大変だ!

「あっ……」

「どうかされましたかな?国土局長、お手が止まっていますが……」

「いえ、その……部下からの手紙です」

「ほぅ、騎士団が領内治安を勝手に受け持って盗賊を討伐したのにカール伯爵に報告しなかったことですかね?それともこの期に及んで文官不足を理由に書類の提出が遅れていることですか?一体どの報告でしょうか?」

「いえ、騎士団は私の部下では……」

「ええ、そうですね。建前は」


 本当にやりづらいなアラン先輩は……。本当にあの愚弟は……!

 お前が失敗するたび俺の蓄えた白金貨が溶けていくんだぞ!ハリスン屋敷の包囲といい、指揮官にしたことといい、後方の最高司令官として領都の掌握と統治を任せて体裁を整えるようにしたら戦場に連れて行くわ、安全な場所に配置しろと言ったら激戦区で戦闘に巻き込まれるわ、軍は被害が大きいと思ったらいきなり領軍が解体されたり。

 新帝国式でいくとカール様から言われたが、辞めた領軍のことを相談してないとはどういうことだ!領軍解体前から領軍の担当場所を騎士団が管理していたら報告ぐらいは上げておけ!カール様は1万の兵を市内巡回だけに使っていたのだぞ!領軍解体で驚いたら任せてある、市内巡回にしか使ってないので問題ないと言われて抗議もできなかった。


 カール様に領軍解体して大丈夫かと聞くくらいならその時点で騎士団が周辺地域の治安維持を担当してますと伝えておけばこうも面倒なことにはならなかっただろうが!

 辞めた領軍の死亡連絡もなにもなければ書類の提出も遅れた挙げ句、書類業務丸投げしてれば……領軍と帝国軍の違いはなんですかと嫌味を言われるだろうさ、書類仕事も出来ない挙げ句に他人に丸投げして知らん顔してる騎士団はなぜ偉いんですかと嫌味を言われてることもわからんのか?あいつらは。わからんか……わかるやつは今は本部にいないしな。なんで本部付きの人材を他に派遣してるんだあいつは?


 カール様から初めて知った、申し訳ないとすっとぼけた謝罪の手紙も届いたし……もう先手を打たれてばかりだ。やはり私がいくべきだったか?


「何か?」


 無理だな、連れてきた官僚たちがアラン先輩の指揮下に入って数年借りられ続ける姿しか見えん。私がアラン先輩とうまいとこやり合わないとケツの毛までむしられるぞ、王宮に駆け込まれて苦情を言われたら流石に私もどうにもならんことが重なりすぎている。

 異世界転生者疑惑に違うとしても5歳は思えない優秀さだから絶対こちら側に入っていただくと言ったのに脅すような形にしてこっちを不利にしおって……。

 こちらからも文官を捻出して……このクソ忙しいときに……!


「それで?何のお手紙でしたか?」

「騎士団で書類仕事ができる人材が不足しているので文官を貸してほしいと」

「いませんねぇ……そんな人材。いるんですか?いや、ここ数日でだいぶ忙しくなりましたからね。領兵が減って領地に帰ってこないとか。騎士団が国境沿いで工事中の山を面倒だと言ってダイナマイトで爆破して山崩れを起こしたり、硬い地盤を考えて山をダイナマイトで爆破することになって爆薬を買い付けたり、数を計算したり、計算ミスで一番大きいトンネルを爆破したり……どうします、山を全部ダイナマイトでふっとばしますか?予算は国土局長が出していただけると確信してますが」

「いえ、それは……部下が申し訳ありません……」


 部下のクセが強すぎた。トンネルを掘るのとダイナマイトで山をぶっ飛ばすのはどちらが早いか安上がりかを検証したいとか事後報告で伝えられた際には頭を抱える羽目になったからな。革新派の奴らでまともなやつが少なすぎる。

 ダイナマイトで山を爆破して平らな道にした事例がないから後世のためにやっておきたかったとか何を言ってるんだ?無理だろ、いくら使うつもりだ?

 アラン先輩が乗り気になってるあたり考えがあるんだろう。山をやたらめったらダイナマイトで爆破してどうするんだ?鉱山でもあるのか?


「ダイナマイトの購入先と関係を作っておきたいのですよ、それだけです」

「そうですか……」


 絶対に嘘だな。多分なんかあるんだが調べても何もでてこない。購入先と何かの交渉を持った可能性のほうが高いか?




 その日の午後、カール様の臨時秘書にしておいたまともではない革新派から騎士団の文官を派遣して革新派の影響力を持たせてよいかと手紙が届いた。これ以上仕事が遅れるのはカール様も看過できないらしい。

 どっちだ?コイツの独断か?カール様の判断か?それとも協力体制か?


 カール様の性格的に騎士団を支配下に置こうとは考えまい、振り回されすぎて嫌になってるはずだ。騎士団員であることがプラスになる前にマイナスになる出来事が続いて黙認ということだろうか。

 こうなると失敗したか?騎士団員になったことでカール様を評価したのはいいがここまでとはな。

 いいや、普通に仕事丸投げしてるクセに最低限の書類仕事も出来てないのにムカついただけかもしれん。


 止めるには騎士団へ文官を派遣することだが……。

 まぁ無理だな、アラン先輩を説得できるとも思えん、それに派遣したうえでしくじったら完全に私の責任になる。有耶無耶で申し訳ないの一言ではもう済まない。

 本部付きの書類仕事がうまい奴らが戻れば影響力を排除できるか?だが革新派ならこちらにも利益はあるが……私は弟が副団長でお釣りが来るからな。

 排除すれば私が率いる革新派から私が狙われることになるな。だが統制が取れるか?現状でこれなのに。外に出たら好き勝手しすぎていて革新派が瓦解しそうなんだが。


「どうかなされましたか?」

「いえ、何も」


 アラン先輩に介入されたら革新派がアラン派になるかもしれん。良くてカール派だが……本質的にアラン先輩ってテロリストみたいな破壊者だと思う、その後に壊した国を組み立てもできるタイプの。


 致し方ないか……。


 私は騎士団の業務妨害や理念を歪めるようなことをしないこと守るならと条件を伝え許可を出した。

 あとは本部の人間が戻ってきてうまく実権を取り戻せるか、帝都に戻って出陣しなかったやつらがうまくやるだろう。

 これもうまくいったら私がやらせたことになりそうで嫌だな。

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