大変そうですね
「朝も早くから何かありましたか?トーチャ副団長」
「これはカール様……このような時間に申し訳ありません……こちら、除隊後にしでかした元領軍を処理した記録です……その…‥騎士団の担当者が書類を積み上げてまして……えぇと……」
待ち時間にどれだけ言葉責めをされたんだろうか、副団長と言うよりは無茶苦茶な納期を設定された挙げ句結局間に合わなかった昔の上司のようだ。前世では辞職してたが騎士団の副団長ともなればきっと耐えるだろう。頑張れ、頑張るのは俺じゃないから頑張れ。
「どうも騎士団の皆さまは本来提出する書類を溜め込んでいたようで……賊を殺した書類なぞ本来は大したことはないのですが……カール伯爵閣下がご存知ではない状況というまさかの説明不足に驚いております」
あれ?ドント臨時秘書さん?俺が責められてる?違うよな?
「はい……部下が出していると思いまして……手紙でも書いておりませんでした……今後は部下を教育し……」
「副団長はこの手の書類処理に自信がお有りですかね?」
「いいえ、側近に任せています……」
「ではどう教育なさるのでしょうか?出来ないのですよね?補給と統治を担当するカール伯爵に連絡なさらないのはどういうことなんですかね?討ち漏らしは絶対ないのですよね?連絡なさっていないのですから」
「いえ……全員討ち取ったとは報告を……?」
「本当に?では今後なにかがあった場合は元領兵ということはないのでしょうね?」
「現状で問題を起こしていない領兵のことは……討ち取ったものの中にはいないと思いたいのですが……」
「帝国軍側の報告が今朝届きましてね……ええ、ちゃんと書類の形式ですよ。領兵が盗賊化しかけていたので処分したと、問題を起こさず帰領する人間や、山道開発で雇われて向かう人間は見逃して数えたが騎士団側の報告がないから数百人単位で街道以外の道を通った可能性があると。多少は……10人20人、50人?まぁ齟齬はあるでしょうね、領軍の退職も落ち着いて我々が数を把握したのがこの前ですから、それで?確認されてる347人を討ち取ったのですか?把握できていないのですか?」
「把握できておりません……」
「何人ですか?」
「230人までしか把握できておりません」
「ああそれはそれは……117人は何処へ?」
「まだ書類ができていないのかもしれません……」
「出来たから持ってきたのではないですか?」
これ俺いるか?
とりあえず受け取った書類を見て……計算ミス多いな……ええと?この村で30人、こっちで13人。逃げたやつを森で捕まえて処断。書き間違いも多いしよっぽど必死でやってきたな。戻ってすぐ取り掛かって朝イチで副団長が来たのか、そりゃ誤字も脱字も計算ミスもあるわな。その点もあってドント臨時秘書は怒ってるのかもしれない。
あー……まぁ算盤使わんでもいけるだろ、暗算はめんどいから正の字でいいか……。
「終わったぞ、書類ミスが多発してるから直した。書式はこちらに合わせて作り直した、大半は内容が重複していて無意味だった。討伐人数は289人。周辺の村に住み着いて届け出を出してる人間がいるらしいが、騎士団が届けることになっているがこれは知らないな」
「……」
「どうした?ドント臨時秘書?出来上がったものを持っていってくれ。あとトーチャ副団長、緊急時でないなら遅れてもいいからまともな書類にしてください。それと周辺の村に定着した人間の報告をお願いします。届け出を出して騎士団が請け負ったのでしょう?これで人数の齟齬は減りますよ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
本当に書類仕事ダメなんだな。俺も一応騎士団員だから上に出ることもできるだろうに……カルマンさんからよほど絞られてるのかもしれないな。
ちらりと書類を見たドントは書類を持って何処かにいってしまった。提出しにいったかな?説教に疲れたもしれない。
トーチャ副団長痩せた?
「ドント臨時秘書って兄が付けた人材ですよね?いつもあんな感じですか?」
「怒ってあんなふうにやってるのは昨日始めて見ましたね、この不備はなぜですか?」
「…………」
「別に怒ってるわけではありませんよ、騎士団も書類作成は必要でしょう、なぜこんなことに?」
「領内を纏めるためにいろいろ派遣したのですが……書類仕事がうまいやつを優先的に送ったので……本部の仕事は少ないので」
「本部の仕事が少ない?」
「その……こちらに送っていたので……補給とか……色々と……」
そりゃドントもブチ切れるわ。俺が決済しない分の仕事に紛れ込ませてたんだろうな、流石に騎士関係の仕事を処理した記憶はない。ないはず、多分な。
おそらく途中で感づいたドントが最低限の書類仕事も出来てないことに激怒したんだろう。流石にドントが騎士団の書類をやらされてることに気が付かないとは思えないしな。
「あの……カール様……?」
「書類仕事が出来ないのですか?計算ができないのですか?」
「計算ができないということはないと思います……学校で学びますし……書類仕事が苦手なんだと思います……学校で習わなかったので」
たしかにそんなの習わねぇよな、前世も学校で納税の仕方なんて教えてなかったし企業向け企画書の作り方だって大学で習った記憶もないわ。
「騎士団学校みたいなのはないんですか?」
「その程度で騎士団員になれるわけがありませんから、半分くらいは帝国軍で選抜されて騎士団員になるので」
「じゃあ帝国軍の書類仕事は誰がやってるんですか?雇ったりですか?」
「帝国軍事学校で学んだか専門学校から軍務省に入った人間か、士官学校でも習いますが」
「……ではなぜ?」
「士官学校に入る前に剣の腕でこっちに来たので……専門学校も軍事関係しかやっていないもので……」
「つまり普段はちゃんとできる人材はいるのですね?」
「はい、それはもちろん……」
「帝国軍から借りられませんか?」
「向こうもカツカツで……」
「…………」
事務方って大事だろ!何やってんだよ!もう少しそこの層を厚くしろ!前の敗戦でこの辺の事務方も消え去ったな?
「とにかく書類はあらためてよろしくおねがいしますよ」
「あの……書類仕事得意な人間を借りれませんかね……?」
「ドント臨時秘書に聞いてください。人事は彼に任せていますから」
絶望した表情でトーチャ副団長は帰っていった。多分この醜態はカルマンさんに届くだろうな。めちゃくちゃ下手に出てたし。
同じことで叱られた経験があるんだろうな、問いかけへの返し方だけは早かった。
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