俺はお前を信じる

 領軍の解体、その知らせは帝国軍や騎士団に激震を走らせた、らしい。もっとも報告当初はウチの文官たちも騒いでたが俺が許可したとわかるととたんに静かになった。


 これか権力の味か……!?

 単にクソガキがなんかやってるから知らん、どうせ死ぬだろくらいの冷めた感覚だったら終わりだが。

 これしか方法がないだろ、俺の口からはいえないけど弱すぎるんだよ領兵が!相手が強すぎるなんていいわけになるか!?前の戦いでウインドウ以外はそんな無双してくるタイプじゃないって知った今となっては単純に負けただけだと理解してるわ!


「領軍解体の動揺が走っています、敵地……」

「敵はもういない、騎士団も帝国軍もいる。我々が臨時統治中のドルバーニュ領都の管理はそこまで兵が必要だったか?それならどちらかに頭を下げて兵を借りてこよう」

「いえ、不要です……そうではなく、騎士団が意図が読めず困惑しています」

「我々が騎士団の意図を読めたことがあったか?向こうが読めないからなんだというのか?私はウインドウ司令官に委ねた。彼の意図が読めない?結構じゃないか、騎士団すら読み切れぬ計画があるということだ」

「領軍解体を読めるのはカール様くらいでは……?」


 読めるかそんなもん!逆に聞くが皇帝が任命した総司令官が預けられた帝国軍を解体すること予想してるか?するわけないだろう、お前は俺を何だと思ってるんだ?

 トンボの羽むしる感覚で領軍解体するサイコパス領主だと思われてるのか?まぁやったのは俺じゃないが。


「普通は軍事全権を委ねられた後で領軍を解体なんてしませんよ」

「普通ではないということだ、結構。敵を欺くにはまず味方から、勝利に必要なら何でもやればよい」

「クレマンソー指揮官も一兵卒に落とされましたが……」


 マジかよ……いや、マジで?


「流石に領軍に不満が溜まっています。クレマンソー元指揮官は幸いなことに率先して調練に取り組み高評価を得ていますが……」

「具体的に?」

「3000名近い退職者が……希望者も大勢……領軍は解体されたので正しくありませんが5000人を切りました。正確な数字が必要ですか?」

「構わん、6000人に勝てない1万人より6000人に勝てる5000人だ、戦場外で明日には消えてるような人数に意味はない」

「……そう、うまく行くでしょうか?」

「数だけ抱えていても仕方がない、財布は別なのだ。減ることに文句はあるまい?1000人になっても構わん。それが1万人に勝てるなら口を挟む理由はない」

「それは……」

「新皇帝は20:1の帝国に勝利した相手だ、いずれは戦うことになるだろう、そのときにあの1万の兵を連れて前の敗戦時より活躍できるのだろうか、どちらの敗戦も含めてだぞ?」

「…………」

「新帝国式の調練について来れる人間が誰もいないのなら領軍なぞなくても同じだ、ウインドウ司令官一人送り込めば終わるのならあとはいらん」


 実際、こうも馬鹿げた人間がいたらもう認めるしかない。ウインドウが最後に与えた損害は500以上1000以下、この情報すらまともにわかってない。ほぼ個人の損害が500も狂うか?小隊か個人かあやふやとはいえだぞ?

 新皇帝とか武力がおかしなやつは異世界転生者かチート持ちと雑に考えていたがこれが新帝国の中佐レベルということは、こっちが圧倒的に下なだけだ。これが特筆して優秀なら大きな権限で最低でも大佐か准将にでもするだろう。

