なんで家宰なんてやってるんだよ……

「先輩!東部山間部から金やら鉄鋼石やらが見つかったと報告があったのですが!?」

「ああ、そうですか?それで?」

「それで!?金ですよ!金!大金鉱や大鉱床だったらどうするんですか!道を通せませんよ!」

「通せますよ、どうせその山だけでごく小規模なものになるでしょう。多分ですがね。良くて隣の山ですかね。帝国からドルバーニュに送る予定の人材や新しい監督役と採掘者を呼んで山ごと崩して経費を浮かせましょう、出来ますよね?国土局長」

「はい……」


 愚弟のせいで交渉の余地もありはしない。追加の人材に機材に……山を崩しているから露天掘りか?そのへんも技術者と相談して……。


「明日は追加の爆薬が届くので別の山を爆破しますよ」

「えっ!?」

「その山も金山かもしれない……じゃないですか、だから爆破します。土はそのまま各家の不毛地帯に運んで畑の土の名目で押し付けますよ、安いもんでしょう、巨大道路を無料で作っていただけるのですから。タダどころかこちらが損をしてしまう、いや、不毛の地に肥えた土を安く払い下げる……貴族と領主と帝国席次持ちの鏡ですな。さすがカール様」

「いや、そこの差配は先輩が……」

「なにかありましたか?国・土・局・長」

「ありません、アラン家宰」


 協力の姿勢も見せない貴族や代官たちを道路関係の事業や売り込みから弾いて孤立させた後、山の土を不作の土地に土を売りたいといい、売りつけてかろうじて木端事業に関わらせている。

 かといって協力を求めたのに金も人も出さないが利益は出せ、恩恵をよこせと言う相手にやり返したところで怒れない、裁けない。どうなろうと興味がないと言った方が良いが。

 自分たちの利益よりも他所への利益、最終的に帝国の利益をと言ってる相手にそんな対応するやつなぞ助けないし足蹴にされても文句は言わんし言わせんからな。カール様を甘く見たんだろう、流石に中央と縁が無いだけあってアラン先輩のことも知らなかったらしい。

 もしくはハリスン侯爵の子息と聞いて舐められたんだろうか、これが一番あるな。ミミ夫人の子息とはいえ5歳だしな、5歳か……。兄弟揃って神童か異世界転生者か……どっちなんだか。


「さーて、これほどの大仕事は先代とやった時以来ですなぁ!腕がなりますよ!新鉱山に介入する動きを見せたバカどもを失脚させますよー!南北国境近くで見つかったと嘘を流してください。北部はまともなので動かないでしょう、でも南部は動きますよ」

「それにはどう対応されるつもりで?帝国に任せるといっても周辺領地に利益は分ける必要はありますよ、本来の位置であればジョストンの独占でしょうが……南部は交渉をしてくるし真実をいっても無駄なやり取りはありますし、ならば見せろと領軍を連れて視察位はしてきますよ」

「爆薬実験をその日に行います、危険だから寄るなと伝えます、いや、ないと言って前日に視察させた後追加視察を拒んで数日間爆薬実験すると伝えたほうがいいですね、うまく行けば向こう側の優秀な調査員が爆死してくれますね、危険地帯に入って勝手に死んだんだから迷惑料をいただきましょう」

「私の把握してない何かで南部と何かあったので?」

「物資輸送と山間部道路工事で人材派遣を強請ったらごねましたからね、ちょっとした意趣返しです」

「あそこにまともなトンネルや道路が出来たら損する南部が派遣するわけがないでしょう」

「その後で盗賊崩れを山に追放したのでついでに爆殺してやりましたよ」

「何で報告してくれなかったんですか!?」

「なんでですかね?領軍や金鉱の戦いでで私がいっぱいいっぱいだったからじゃないですかね?私も人間です、失敗はします」


 私への意趣返しも兼ねているのか……。確かに報告しなくてもいいといえばいい案件だが微妙なラインだというのに……詰問されたらどう言い訳するつもりだったんだ?


「いや、爆薬実験は成功続きです。小型爆弾を作って敵地で爆発させることも大規模に出来そうですね!」

「条約違反では……?」

「神聖帝国に条約は通用しないでしょ」

「まぁ……神聖帝国ならいいですけど……他国は止めてくださいね、いやほんとに……」

「内務省担当者として爆薬の生産許可をいただきたいのですが」

「それは国土局ではありませんが……」

「内務大臣なら大丈夫でしょう?お願いしますよ、カール様もきっと喜びます」


 この人が一番の奸臣なんじゃないかって時々思うんだけどな……。カール様の信頼も厚いし掣肘もしない。かといって言いなりのようでもないし……革新派よりはマシだがこの人と先代侯爵がいた頃の政治界隈どれだけ物騒だったんだか。


「ああ、そうでした。近々客人が来るので接待をお願いいたします」

「客人を?私がですか?」

「ええ、国土局長にです」

「……ええ、わかりました」


 一応領の改革担当者でも国土局長にもやらせる仕事ではないが……ここまで言うのだからなんかあるんだろうな。


「あれ?今日は何日でしたっけ」

「18日です」

「これ届いたのいつでしたっけ?」

「え?さぁ……おそらくカール様あてですよね?」

「爆薬実験成果報告と資材調達の間に挟まってたのですが?カルマン国土局長ではない?1日必着ですけど」

「親書ですね、騎士団からの」

「一応全権委任されている限りは皇帝陛下からの親書以外は開封できますし見ておきましょうか」


                任命書

 カール・ジョストン団員兼副団長付き参謀を臨時後方本部長に任命する。派遣された騎士団の後方任務を統括する。権限は戦闘以外全てにわたる。同日に騎士団に同じ報告が届くので当日から業務されたし。

                         帝都騎士団長 カストラーゼ 

 

「これ……ダメなんじゃないですかね?」

「……大丈夫でしょう、間違えてドルバーニュ領都ではなくジョストン領都に届けたのは配達担当のミスですし」

「おお!」

「1日で届ければそういうことになります」

「……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る