大変ですね

「騎士団を影響下に収めましょう」


 何いってんだお前?謀反か?


「連中は書類仕事がダメ、カール様もわかっているでしょう?この書類の遅れ、遅れ遅れ遅れ……そいて届いたのは辞典ですか?百科事典が送られてきたかと思いましたよ。これ3ヶ月分ですよ?提出してなかったものも含めて」

「なんでそんなに?書類処理がうまいやつ自体はいたんだろう?」

「一度本部に集めて再度提出するようにしてたんですよ、把握する必要がありますから、把握してたか甚だ疑問ですがね」

「それどうやってたんだ?いや真面目に」

「領都に投げてたのですよ、我々が処理してましたが……ばかに量が多いと不思議には思ってたのですが……流石に戦中の雑務等は経験が少ないので、人も少ないですしね、まさか違う業務の書類を投げてるとは思いませんでしたよ、騎士団の補給計算も我々の仕事だと思ってましたしね。堂々と持ってこられましたからね……」


 なかなかやるな、その手は使えるかもしれない。


「連中は人手不足で書類もまともに作れないらしいです。呆れたものですね……。いや平民の庇護者としての騎士はもちろん尊敬していますよ、カール様のようなね。しかしそれと仕事を押し付けてくる同僚を好ましいかは別ですね。いいですか、カール様。これは我々革新派が騎士団に影響力を持てる絶好の機会なのです」


 俺革新派じゃねぇよ、中央集権強化と無能貴族排除はまぁいいけど……貴族制度自体の解体や平民のための議会設立とかは正気じゃないよ。平民の大臣や官僚が実権を握ってる今そっち側に傾きすぎてもどうせろくな方にいかないぞ。


「私は革新派の政策全てに賛同してるわけでもないぞ」

「全てに賛同する必要があるのですか?人が集まればここはダメ、これは良いと進めることはできるでしょう?その中でこれだけは進められる政策を作って抜けるなり何なりすればいいでしょう。我々は無能な貴族共の排除を第1目標に置きそれは達成されつつあります。カール様のお陰で」


 俺は何もしてないんだよ、手紙拾っただけだって。金は恨まれたくないから返しただけ。本当にそれだけなんだ……。


「御覧ください、このドルバーニュ領都で働く文官たちを!貴族から虐げられ左遷されそして復権し……こうしてカール閣下に庇護され!今……反撃の時が来たのです」


 左遷されたってこういう思想のクセが強すぎるとこだと思う。後、暗殺計画ばっかあって兄貴が守ってくれてた俺と違って死んでないから多分そこまで虐げられてたわけじゃないと思うよ。


「反撃ねぇ、虐げられたのなら多分皆死んでるだろう?私がどれだけ殺されかけ兄に救われたか」

「ふぅむ……確かに……カール様にそう言われると自分たちがいかに安全地帯で旗振りをやっていたか身を持ってしれますな。謝罪いたします。事が終わったらもう少し穏健な案でも提案してみましょう、全員死刑から生かす方向に、無能で私腹を肥やしたやつは別です」


 死刑確定だったのか……。やっぱそういうとこだろ、カルマンさん?部下の手綱は握っておいてくれないと。

 ふと、ロデオをするカルマンさんの姿が浮かんだが想像では笑顔で手を振っていたので大丈夫だろう。好きにさせて締めるときは締めてるんだろう。


「カール様は何処が相容れないのですかな?死刑は撤回したしましたしもっと歩み寄れるでしょう、貴族制度の解体ですか?さすがに初代皇帝陛下から悩みの種ですから問題が起きるのはわかっています。これは良い着地点を見つけたいですね」

「それはまぁそうだ、襲爵はともかく爵位の授与をされた人間は現役でいる。断る人間もいるが……。それに襲爵したうえで代々功績を出してる農家系貴族などは貴族としての統治は別として食糧増産や品質改良に領の予算を使って励んでいる、急に自腹になったら大変だろう?その手の研究が意味があるかどうかはわからないものだからな、いざ問題が起きた時やっておけばよかったでは困る。軍人系貴族も活躍しているものもいるし……自腹で精鋭化した領軍を養えん。貴族制度廃止後貴族と同じ仕事をさせたら意味がいなからな、看板を変えても仕方ない」

「そこは我々も悩んでいるところです、そのための妥協案が無能貴族の排除です。ここまでは賛同していただけると思います」

「無論、ただ私もアランに任せているからな……排除される側になってしまうかもしな」

「御冗談を、アラン家宰に任せる判断ができてここの統治もうまく出来ているのに無能では……私が想定しているより多くのものを殺すことになってしまいます、ああ、いや……穏健案するんでした」


 書類仕事も出来ないやついるのか?うーん貴族は闇が深い、そりゃ恨まれるわ。この程度の書類くらい見りゃわかるだろうに。大まか把握してサインするだけだぞ。もしくはもっと噛み砕いて書くだけだ。国語のテストでそういうの出ないのか?

 異世界で活躍できる要素見つかったかと思ったけど文官は普通にやってるから貴族としては程度だな、うーんこの能力の低さ。


「中央集権化ですか?まぁ貴族主権派が盛り返したら両刃の剣ですからね。統制の取れる組織として議会を作りたいのですが」

「官僚と大臣に平民出身者のほうが多いから正直あまり意味がない、完全に貴族制度がなくなってから考えるようなことだが」

「そうなんですよね、地方分権につながるから議会のシステムをどうするかが目下の議題です。地方分権なぞ、ろくなものではないのは無能貴族を見ればわかりますよ。中央集権とのバランスが難しいのです。だから目下のところは無能貴族刈りと平民のための法改正を推進しているわけですが」

「それは反対はしない、法も適切なら。最も官僚でもないから私の意見なぞ無意味だが」

「いいえ、カール様はまるで議会の運営を知ってるように話すので頼りになります」


 異世界転生者探しか?疑われてるか?深く聞かれると俺は知らないとしか言えんぞそんなもん。


「議会が権力を持ち議員が権力を持ったら結局貴族化するだけだろう、現状で回しておけばいい」

「ふーむ……そうでしょうか」

「議会が法を作るだろう?自分たちに不利な法は作るまい」

「そうすると平民が国を滅ぼすので安心ですな」

「そして議会制を廃止してまた貴族制度が復活するだろうな、だから初代皇帝のころからうまく回らなかったわけだしな」

「平民に変えてもうまくはいかない……ですか……」

「初代皇帝陛下もおっしゃったではないか、血は腐ると。議員も続けば貴族のようになるだろう」

「そういうものですか」


 知らん。前世で2世議員いたなって思ったからそう言っただけだ。実際能力があるかないかも俺は知らん。政治のニュースより睡眠時間のほうが大事だったしな、今は新聞読む時間の方が大事だが。

 それもここ最近仕事ばっかで新聞読むのがやっとだしな。本の一つでも読みたいところだがこの領主館は書斎がない、あるけど面白そうな本がないから困る。家系図や鉱脈関係の書籍ばっかだ。


「では騎士団を影響下に収めること自体は別に反対ではないのでは?」

「謀反に当たるかもしれんし、カルマン国土局長との関係がある」

「ふむ……書類仕事を変わりにやる代わり騎士団に影響力を行使できるか聞いてみます」

「誰に?帝都か?」

「それはもちろん、上司のカルマン国土局長です」


 何いってんだ?


「いけます、私ならそれくらいするに決まってるんですから局長もわかってるでしょう」


 カルマンさん、ご愁傷さま。

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