 まぁ新皇帝もやたらビビられてるからやっぱり異世界転生者かチート持ちかもしれないんだけども。ゲールさんもあの感じだとやっぱ異質な強さの枠なんだろうな。

 彼があの戦果で中佐ならばこそ、領の軍事力の底上げができるかもしれん。なにせ犠牲すら定かではないのはこちらの能力不足としか思えんからな。

 それにドントもクレマンソーも声たかだかに恐れることも褒めることもしていないあたりぶっ壊れ性能ということでもないんだと思う。


 ウインドウが特筆して優秀な指揮官か何かだったら引き抜かれるかなにかしてる、すくなくとも鉱員なぞやってはいない。帝国の出仕を拒むのならそもそも俺に仕えようとは思わないはずだ、やる気を出したのは会談後だしな。


「今後何をしようと私はよほどのことがなければ口は挟まない、強い領軍を作るために弱い領軍を解体しただけで騒ぎすぎだ」

「ではそのように……伝えておきます……騎士団の方に」


 あっ、そういえば関係者排除したかもしれないんだっけ……?




「トーチャ副団長の代理で赴きました、第1騎士団長ガルバンです」

「ガルバン第1騎士団長、ここを預かるカール・ジョストンです。伯爵位を授かっております」


 これ俺が立場は下でいいんだよな?平騎士団員だし……伯爵として用事があるかわからんけど領軍のことなんて言うんだろうなぁ……


「早速ですが……副団長は忙しく私が代理で派遣されました。要件は一つ領軍の解体に関する真意です」

「わかりませんね、私は彼にすべてを委ねた。責任こそ取りますが真意は領軍の強化以外にありません」

「ではその責任者を呼んでいただけますか?」

「調練中ですので今は無理です」

「なるほど……たしかに急な訪問でしたからね……」


 この人、こんな賢い会話できたんだなぁ……トーチャ副団長とコントやってるイメージしかなかった。


「実際、領軍解体はカール様のご指示ですか?」

「いいえ?好きにはさせましたが」

「ここでですか……?一応は敵地なのですが?」

「敵はもういません、板としても騎士団も帝国軍もおります。何を恐れることがありましょうか?弱い領軍を抱えることは、いない敵に備えるより不安です」

「弱い……」

「事実です、数の差も活かせずあのザマです。騎士団がいない状況で我々が勝ったと言えるでしょうか?」

「騎士団がいなかったら別の手を打ったのでは?」


 その場合は何しても結局負けただろう、ウインドウの攻撃を除いても勝っていなかったんだから。


「いなかったときのことは考えても無駄でしょう、将来の作戦計画と違って過去にここに軍がいなかったらどうしたかなぞ無用な考察です。研究者にでも任せておけばよろしいかと」

「まぁ、確かにそうですな……」


 この人もいつもの感じに戻ってきたな……。


「しかし、我々の推薦したクレマンソーを兵卒に落とすとは思いませんでしたが」

「彼なら頑張っていますよ、すべての過程を終えたら返り咲くでしょう、そうならなかったとしたら新たな人材の新たな才能が開花したことになるのです、喜ばしいではないですか」

「しかし……」

「頭が切れる人間と武力に自信がある人間が領軍にいるとなにか問題でも?」

「それはありませんが……やり方が過激すぎませんか?」

「任せたからにはそうすればよいのです。必要なことは実行するのが帝国というものでしょう」

「……」


 パッションで押せるタイプだな。脳筋はこれに限る!


「いずれ新帝国と戦う際に私が戦場に行っても仕方ありますまい?かといってあの1万を送り込んでどうするのですか?少なくても新帝国と同じ調練をした兵を送り込んだほうがよほど良いと思います」

「新帝国と……!?」

「私が成人したころにはなにかあるでしょう、私が戦場に出る意味はありませんが、それを整えるのは仕事です」

「戦場にはでないと?」

「私の将としての能力は低いので、彼に任せて彼が求めるものを整えるのが仕事になるでしょう」

「なるほど、たしかに将来省庁勤めをするカール様を戦場に連れて行ったり返したりするのは帝国の損失になるやもしれませんしな……」


 お、ということは入省すれば戦争から遠ざかれるか?まぁハードルは高そうだが新皇帝と最前線で顔を合わせるよりよほどいいだろう

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