょうもないイタズラをやっているあいつです」


「ああ、何とか見える」


「あんなのじゃ、オツムのレベルが知れるってもんですね。……えいっ」




 特に武器を持つ手に力を込めた、というわけではなさそうだった。しかし一筋の光がその先から出て、そんな馬鹿なと叫びたくなるくらいきれいな放物線の軌道を描いて、その男に命中した。距離にして、軽く500メートル以上。




「これでわたしの魔法は終わりです」


「は?」


「掃いて捨てるほどいる雑魚天使の、正直使いどころもない魔法を奪うのは結構癪しゃくですが。敵とみなした輩の魔法を奪って、しかも威力を増強して使える。これが序列第3位の天使としての魔法です」




 どや、とまたロゼが得意げに胸を張ってみせたので、すごーい、と俺はギリギリ棒読みにならないくらいの語調でロゼを褒めた。




「はい、さよなら」




 ロゼは容赦がない。突然魔法が使えなくなって戸惑い、周りの怒れる市民たちに囲まれようとしていた男めがけて、隣で見ていてもぞっとするくらいの勢いの炎を放った。かと思えば炎が男に届いたのを確認するとすぐにそっぽを向いて、書斎に戻ってしまった。明らかに興味が失せたような態度だった。




「さあ、行きましょう。つまらない人間風情に、天使と魔法がはるか雲の上の存在だということを、身をもって教えてやるのです。ああ、なんと親切なことか!」




 にやり、と残酷に口角を上げるロゼを見て、ざわっ、と俺の体が反応した。


 そもそも俺の身に何が起こっているのか、まるで訳が分からなかった。しかし一つだけ、ヤバいとだけ分かることがある。まさか純真無垢なイメージさえあった天使の中に、こんなにも性格の悪い奴がいるなんて。しかもこれから先俺が元の世界に帰るまで、この天使とうまくやっていかなければならない。




「もうなんか、これ……夢、だよな。悪い夢であってくれ」




 俺の人生最大の悪夢はこうして、つねってもつねっても痛いだけの頬を押さえながら幕を開けた――

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