それは聞いてない

「カール伯爵閣下、こちらの書類をよろしくお願いします」

「ああ、うん……」

「伯爵?こちらの書類をお願いしたいのですが」

「置いといてくれ」


 なんの因果か俺は騎士団の書類を処理している。平の騎士団員ではなくジョストン伯爵として。なぜわざわざそんな面倒くさいことをしてるのかというと……。


 ドントのやつが悪い。許可が出たから騎士団に文官を割り振りたいと言うまではいい、なぜ俺が担当するのか、騎士団本部の書類がこちらに来るのか、担当している騎士が書類を輸送するだけの機械と化しているのか。


「カール様、こちらを先に。元領兵が周辺に定住した書類です」

「と言っても確認して認可するだけじゃないかこれ?」

「確認することが大事ですので」

「それもそうだな、まぁ何も確認することもないしな…‥書類の齟齬はなし。はい送ってくれ」


 統治の書類が最優先だからな、平団員だと騎士団を優先しなければならんし……一応簡易叙任で任務を回避してるのに平団員の業務に首突っ込みたくはない。ただえでさえ副団長付き参謀という名ばかりの謎の役職についているのに。


「領西部のトスカで盗賊騒ぎだそうだ、騎士団を派遣しろ」

「はっ!」

「領東部で敗残兵が徒党を組んでるらしい、被害が出る前に帝国軍に要請して……」

「伯爵閣下、騎士団にお任せください」

「帝国軍が近い、周辺騎士団は待機」

「はっ!」


 なんで俺が騎士団を動かさにゃならんのだ……本部の判断ならトーチャ副団長たちがやればいいのに、本陣と担当本部を分けて本部の指示で動けばいいから本陣にいますってなんだ?本陣が攻撃されたら勝手に反撃するから指示だけくれってふざけてんのか?アレでも戦略と戦術は確かみたいだし情報さえ送ればうまく働くか。

 だめならカルマンさんに愚痴ろう。


「今日の行政執務は終了です」

「では騎士団業務をやる、空いたものを集めてやらせろ」

「もちろんです」


 あー……イキイキしてるなーコイツ……。仕事好きなのか騎士団に影響力を発揮できてるかなのかどっちだろうな。多分後者だな、どっちもなら普段からこんな感じだろう。


「…………補給が領都に完全一本化してないか?」

「構わないでしょう。どうせ補給用書類すら遅れるんですから、ねぇ?どうします?書類を出し忘れた挙げ句に1週間分切り詰めずに追加の補給を要求した騎士団の皆さん」

「はい、伯爵にお任せします」


 なんで本部回せる人材をよそに派遣するかね?届く書類はまともで驚いたんだが?これをまとめて書類にするのに向いてないやつを何故残すんだ?人事ダメダメか?

 いや、この判断をしたのは副団長たちか。

 ろくな書類が来なくて派遣したら本部の書類を作る能力が落ちてたのに気がついてなかったとかなんだろう。書類をつくるというか纏める能力か?

 本部の後方担当も派遣するのはどうなのかと思うが、それだけ金鉱に関しては真面目にやってるとも言える。じゃあもっと文官連れてくるかこの手の業務得意なやつ連れてくればいいのに。


 まぁ、俺が金鉱をやらされなくてよかったとは思うよ、採掘とか全く知らんしな。






「総司令官閣下、2000人の領軍は完成しつつあります、あとは実践あるのみです、実戦により磨き抜き、未来に備えましょう」

「士官教育の話をして2ヶ月か」

「遅くなり申し訳ございません、調練で足を引っ張った分、士官教育の方は予定よりも年単位で早く終わりました」

「士官教育は数年がかりだろう?早いさ」

「通常の士官教育のようにもう少し高度なところまで学ばせたいのですが、なにぶん調練具合を見てると……肉体的な方が……ただわかりやすい教本を作ったおかげかあまり教育面ではつまづきませんでしたね」

「重畳、重畳」


 まぁ、士官教育が2ヶ月で終わるとか無理だしな、多分基礎的なもんだけだな。それでいい。


「士官教育の方だが実際何処まで?」

「教養の部分はやらずに済みましたので全て割愛しました。帝国は教育が行き届いてますね。実践性、実用性を重視したのですが……」

「何かあったのか?」

「ここキャンディ・スー先生の小説で読んだことがあるとあっさり理解してましたね」

「ああそう……」


 またお前かよ……キャス色々書いてるんだな。


「まさか……野営の料理の技術をここまで持っているとは思いませんでしたね」

「そんなにか?」

「バリエーション豊富でしたね、正直羨ましいくらいで」

「意外なことだな、ジョストンでは料理でも流行っていたのかね?」

「いえ、それもキャンディ・スー先生の本らしく」


 誰でもできる騎士団の書類処理って本出してくんない?


「この本です」


『キャンディ・スーのお料理本~戦場野営辺~ 兵卒でも最前線でフルコースを食べる方法』


「なんだそれは!」

「非常に面白いですね、スパイスに使える野草や料理の味を良くする一手間などが書いてあります。これを教本にしたいのですが、すでに全員読んでいました」

「あー……うん、いいんじゃないか?教本にしても」

「あと『作中戦術図解』と言う本がわかりやすいですね」

「作中?」

「キャンディ・スー先生の書いた本に出てた本の解説らしいです、単体でも読み応えがありまして」


 軍人から評価されてるのかあいつの戦術本、そりゃ席次もあがるわな、それが原因じゃないだろうけど。


「あの~ご歓談中失礼します……」

「どうしましたか、ガルバン第1騎士団長」


 そういえばいたな、領軍の情報を聞いておきたいとかなんだかで。


「うちでも取り入れられませんかね?それ」

「好きに取り入れればいいんじゃないですか?なにか問題でも?」

「カール様は騎士団臨時後方本部長じゃないですか、許可と制定をしていただきたいのですが……」

「何だその役職は!」


 何だその役職は!知らないぞそんな職務!


「えっ?」

「えっ?」

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