再編
「軟弱ですな」
「おっしゃるとおりです」
まさか9000人が2000人にまで減るとは……まだ調練だけだぞ?このあと士官並の教育を詰め込むのだが本当に大丈夫か?助け合いの精神も足りないし……薄情すぎないか?戦友を背負ってきて訓練をこなすくらいの情がないと背中を預けられない……。
うーむ……これは確かに総司令官閣下も全権を委任するだろう、それにしても思い切りがいいが。
「クレマンソー二等兵、どうするべきだと思う?予想以上に減ってしまった。士官教育で減ることは想定していたがこちらで減るのは計算外だ」
「士官教育の方で減る予定だったのですか!?」
「うむ、新帝国時代の比率を考えるとこちらのほうが大変だ」
「一応やってみますか……?」
「そうだな、徹底的にやれ、それが総司令官閣下のご命令だ」
しかしここまで減ってしまうと流石に報告するべきか?9000人の弱兵より100人の強兵を作るとはいえ……本当に100人になるのは問題だと思う。任されてるとはいえ想定より被害が多かったら報告書では済まんだろうからな……よし、報告に向かおう。
「只今、伯爵は騎士団の方とご会談中です、ここでお待ち下さい」
「承知いたしました」
騎士団か、クレマンソーを2等兵にしたことか?それとも領軍の解体か?なんにせよ私の責任であろう。呼び出されたら向かうよう立って待つか。
まったくその気配はないな、話は盛り上がっているようだ。罵声もなければ物音もない。まさか総司令官が討ち取られたか?
その時は騎士団の人間を討ち取るか……。
しばらくすると会話が終わったのか騎士団の人間が退出した。
「お、おお……ウインドウ司令官か……調練は……いや、私が聞いても仕方ないな、カール様は中にいる。いい上司を持ったな、頑張ってくれたまえ、うん」
「はぁ……」
領軍の立ち位置的には騎士団のほうが上だがどうも接し方がわからないようだ。政治的なことは担当していないようだ。まぁ、横柄じゃないだけ新帝国の消え去った騎士団よりはマシだろう。まともなやつは反乱に加わって殺し回っていたしな。
「失礼いたします」
「どうかしたか?」
「実は……領兵が2000人近くまで減りました」
「そうか、それで?」
なんという精神性だ……。7000人も辞めたのに驚いてもいない……。総司令官とはかくあるべきという態度だ。官僚ではない貴族とは思えない。
「士官教育を始めたら更に減ると思われますが……」
「ん?調練だけで減ったのか?」
「はい」
「……そうか、逆よりはよかろう?」
「経験上、士官教育のほうが人は減るのですが……」
「そうか……まぁ構わん、全てウインドウに任せる。100人でも戦えるのなら構わん。他に?」
「他にはありません」
「ならそのまま続けてくれ」
「御意」
「ああ、そうだ……新帝国式より厳しくしてもいいが甘くはするな、誰も残らなくても構わない」
「……御意」
なんということだ……新帝国式より厳しくても構わない?誰も残らなくてもいい?何を考えているんだ……。
「補充などは……」
「ジョストン領都に帰ってからだな、そういえば辞めたやつは何処へ言ったんだ?徒歩で帰ったのか?」
「辞める意思を見せた後も宿舎にいて食事をしていたので叩きのめしました、出ていったかと。それ以降は普通に引き払って出ていったので徒歩で帰ったのでは?」
「…………そうか」
辞める兵にも気に掛けるとは……最低限の調練もこなせないのなら後ろ指を指されるというのに……。
「騎士団にも伝えたが……新帝国と戦って勝てるレベルにして欲しい」
「はっ!」
「文官系の私が戦場に出ることはおそらく今後はないだろうが、領軍は出る。勝つために必要なことはすべて行え、必要なことはすべて言え、報告が無用のことは報告しなくていい。領軍としての仕事、これをこなせることが第一だ」
「御意」
「他に必要なものは?」
「帝国の士官教育用の資料と新帝国の資料をお願いいたします!」
「手配する、2000か?」
「一応その数でお願いします、おそらく減るとは思いますが……」
「なに、意外とこちらのほうが減らないかもしれないぞ?」
「クレマンソー二等兵、士官教育はなぜこうもうまくいくのだ?」
「さぁ……?新帝国と帝国の教本をすり合わせて使えるところを選別したからですかね?」
「いや、大体は士官教育で躓くのだが……」
「たしかに一般兵からしたら高度かもしれませんが……ついていけなくなるほどとは思えませんが……」
そうか、一般的な学力の差か!新帝国は知恵を捨てて剣を磨き、帝国は知恵を磨き剣も研ぎ始めた時期だったのか。
しかし平民階級ですら……いや、本来は平等なのだから平民階級もそれなりに……この思考自体が新帝国がダメだった証だな。
ということは……。
「現状どれくらい残っているのだ?」
「100人も脱落していないのでまだ2000人はいますよ、最近は除隊が多いので正式な数を把握してないもので」
「それでいいのか?」
「これだけ減ったら把握するまで好きに辞めさせてしまおうとドント臨時秘書もおっしゃっていたので」
なんということだ、雑すぎるといいたいが必要なものはすぐ届くし……領軍自体の問題だろうな。教育後には領軍の人事を司る部署などを領軍に一任するか伯爵家が持つかなど話さねばならぬことがいっぱいあるかもしれない。
経理はどうするか?伯爵家の派遣か?領軍で賄うか?
いや、そんな未来のことはいい。命ぜられたのはこの連中を立派に育てあげるだけだ。後のことは人数が確定してからでいい。
ジョストン帰領がいつかはわからんが今は調練と士官教育の二本でやる。
それが司令官の仕事だ、新帝国では将官ですら身の回りのことをするのにしなくなっていた。ここではそうはさせん。
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